海外競馬ニュース 2021年10月21日 - No.39 - 2
バーイード、クイーンエリザベス2世Sを制して欧州最強マイラーに(イギリス)[その他]

 多くのことが約束され、なおさら多くのことが実現された。躍動するクイーンエリザベス2世S(G1 アスコット)で、バーイードがパレスピアを破って勝利を手にしスーパースターの領域に入ったのだ。

 この優れたパフォーマンスは、英ダービー(G1)がすっかり終わってしまうまで競馬場に脚を踏み入れたことがなかった無敗の3歳馬から引き出された。そして、それは彼に最も近い人々にとって十分に受け止められないほど多くのことを証明した。

 ウィリアム・ハガス調教師は「何と言ったらいいのでしょうか。まだ少し震えています」と述べた。3月に亡くなったハムダン殿下が生産したもののそのレースぶりを一度も見ることができなかった馬について目にしたことを表現する言葉を、彼は探していた。

 ウィナーズサークルでは、ハムダン殿下の友人やアドバイザーたちが呆然とした様子で祝福し合った。それは、目の前で繰り広げられた驚くべき光景と、その光景を一番分かち合いたい人物が今ここにいないという事実によって、お互いが言葉を詰まらせている様子を表していた。

 ハムダン殿下の長年のレーシングマネージャー、アンガス・ゴールド氏は「ご存じだと思いますが、私はちょっと感情的になりがちなのです」と言い、ほどなく冷静さを失って涙を流していた。

 「最後の50ヤード(約46m)では、ハムダン殿下がどれだけこの光景を好まれたことだろうかと考えていました。チーム、殿下のご家族、そして殿下が亡くなった年に残したレガシーにとっても、とても大切な日になりました」。

 これまで多くの偉大な馬がハムダン殿下の青と白の勝負服を背負ってきた。バーイードはムーランドロンシャン賞(G1)を制してその勝負服を背負った最新のG1馬となっていた。ただその根性が本当に試されるのは、英チャンピオンズデーの熾烈極まる状況で強敵パレスピアと対戦するときだと考えられていた。

 パレスピアの後ろにつけたバーイードは落ち着きはらったジム・クロウリー騎手を背に道中生き生きと、また熱心に走った。パレスピアの手綱を取るフランキー・デットーリ騎手は、この新星がどれほどの調子であるかを確認するために腕の下からこっそり覗いていた。

 その答えは「あまりにも良すぎる」というものだった。クロウリー騎手はレースが残り4分の1となったところで最速マイラーのパレスピアを全速力で抜くためにバーイードのぎょっとするような末脚を炸裂させ、2頭はトップを奪い合うために終盤で突然スピードを上げた。

 クロウリー騎手もアスコット競馬場もこの日を祝い、チャンピオンズデーを観戦した人々もこのような盛大なタイトルの祭典で競うのにふさわしい馬による最高レベルのレースを堪能できた。

 バーイードの勝利は、クロウリー騎手がこの日に挙げる3勝のうちのひとつとなった。同騎手はこう語った。

 「バーイードは世界チャンピオンになれると思います。彼はまさに野獣のようで、どんどん進化しています。魔法のようでしたね。人々は彼が短期間でこれほど大きく成長したことを忘れていると思います。あんなにいい馬に乗れるなんて、最高の気分ですよ」。

 ハガス調教師は、クロウリー騎手が理想には程遠いと見なした馬場で、バーイードがパレスピアを決定的に破ったことにもっと驚いていた。

 「バーイードはあの馬場状態を得意としていたというよりもうまく対処したとジムは言っていました。彼は欧州最強マイラーを打ち負かしたのです。レースを見ながら、ずっと歩き回っていましたね。1万歩を目標にしていたのですが、今日はそれをはるかに超えてしまいましたよ」。

 秋のあいだにかなりの頭数のシャドウェル所有馬が売却される予定である。しかし、ゴールド氏はシャドウェルの競馬事業は"かなり大きい規模で"運営され続けるとくりかえし、バーイードが来年の主力馬となる可能性が高いと述べた。

 「来年も彼を走らせることをつねに計画してきました。彼はこれまで使い込まれてきたわけではありせんし、要求されたことをずっとこなしてきたのですから、来年競走生活を続けない理由は見つかりません。ハムダン殿下のご家族も、ヒッサ王女もこれを支持しています」。

 「優良馬は残しておきたいと思っています。また来年に調教し始める1歳馬もいます。他の大半の馬主に比べると、かなり大きな規模になるでしょう」。

 バーイードが2022年にパレスピアと対戦することはなさそうだ。パレスピアを共同で手掛けるジョン・ゴスデン調教師はレース展開を不満に思っており、この4歳馬が種牡馬入りすると考えていた。

 「フランキーはペースが遅いと言っていましたが、遅すぎるほどでした。彼はもっと早くに仕掛けていけばよかったと後悔しています」。

 「周りの馬の様子をうかがいすぎました。フランキーだって分かっていたと思います。パレスピアは種牡馬入りする可能性が最も高いと思います」。(訳注:パレスピアは来年にダーラムホールスタッドで種牡馬入りすることが決定した)

 3着に入ったレディボウソープにも引退が近づいている。ウィリアム・ジャービス調教師は、「キャリアベストのパフォーマンスだったと思います。1着馬と2着馬はおそらく世界最強マイラーですので、私たちの馬は世界第3位のマイラーです。彼女がいなくなると寂しくなりますね」と語った。

By Peter Scargill

[Racing Post 2021年10月16日「'He's just a beast' - Baaeed holds off Palace Pier in epic QEII battle」]