海外競馬ニュース 2021年09月30日 - No.36 - 2
セントマークスバシリカ、種牡馬入りのために引退(アイルランド)[生産]

 3歳傑出馬セントマークスバシリカは愛チャンピオンS(G1 9月11日)で凱旋門賞(G1)1番人気馬タルナワを破った後、種牡馬入りするために引退することとなった。エイダン・オブライエン調教師はこの馬のことを、バリードイル(クールモアの調教拠点)でこれまで管理した中で最強馬かもしれず、クールモアにおいてガリレオ以来最も重要な種牡馬になるかもしれないと言い表した。

 セントマークスバシリカは現役馬として最高レーティングの1頭であり、3歳シーズンを無敗で引退することになる。仏2000ギニー(G1)と仏ダービー(G1 ジョッケクルブ賞)を制してクラシック二冠を達成した後、エクリプスS(G1)と愛チャンピオンS(G1)も勝利で飾った。

 セントマークスバシリカ(父シユーニ)は英インターナショナルS(G1 8月18日 ヨーク)への出走を目前にひかえていたときに、調教中に前肢の蹄鉄が外れて後肢に当たるというあまりない走行中のアクシデントに見舞われてしまいこのレースを回避した。

 やがてその怪我から回復して愛チャンピオンS(レパーズタウン)でタルナワとポエティックフレアに挑んで壮烈な勝利を収めた。その後調教を本格的に再開したときに痛みが再発したため、競走馬としてのキャリアに終止符を打って前途有望な種牡馬としてのキャリアを開始するという決定がなされた。

 オブライエン調教師はセントマークスバシリカの優れた才能と引退させる決定について、本紙(レーシングポスト紙)にこう語った。「驚くべき馬で、私たちがこれまでバリードイルで管理した中でおそらく最強馬ではないでしょうか。私たちにとって、彼はガリレオ以降でバリードイルを引退したどの馬にも負けない傑出した馬です。なぜなら彼はシユーニ産駒だからです。父からスピードを受け継ぎ、落ち着いて加速することができました。また、母父のガリレオから強い闘志を受け継いでいました」。

 「彼は愛チャンピオンSを終えて堂々とした様子でしたが、調教を本格的に再開したときに痛みが再発してしまいました。そのため彼を引きとどめなければなりませんでした。チームで話合い、どういう状況にあるかを伝えました。しばらく彼を軽く動かして様子を見て、それについて話し合いました」。

 オブライエン調教師は、セントマークスバシリカが愛チャンピオンSの最後の直線で右に寄れてしまったのは、英インターナショナルSの前に負ったその怪我のせいではないかと主張した。

 「愛チャンピオンSで右に寄れてしまったのは怪我のせいかとチームに聞かれました。それは明らかに左後肢で、彼はその部分に違和感をもって走っていました。だから"そうではない"と言い切れないと伝えました。一旦その話をやめたのですが、彼らはさらに2日間そのことについて考えました。そして今朝彼らと話したところ、いちかばちかで挑戦させるには危険が大きすぎると判断しました。それは理にかなっています。なぜなら、彼にあのような走り方をさせたのはそれが原因ではないとは言い切れないからです。彼にとって間違った決定だとは言えませんでした」。

 セントマークスバシリカは昨年、欧州最優秀2歳牡馬となった。3歳にならなければ本格的に活躍しないかもしれないと思われていたが、フランキー・デットーリ騎手を背にデューハーストS(G1)を制して2歳シーズンを終えた。

 セントマークスバシリカは仏2000ギニー(ロンシャン)でゴールを猛スピードで駆け抜けて優勝し、3歳シーズンを始動させた。その翌月に再びフランスに遠征し、仏ダービー(シャンティイ)を制した。これらのレースではいずれもイオリッツ・メンディザバル騎手が手綱を取り勝利に導いた。

 エクリプスS(サンダウン)ではライアン・ムーア騎手が鞍上を務め、セントマークスバシリカは視覚的に最も強い印象を与えるパフォーマンスを達成した。衝撃的な末脚でミシュリフとアデイブを撃退したのだ。

 ラストランとなった愛チャンピオンSでは、最後の直線に入って長らく右に寄れていたにもかかわらず、ふたたび見事な加速力を見せつけタルナワを阻止した。

 ムーア騎手はこの馬に乗るときのスリルについてこう語った。「本当に才能あふれる馬で、実際乗るのが楽しく、ジョッキーにとって夢のような存在でした。とても落ち着いていて、合図を送るとたちまち加速しました。彼は猛烈なダッシュでG1・5勝を果たし、今年彼が達成したことは非常に素晴らしいものでした」。

 「英インターナショナルSの前にちょっとした故障があったのは残念です。昨年の2歳だったときはコロナの状況のために簡単ではありませんでしたが、レースに出走したさいには私たちが求めていることをすべてこなしてくれました。彼は素晴らしく、いつも乗るのがワクワクさせられる馬でした。すごいことを成し遂げたのですから、とても懐かしく思い出されることでしょう」。

 オブライエン調教師はセントマークスバシリカにガリレオの特徴をはっきり見られると述べたが、彼の最大の強みは粗削りなスピードだった。

 名伯楽はこう語った。「頭を突出して下げて走るという点で、典型的なガリレオの特徴をもつ馬です。それはガリレオが最も得意としたことでした。それにシユーニから明らかにスピードを受け継いでいます。加速するのに優れた才能をもっています。だからこそ、愛チャンピオンSに出走したときにどれだけペースが遅くなっても気にならなかったのです。スピード勝負で負けるとは思っていなかったので、どのような展開でも彼にとってはいつも同じだったのです」。

 オブライエン調教師はセントマークスバシリカがガリレオ系に代わる選択肢になることについて、「ガリレオの牝馬に種付けさせられませんが、一世代離れれば可能です。そのため、ガリレオの牝馬を母とするスノーフォール(父ディープインパクト)のような牝馬には種付けできます。1世代離れれば交配できるのです。それが彼をワクワクさせる存在にするのです」と述べた。

 クールモアのデヴィッド・オローリン氏は、セントマークスバシリカの種馬場における重要性についてこう語った。「彼はその母父であるガリレオ以来、私たちが競走から引退させた最もエキサイティングな将来の種牡馬です」。

 「欧州の最優秀2歳牡馬であり、世界最高レーティングの3歳馬の1頭です。トップ種牡馬シユーニの産駒であり、1歳のときに130万ギニー(約2億475万円)の値がつきました。また、優秀なマグナグレシアの半弟であり、この兄弟の母は2歳で重賞優勝を果たしたガリレオ牝馬キャバレー(Cabaret)です。彼にはあらゆる素質があり、クールモアの繁殖牝馬群からも素晴らしいサポートを受けることができるでしょう」。

By David Jennings

(1ポンド=約150円)

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