凱旋門賞トライアルデーは、愛チャンピオンズウィークエンドに比べれば大きな注目を集めるのに苦労しているかもしれない。しかし、出走馬確定前オッズで欧州最高峰レースの1番人気でありつづけた馬が最終リハーサルに参戦するとなると、どうしても期待したくなるものだ。

　しかしヴェルメイユ賞（G1）発走の2分半ほど後には、スノーフォールが6月最初の週末から守ってきたトップの座が明け渡された。そしてコーラル社は英ダービー馬アダイヤーの凱旋門賞（G1　10月3日 ロンシャン）でのオッズを4.3倍とし、新たな１番人気馬に君臨させた。

　スノーフォールは同じブックメーカーにより今やオッズ7倍がつけられている。前評判に応えられない馬は今後も出てくるだろう。しかし、見事なパフォーマンスを見せたティオナにフランキー・デットーリ騎手が一度も迫ることができず、スノーフォールが完敗して2着馬として戻ってきたとき、並木道のパドック周辺には"信じられない"といった感覚があった。

　ロジャー・ヴェリアン調教師は、ティオナがミュージドラS（G3　ヨーク）と英オークス（G1　エプソム）の両方で負かされた征服者に対しまったく立場を逆転させたことを「ショックだ」と告白した。

　しかし、このことをティオナ（父シーザスターズ）への信頼の欠如と混同してはならない。ヴェリアン調教師と馬主のアリ・サイード氏は彼女がミュージドラSで3着に終わった3日後の5月15日に凱旋門賞への登録を行っていた。当時、競馬界の半分はライアン・ムーア騎手が勝利をうまく手に入れたのではないかと考えており、スノーフォールはバリードイル（クールモアの調教拠点）の凱旋門賞登録馬リストに入っていなかった。

　デットーリ騎手は、このレースがスノーフォールの強さを発揮できる展開ではなかったと感じていた。ホリー・ドイル騎手とコンビを組んだペースメーカーのラジョコンドは一定のペースで進んでいたが、下り坂に差し掛かったときに明らかにペースを落とし、すぐにその後ろでジョーンオブアークとティオナが並んで控えてしまったのだ。

　デットーリ騎手はこう語った。「位置取りが後ろすぎました。それにペースメーカーに乗ったホリーは、十分なスピードで走っていなかったと思いました。ちょっとしたスプリント戦になってしまい、オリヴィエ・ペリエに追い抜かれてしまいました。単純なことだったんです」。

　スノーフォールがエプソムで騎乗したのと同じ牝馬だと思うかと聞かれて、デットーリ騎手は笑いながら「明らかに違うね」と答えた。

　ティオナはウィンザーのリステッド競走で見事な逆転勝ちを収めた2週間後に、このレースに臨んだ。ヴェリアン調教師がこの馬の火がついてしまうような気性をまだ気にしていたなら、この牝馬をリラックスさせるのにペリエ騎手は適任者だった。

　ヴェリアン調教師はこう語った。「ホリーがもっと速いペースで走っていれば、さらにいっそうティオナにとって良い展開になっていただろうと言えます。とても優秀な牝馬です。この結果がまぐれだとは思いませんね」。

　「スノーフォールが全力を発揮したかについては、そうでなかったと言うこともできるでしょう。しかし英オークスはティオナに向いたレースではなく、彼女は状況に対応できませんでした。それでもとても優秀な牝馬です。いつもそう言ってきました。だからこそ、今日の結果にはとても満足しています」。

　コーラル社はティオナの凱旋門賞でのオッズを17倍としているが、凱旋門賞ウィークエンドにはいずれも牝馬限定戦のオペラ賞（G1　2000m）とロワイヤリュー賞（G1　2800m）という選択肢もある。

　ヴェリアン調教師はこう語った。「彼女が得意とするのは2400mだと思っています。もちろん、馬主のアリ・サイード氏や厩舎のチームと相談します。彼女にはあらゆる選択肢があります。なぜなら、私たちは彼女の能力を信じているからです。今日は彼女が良い結果を出したことをとても嬉しく思っています」。

　「凱旋門賞を検討すべきでしょうが、重馬場の場合は能力を発揮できないと思います。彼女を凱旋門賞に登録しておいて良かったです。これから2週間ほどは何も決断する必要がありません。とても将来が楽しみな牝馬で、あと1～2年は厩舎にいてほしいと思っています」。

　「彼女が今年の凱旋門賞に出走するかどうかは、今後2週間がどうなるかを見守るしかありません。しかし、今日は彼女のパフォーマンスには満足しており、彼女がG1を制したことも、厩舎としてヴェルメイユ賞で優勝したことも喜んでいます。勝って嬉しいレースです。今日は楽しくすごすことになりそうです」。

　パリの太陽が輝き続くのであれば、楽しみはまだ終わらないのかもしれない。

By Scott Burton