海外競馬ニュース 2021年09月16日 - No.34 - 1
セントマークスバシリカ、審議を乗り切り愛チャンピオンS優勝(アイルランド)[その他]

 愛チャンピオンS(G1)は期待したとおり、はらはらするものの賢明なものとなった。しかしまたもや、看板となるG1レースがどの馬が最強なのかという本題についてへの回答を示す一方で、走行妨害ルールについての多くの疑問を投げかけることとなった。

 手に汗握る愛チャンピオンSで、熾烈なスプリント戦が決勝線まで繰り広げられ、セントマークスバシリカがタルナワに打ち勝った。これは同馬が今シーズン最強の3歳馬の称号をさらに強く主張するのに大いに役立つ。しかしその際、コースを大きく外に横切り、レパーズタウンのよく手入れされた芝コースの8レーン目まで横断し、行き着くところまでタルナワを一緒に押し出した。

 タルナワと接触したわけではなかった。それに、不注意騎乗で1日の騎乗停止処分を受けることになるムーア騎手は正しい方の手で鞭を持っていた。ただ馬をまっすぐ走らせるために努力するようなこともなかった。なぜそうしようとするでしょうか?ルールでは馬が横に逸れるのを騎手が止める義務はなく、ムーア騎手は2レース前のメイトロンS(G1)では反対に被害を受けた立場にいた。しかし愛チャンピオンSでは恩恵を受け、セントマークスバシリカにG1・5連勝を達成させたのだ。

 エイダン・オブライエン調教師はこのレースの10勝目を挙げた。同じように劇的な争いとなった愛チャンピオンSでガリレオがファンタスティックライトに敗れてから20年後のことである。

 このレースは明らかにスローペースで、ケビン・マニング騎手がポエティックフレアを控えさせた後、伏兵のパトリックサースフィールドが先頭に立った。ムーア騎手はポエティックフレアを追跡し、コリン・キーン騎手はタルナワをそれらの馬に追随させた。

 最終コーナーでは主役3頭が並びかけていた。それはまるでゴムひもが完全に引っ張られたぱちんこ(Y 形の棒にゴムひもをつけて小石などを飛ばす)を見ているようで、セントマークスバシリカは中でも最速力で飛び出した。

 セントマークスバシリカは残り80ヤード(約73m)ほどの地点でポエティックフレアをとらえ、タルナワを寄せつけなかった。2着となったタルナワが斜行によりどれだけ怖気づいたかということが裁決委員たちを大いに悩ませたが、¾馬身もの着差が審議の結果を出やすくしたことは間違いない。

 2着馬を手掛けるダーモット・ウェルド調教師は、審議の結果がアガ・カーン殿下の牝馬に不利なものだったことに見るからにイライラしており、こう語った。

 「コリンは自分が勝つと思っていました。勝利ジョッキーが謝ってきたと言っていましたね。それにライアン・ムーアの左手を見ると、馬を横にジリジリと寄らせています。自分が何をしているのかよく分かっているのです。タルナワはコースの中ほどまで押し出されてしまいました。ライアンは馬をまっすぐ走らせ続けるためにもっと努力できたはずです」。

 「裁決委員がそういう決定を下したのですから、私は受け入れますし、アガ・カーン殿下も同じでしょう。とても残念に思っていますが、次に進むだけですね」。

 このような騒動のさなかで見失ってはならないのは、セントマークスバシリカがいかに優れているかということだ。2020年デューハーストS(G1)優勝馬は、仏2000ギニー(G1)と仏ダービー(G1 ジョッケクルブ賞)の栄冠も獲得している。7月にはエクリプスS(G1)も制し、現役を続けている現時点においてバリードイル(クールモアの調教拠点)から台頭した最もエキサイティングな牡馬の1頭としての地位を確立した。

 オブライエン調教師はセントマークスバシリカの進路についてはっきりしたことを言わなかったが、同馬を競馬場で見るのがこれで最後でも不思議ではないだろう。クールモアには埋めなければならないガリレオの穴が開いており、このシユーニ産駒はまさにクールモアのチームが切望する種牡馬候補である。彼は怪我のために英インターナショナルS(G1 ヨーク)を回避したが、回復してここで新たに見事なパフォーマンスを見せた。

 このレースに単勝1.8倍の1番人気で臨んだセントマークスバシリカについて、オブライエン調教師はこう語った。「まさにひときわ優れた馬です。彼を手掛けることができて本当にラッキーです。これからは安全な状態に保って、種馬場に送り出すことができます。私たち全員にとってとてもエキサイティングなことになるでしょう」。

 「彼はガリレオの強みをすべて持ち合わせています。つまり誠実で、ストライドを伸ばすように指示すると頭を下げます。それにピヴォタル産駒のシユーニからスピードを受け継いでいるので、スピードと強い意志が見事に融合しているのです」。

 同調教師は追いつ追われつのレースを振り返って、「最終コーナーを回ったとき、どの馬も引き金を引く準備をしていることが分かりました。矢を飛ばすために引いていたので、そのときに最速のスピードを持っていた馬が勝つことになります」と語った。

 それがセントマークスバシリカであることが証明されたのは初めてのことではなかった。英チャンピオンS(G1 10月16日)での同馬のオッズが4倍から3倍に下げられている。彼がそのレースに出走するかどうかはまだ不明である。

 それでもこのレースでも彼は優秀で、その素質はジョー・ライアンズ(Ger Lyons)調教師とジェシカ・ハリントン調教師だけがこの日のすべての勝利を独占するのを阻止した。オブライエン調教師の顔を立てる必要はほとんどないが、もしあと一勝したいのなら、彼が最も重要と考える一戦は勝ちとると信じて良いだろう。

 ウェルド調教師にとって、最も重要な一戦は凱旋門賞(G1)であり続けている。彼はここでタルナワを走らせて良い結果になると思ったことを後悔させられたが、また別の日があるだろう。

 「後悔先に立たずで、彼女を闘い続けさせることを考えたのです。コリンに言わせれば、まったくシンプルなことで、内側で勝負すれば勝てただろうと思ったそうです」。

 「しかし今年はずっと凱旋門賞を目標としていて、これまで勝利の方程式だったものを変えたくありませんでした。それで、あのような乗り方を指示したのです。今では"すべての道はロンシャンに通ず"です」。

By Richard Forristal

(1ユーロ=約130円)

[Racing Post 2021年9月11日「Weld rues tactics as St Mark's Basilica survives inquiry and Tarnawa challenge」]