海外競馬ニュース 2021年08月26日 - No.31 - 1
ミシュリフ、英インターナショナルSを制して英国G1初勝利(イギリス)[その他]

 その間にまるで何も起こらなかったように、この地にふたたび観客が戻ってきた。男性も女性も、若者も高齢者も、地元民もよそから来た人々も、誰もが一張羅を身にまとい陽気な雰囲気を満喫している。ブラスバンドが演奏し、第1競走のハンデ戦でヨーク巧者の熟練馬コッパーナイト(Copper Knight)が直線を駆け上がる。

 イボアフェスティバル初日の午後は、観客が最後にこの特別なヨーク競馬場(ヨークシャー州ナヴェスマイア)を代表する開催に立ち会ってから、まるで時が止まっていたかのようだった。それはそれでとてつもなく素晴らしいことだった。

 去年は違っていた。レースは施行されて力強い勝負が展開されたが、新型コロナウイルスのために観客はいなかった。馬主はレースに立ち会うことが許可されており、何人かのブックメーカーはどうにか生計を立てようと奮闘していた。それでも、ここが開かれた公共の場であることを利用したこうした少数のグループを除いて、人影は消えていたのだ。

 ウィドネスから来ていたジョンとリンダはキャンプチェアーさえも用意していた。それらを内馬場のハロン棒の近くの見晴らしの良い場所に置いたが、周辺にトイレはなかった。

 「ただ飲み物を制限すればいいんです」と、ガイヤースが英インターナショナルS(G1)でライバルたちを圧倒するのを見ていたジョンは説明した。ヨーク競馬場の常連客のほとんどはそれを見られなかった。幸いにも、ついに彼らはここに来て、最も充実した状態にあるミシュリフを見ることができた。

 エクリプスS(G1 サンダウン)で敗れたときは体調が戻っていなかった。キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1 アスコット)で敗れたときは必要なスタミナが不足していた。英インターナショナルS(ヨーク)ではすべてが完璧に彼の適性に合っていて、ジョン&サディ・ゴスデン親子が何ヵ月も前から予想していたとおりになった。

 ミシュリフにはこれまで見たことのないような輝きがあった。それは中東で超高額賞金を獲得したときでさえも見られなかった。彼はまったく支配的な強さを見せ、重要なことだが、今回の勝利は母国で成し遂げられた。デヴィッド・イーガン騎手(22歳)にとっては英国での初のG1制覇となり、これまでで最も甘美な勝利となった。

 今回の勝利は、イーガン騎手にとってこれまでのどの勝利よりも大きな意味をもたらし、リヤドやドバイで高額賞金レースを制覇したときよりもミシュリフの評価をかなり引き上げた。このことは財政的な影響力に欠くとはいえ、英国競馬の名声は依然として単なる金銭よりも価値があることを私たちに思い出させてくれたはずだ。

 ミシュリフはサウジカップで優勝して730万ポンド(約10億9,500万円)を獲得した。その1ヵ月後、ドバイシーマクラシック(G1)を制して220万ポンド(約3億3,000万円)を獲得した。英インターナショナルSの優勝賞金は56万7,100ポンド(約8,507万円)で、ヨーク競馬場の賞金の中でも気前の良いものなのだが、ミシュリフの生涯獲得賞金にとってはわずかな増加率にしかならない。しかし名声に関しては、芝とダートの両方で実績を残して稀有な存在となっていたミシュリフにとって、この勝利は目覚ましい飛躍を意味していた。

 ジョン・ゴスデン調教師が愛チャンピオンS(G1 レパーズタウン 9月11日)を回避すると示唆していることもあり、ミシュリフの次走は凱旋門賞(G1 ロンシャン10月3日)か英チャンピオンS(G1 アスコット10月16日)になるだろう。それは、エクリプスSでミシュリフを破ったセントマークスバシリカの陣営にとって必ずしも悪いニュースではない。このスター馬は英インターナショナルSで再び偉業を達成することが期待されていたが、故障により厩舎にとどまった。

 これはタイムリーな一撃だったのかもしれない。エクリプスSでの着順が再現されるだろうと自信を持って主張できたのは、勇気のある人だけだっただろう(訳注:エクリプスSではセントマークスバシリカが1着、ミシュリフが3着)。今回3着に入ったのは、セントマークスバシリカの同厩舎馬の中で極めて評価の高いラブだった。その奮闘ぶりにもかかわらずラブは敗れた。同じく奮闘したアレンカーは6馬身差の2着を確保した。大満足のウィリアム・ハガス調教師が今やアレンカーの凱旋門賞挑戦に意欲を見せていることは、2着馬も3着馬も決して恥ずかしい負け方をしたわけではないことを示している。

 人々はイボアフェスティバルを訪れ、素晴らしい光景を目の当たりにしてきた。ピーター・イースタービー元調教師(92歳)は、誰よりも長い間、つまり現在英インターナショナルSと呼ばれるレースの第1回目(1972年)でロベルトがブリガディアジェラードに衝撃を与える前からも、それを体験してきた。彼はこの日の午後、50年目を迎えるこのレースに立ち会うためにヨーク競馬場に戻ってきて、優勝馬ミシュリフをウィナーズサークルで賞賛した。元調教師は「これ以上の馬はいないでしょうね」と美辞麗句で述べた後、「チャンピオンです」という一言にすべてを集約した。

 その数分後、ライバーン・オブ・ヘルムズリー(Ryeburn of Helmsley)のアイスクリームスタンドから、弟のミック・イースタービー調教師(90歳)がコーンを美味しそうに舐めながら歩いていく姿が目撃された。一方、ピーター氏の息子ティム・イースタービー調教師が手掛けるコッパーナイトが第1競走で終始先頭を走って勝利を決めたおかげで、デイヴ・クラブトゥリーという人物がアイスクリームを大量に買えるほどの大金持ちになっていた。

 第1競走が終わって数分後、デイヴが記者室のドアを開けてひょっこり顔を出して見渡しながら、「ジョーはいますか?」と尋ねた。ビングリーで介護職をしているデイヴは知らなかったのだが、彼が探していた人物は、ジャーナリスト、レース解説者、ヨーク競馬場の愛好家として長年活躍したジョー・ローントゥリー(Joe Rowntree)氏で、4月に75歳で亡くなっていた。

 デイヴは私にこう教えてくれた。「レーシングポスト紙のあなたの先輩であるトム・オーライアン(Tom O'Ryan)氏を通じてジョーと知り合いました。ジョーは8年か9年前、ある賭け方を教えてくれました。午前中はどのハンデ戦でも人気上位2頭を無視して、ランダムに他に選んだ5頭を組み合わせて3連単を買うというものです。第1競走でそれを試してみたら、3,750ポンド(約56万2,500円)の払戻しがありました。ジョーにお礼を言いたかったのです」。

 友人であり同僚でもあるジョーが自ら愛した場所からいなくなってしまい、今年のイボアフェスティバルは過去のものとは全く異なる。しかしジョーが言っていたように、8月のヨークは本当に最高なのである。

By Lee Mottershead

(1ポンド=約150円)

[Racing Post 2021年8月19日「Mishriff has won millions but nothing mattered more than this home-soil triumph」]