海外競馬ニュース 2021年06月24日 - No.23 - 3
常態を取り戻す一歩となった素晴らしいロイヤルアスコット開催(イギリス)[開催・運営]

 言いたいことは山ほどあるが、そのすべてが好意的なものだ。それこそがロイヤルアスコット開催が私にもたらしたことである。

 ロイヤルアスコット開催は世界で最も優れた平地競走のフェスティバルであり、またしてもその期待に応えてくれたが、今回はコース上の戦いだけではなかった。

 それは、かつて私たちが当然のものだと考えていたようなレース体験への回帰、ソーシャルディスタンスやマスクなしでいられることへの回帰、新旧の友と会って笑い・酒・極上の喜び・同じ空間を共有することへの回帰だった。さらに、かつて私たちが持っていて今では手の届くところにあるものを取り戻すことだった。それは常態に復することであり、最高なものとなった。

 アスコット競馬場は政府のイベント調査計画への参加をいつものように公共的な精神から受け入れ、大きな信用を得ることとなった。今年のロイヤルアスコット開催は制限された人数しか入場できなかったために、競馬場にかなりの損失を与えながら実施された。それは数十万ポンドではなく、全体で7桁(100万ポンド以上)にのぼる膨大な損失となるだろう。思わず息をのんでしまいそうだ。

 競馬界のキーワーカーには常日頃感謝しなければならないと考えているのだが、アスコット競馬場では毎日のレーシングプログラムに、全レースの全出走馬の厩務員の名前を記載するよう取り組んだ。これは英国の他の競馬開催でも、世界中のどの競馬場でも行われていないだろう。

 数えきれないほどたくさんの人々が称賛を受けるべきだが、中でも馬場取締委員であるクリス・スティッケルズ氏とその馬場管理スタッフチームは、木曜日の夕方に土砂降りになってから、素晴らしい働きをした。スティッケルズ氏は金曜日の朝まで立派に作業を継続した。びしょ濡れになりながらレースを施行できるようにするために柵をどこに移動すればいいのかを見定め、電話にも対応して競馬ファンや関係者に状況を伝え続けていた。彼は私たちに、競馬開催が危険にさらされていると伝えながらも、希望はあると主張した。彼とその部隊は偉大な仕事をしたのだ。

 競馬場で一生懸命働いていた人々も同様だ。接客業界は新型コロナウイルス感染拡大の影響で恐ろしいほどの打撃を受けている。アスコット競馬場には、世界の状況が一変して以降、生計を立てるのにとても苦労している人々も働きに来ていた。記者室で働いていたスタッフが競馬場の隅々で働く同僚たちの状況を映し出すならば(1週間歩きまわった限りではそうしていたと確信しているが)、アスコット競馬場は現下の厳しい状況の中で世間を代表してそこで働く人々を誇ることができるにちがいない。

 彼らのほとんどは多忙すぎて私たちが楽しんだ競馬を目にすることはできなかっただろう。でも個人的な観点から言えば、最高の、あるいは少なくとも最も満足できるものは、最後に残されていた。

 ドリームオブドリームズほどロイヤルアスコット開催週に勝利を期待された馬はいなかった。彼はそれを十分わかっていて、人を喜ばせる活気と趣きでダイヤモンドジュビリーS(G1)を走りきり、そのトレードマークとも言えるやり方でそれを手に入れたのだ。その栄光の瞬間の前後において、祝福すべきことはたくさんあった。デヴィッド・エヴァンス厩舎に転厩してからのロハーン(Rohaan)の出世ぶりは目を見張るものがある。ただ、ウォーキンガムSを制してもまだ山頂には達していないようだ(それにしても、せん馬であるためにコモンウェルスカップへの出走が認められなかったことはばかげている)。

 ワンダフルトゥナイトも上昇中である。この輝かしい牝馬を管理するダヴィッド・ムニュイジエ調教師は、これほど才能豊かな馬を育てあげるのに十分すぎるほどの頭脳をもつ。彼女はハードウィックS(G2)でスリリングな走りを見せた。秋のパリの通常の馬場であれば、彼女が凱旋門賞(G1)を勝てると思う。それに筆者は彼女が勝つことを願っているのだ。

 忘れてはならないのは、馬場状態のおかげで1度に2種類のロイヤルアスコット開催を楽しめたことだ。最初の3日間は、多くの人々が完璧な平地競走向きの馬場と言えるようなものだった。それは見事な料理を盛りつけるための大皿だったが、金曜日と土曜日の馬場にも何ら問題はなかった。ワンダフルトゥナイト、アルコールフリー[コロネーションS(G1)]、アレンカー[キングエドワード2世S(G2)]は重馬場でも本当に優れたパフォーマンスが見られることをはっきり示してくれた。

 凄まじいゴールドカップ(G1)を制したサブジェクティビストはどんな馬場にも対応できる。セントジェームズパレスS(G1)を制したポエティックフレアも同様に素晴らしかった。またラブ[プリンスオブウェールズS(G1)]とパレスピア[クイーンアンS(G1)]は連勝を維持し、私たちにさらなる期待を抱かせた。パレスピアを管理するジョン&サディ・ゴスデン両調教師はこの開催週のランキングの首位に立ったが、広範囲の調教師により勝利は共有されており、これは歓迎すべきことである。

 ロジャー・ティール調教師、デヴィッド・ラフネイン調教師、ギャビン・クロムウェル調教師など26人もの調教師がロイヤルアスコット開催で勝利を手にし、それぞれの競馬人生に特別な意味を持つ一章を加えた。また、ロイヤルアスコット開催で勝つために何億円も費やす必要はないことも再認識された。コヴェントリーS(G2)、クイーンメアリーS(G2)、そしてウィンザーキャッスルS(L)の勝馬はそれぞれ4万ギニー(約651万円)、2万ユーロ(約260万円)、1万ギニー(約163万円)で取引されているからだ。馬主たちは投資に対して素晴らしい利益を手にしている。

 ウェスリー・ウォード調教師が審議の末ではあるものの勝利を手にして米国に帰国したことは、国際的な装いがその大きな魅力の1つである競馬開催にとっては朗報だった。

 同時に、英国競馬界はロイヤルアスコット開催がふたたび華麗なものになっただけでなく35レース中28レースを英国調教馬が制したことからも、歩調を弾ませるべきである。これはチェルトナムフェスティバルの再現ではなかった(訳注:今年のチェルトナムフェスティバルでは28レース中23レースをアイルランド調教馬が制した)。

 ただ全体的には、喜びが分かち合われたという点でチェルトナムフェスティバルとは異なっていた。私たちはこの素晴らしいロイヤルアスコット開催に感謝しワクワクしながら、次のステップに進む。万事うまく行けば、2022年にはさらに何万もの人々が女王の競馬場に集い、最後のG1競走であるダイヤモンドジュビリーSは即位70周年を祝うプラチナジュビリーSとしてさらに壮大な輝きを放つことになるだろう。

 この素晴らしい祝宴が、これから起こるであろうことのテイスティングだったと願うばかりである。それは最高の味わいだった。

By Lee Mottershead

(1ポンド=約155円、1ユーロ=約130円)

[Racing Post 2021年6月20日「How Ascot put on the most marvellous meeting - despite losing millions」]