海外競馬ニュース 2021年01月21日 - No.2 - 2
故アブドゥラ殿下の名馬10頭(国際)[生産]

アロゲート(2013年生 牡 芦毛)

 セリで購買された大柄なアンブライドルズソング産駒は、トラヴァーズS(G1)、BCクラシック(G1)、ペガサスワールドカップ(G1)、ドバイワールドカップ(G1)で優勝したことにより、デビューから1年経たずして世界最高賞金獲得馬になった。

 ボブ・バファート調教師はアロゲートを"フランケルのダートバージョン"と言い表した。2016年トラヴァーズSでの13½馬身差の勝利は、誰もが目を奪われる同馬の最も印象的なパフォーマンスだった。また、2017年ドバイワールドカップでは最後方の14番手から猛追して勝利を成し遂げた。アブドゥラ殿下の米国を拠点とした所有馬の中で、アロゲートは最強だったと言える。

ダンシングブレーヴ(1983年生 牡 鹿毛)

 1歳のときに手頃な価格で購買されたリファール産駒、ダンシングブレーヴは驚異的な加速力に恵まれ、象徴的な地位を獲得した。1986年には英2000ギニー(G1)、エクリプスS(G1)、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1 以下キングジョージ)、凱旋門賞(G1)を制し、輝かしい成績を挙げた。英ダービー(G1)で優勝することも期待されていたが、このレースではグレヴィル・スターキー騎手を背に後方から猛追したものの届かず、シャーラスタニの2着に終わった。

 ダンシングブレーヴの通算成績は10戦8勝。もう1つの敗北は、BCターフ(G1)で喫した。このレースで同馬は精彩を欠き4着に敗れた。最も鮮やかな勝利は、凱旋門賞において挙げられた。残り200mを切ったときに10頭を一気に抜いて先頭でゴールし、ロンシャン競馬場でコースレコードを打ち立てたのだ。その後種牡馬となったダンシングブレーヴは、アブドゥラ殿下の勝負服を背負って1993年英ダービーを制したコマンダーインチーフを送り出している。

ダンシリ(1996年生 牡 鹿毛)

 ダンシリの競走成績にG1優勝がないことははなはだしく不公平だ。同馬は2完歩足りずに2000年BCマイルを勝ちきれなかった。また、4つのG1競走で2着に終わっている。しかしそのことは、ダンシリがアブドゥラ殿下のバンステッドマナースタッドで重要な種牡馬になる妨げにはならなかった。

 秀抜な繁殖牝馬ハシリを母とすることがダンシリの大きな魅力だった。ハシリは、ジャドモントファームの所有馬として活躍したG1馬5頭を送り出した。その中には、BCフィリー&メアターフ(G1)を制した姉妹バンクスヒルとインターコンチネンタルが含まれていた。一方ダンシリは種牡馬として、殿下の2006年凱旋門賞優勝馬レイルリンクを送り出した。

エネイブル(2014年生 牝 鹿毛)

 殿下の最後の傑出馬エネイブルは2017年夏に輝かしい活躍を見せたが、その年の初戦では敗北を喫していた。おそらくそれが、次に起こることを示していた。エネイブルは無敗記録を守る必要がなかったので、その後の4年間に大胆な挑戦を続け、キングジョージ3勝、凱旋門賞連勝を成し遂げた。そして史上初の凱旋門賞3勝馬になることを目指してこのレースに挑み続けたが、2年連続で敗れた。

 エネイブルは驚異的な競走生活を終えるまでに、G1・11勝(2017年に5勝、2019年に3勝)を達成して世界を魅了した。2019年末には、ワールドベストホースランキングで第1位となり(クリスタルオーシャンと同時の首位)、殿下の所有馬の中でこの栄誉に浴した3頭目の馬となった。

フランケル(2008年生 牡 鹿毛)

 長年の競馬ファンでさえも、フランケルはテューダーミンストレル、シーバード、リボーを凌駕する最高の競走馬と評した。ジャドモントファームのこの自家生産馬は強情な性格の持ち主だったが、サー・ヘンリー・セシル調教師に鮮やかに手掛けられ、3年間に14戦14勝を果たした。

 フランケル(父ガリレオ)はG1を9連勝して通算10勝を挙げ、平均着差は約5½馬身だった。とりわけ2012年クイーンアンS(G1)では、G1・3勝馬エクセレブレーションを11馬身差で下してその力量を存分に見せつけた。サラブレッド競走馬のまさに理想である。

ノウンファクト(1977年生 牡 黒鹿毛)

 ノウンファクトは殿下が初めて所有したトップクラスの競走馬で、殿下の野望を刺激した馬として、文句なしのリスト入りを果たした。真っ黒に近いこの牡馬は1979年ミドルパークS(G1)を制して2歳シーズンを終えた。そして翌年の英2000ギニーでは、ヌレイエフの失格により繰り上り優勝を果たした。

 ノウンファクト(父インリアリティ)は、多くの優良マイラーと切磋琢磨し、1980年にクイーンエリザベス2世S(G1)でクリスを破ってその年の4勝目を挙げて引退した。ケンタッキー州のジャドモントファームで供用されたノウンファクトが送り出した最も優秀な産駒は、殿下の自家生産馬でトップマイラーのウォーニングだ。

オアシスドリーム(2000年生 牡 鹿毛)

 どの生産事業体も速い馬を必要とする。その点においてオアシスドリームは殿下が求める中でこの上なく素晴らしい馬だったに違いない。2003年最優秀スプリンターに選出された同馬は目にもとまらぬほど速かった。それは、ミドルパークS、ジュライカップ(G1 コースレコードを樹立)、ナンソープS(G1)で優勝したときに見せつけられた。

 オアシスドリームが引退するときに、ジョン・ゴスデン調教師はそれまで手掛けた中で最速の馬だったと述べた。その称賛が揺らいだのは、ジャドモントファームを代表するもう1頭の優良馬キングマンが出現したときだけだった。オアシスドリームが種牡馬として送り出した最も代表的な産駒は、最優秀スプリンターのムハラーと名牝ミッデイである。ミッデイは殿下に所有されG1・6勝を挙げた。

ウォーニング(1985年生 牡 鹿毛)

 ウォーニングは2歳シーズンに4戦4勝の無敗を守った。その後、1988年クレイヴンS(G3)で衝撃的な敗北を喫したが、ガイ・ハーウッド調教師は時間を掛けて同馬を回復させ、見事に管理した。そしてウォーニングが実り多き年を過ごして最優秀スプリンターとなる栄誉に近づけるように進路を定めた。

 ウォーニングはジャックルマロワ賞(G1)でミエスクに勝てなかったが、サセックスS(G1)、クイーンエリザベス2世S(G1)で優勝した。ウォーニングの母は英オークス2着のスライトリーデンジャラスで、ジャドモントファームの基礎牝馬の1頭である。同馬は他にも殿下のG1馬、ヤシュマク、ダシャンター(Dushyantor)、ディプロイ、前述のコマンダーインチーフも送り出している。

ワークフォース(2007年生 牡 鹿毛)

 ワークフォースは2010年に英ダービーと凱旋門賞を制したにもかかわらず、むらがあったため常に正当に評価されない優良馬であり続けていた。同馬はまったく精彩を欠くパフォーマンスをして敗北を喫することもあった。とりわけ単勝1倍台の人気を背負った2010年キングジョージでは、優勝馬ハービンジャーの17馬身も後ろの5着に終わるという惨敗を喫した。

 しかしながら、英ダービーや凱旋門賞で達成した勝利は世界中のハンデキャッパーから絶賛された。また殿下は生涯で3頭の英ダービー優勝馬を送り出したが、ワークフォースがその最後の1頭となった。

ザフォニック(1990年生 牡 黒鹿毛)

 ザフォニックの爆発的な才能は、強靭な馬体とマッチしていた。非常にたくましいこの馬には、電撃的な加速力が備わっていた。1993年サセックスSで7着となりそのキャリアに突然終止符が打たれるまで、同馬は彗星のごとく輝いていた。

 ザフォニックは絶頂期において無敵だった。デビュー戦を優勝してからモルニー賞(G1)に進んで勝利を収め、サラマンドル賞(G1)とデューハーストS(G1)を楽々と制した。しかしそれらの勝利は、バラシア(Barathea)を3½馬身差で下した1993年英2000ギニーでの見ごたえのある勝利と比べると色あせる。ザフォニックは競走生活を全うできなかったかもしれないが、最高潮に達したときは壮麗な戦いぶりを見せた。

By Julian Muscat

[Racing Post 2021年1月14日「Frankel, Dancing Brave, Enable and more: the champions Khalid Abdullah made」]