海外競馬ニュース 2021年04月15日 - No.14 - 4
英国競馬界がフィリップ殿下を追悼(イギリス)[その他]

 競馬界は一体となって、4月9日(金)に99歳で亡くなったエディンバラ公フィリップ殿下に哀悼の意を表した。殿下は70年にわたり、女王の配偶者として競馬界に影響を残した。

 エイントリー競馬場では騎手たちが黒い腕章を着用し、半旗が掲げられた。また、レース開始前には、馬術の知識ととりわけポロや馬車競技での手腕により尊敬されていたフィリップ殿下のために2分間の黙祷が捧げられた。

 1947年からジョッキークラブの名誉会員だった殿下は、馬主として競馬に積極的に参加することはなかった。しかし英ダービーやロイヤルアスコット開催ではいつも女王に同行した。ロイヤルアスコット開催のデュークオブエディンバラHは殿下にちなんで名付けられた。

 女王の競馬・生産アドバイザーのジョン・ウォレン氏は、「女王は競馬を大いなる情熱の対象とされていますが、フィリップ殿下は馬と生産に大きな関心を抱かれ、女王の競馬関係の訪問に頻繁に同行されていました」と回想し、こう続けた。

 「多くの人が思われている以上に、女王が競馬に熱心に取り組まれる上でフィリップ殿下はとても大きな支えになっていました。殿下は、女王がオーナーブリーダーとして競馬に関わられるのをしっかりと見守られ、毎年ダービーやロイヤルアスコット開催にいらっしゃる女王に快く同行されていました。少し前のダービーデーでは、殿下は朝一番で軍旗敬礼分列式のリハーサルに出席されましたが、それでも女王と合流するためにロンドンからエプソムまで駆けつけられました」。

 「殿下は多くの旅で女王に同行されましたが、ケンタッキーを訪問された際に我々の目の前に現れた数々の種牡馬にすっかり魅了されたようでした。また、女王がフランスの種牡馬をご覧になるためにアレック・ヘッド氏のケネー牧場(ノルマンディー地方)に滞在したときも、私たちと一緒に何日も楽しく過ごされました」。

 「私が馬をご覧になる女王にお供してサンドリンガムを訪れ、帰ってきたときにはいつでも、フィリップ殿下が1歳馬や当歳馬の成長具合を尋ねられました。また殿下は非の打ちどころのないほど礼儀正しいお方でした。あるとき電話で長く話し込んでしまい、切ろうとしたときになってから、殿下がロンドンに戻る前のお別れの挨拶しようとじっと待っていらしたことに気づきました。また、女王の馬が出走しているのをテレビでご覧になるときには、知識豊富な"アームチェア・ジョッキー"としてその場を盛り上げておられました」。

 「もちろん殿下ご自身も素晴らしい馬術家で、女王と同じように馬に魅了されていました。しかしその視点が違うのです。女王はあきらかに競馬を愛されていますが、殿下はポロや馬車競技を愛され、それを得意とされていました。いずれも、共通しているのは馬です」。

 「私と妻キャロラインにとっては、個人的な面でもとても悲しい日です。キャロラインはその父(女王のレーシングマネージャーを30年以上務めた故カーナーヴォン卿)を通じて、殿下のことをずっと存じ上げていました。殿下はとても楽しいお方でしたので、とても寂しく思います」。

 フィリップ殿下の訃報を受け、BHA(英国競馬統括機構)とジョッキークラブは4月10日(土)のグランドナショナルとその他のレースを予定どおり施行することを確認した。騎手たちは黒い腕章を着用し、半旗が掲げられ、2分間の黙祷が捧げられる。なおITVは、グランドナショナルを予定どおりメインチャンネルで放映すると発表した。

 ジョッキークラブのサンディ・ダッジョン(Sandy Dudgeon)理事長は、「フィリップ殿下の訃報に接し、深い悲しみに暮れています。ジョッキークラブを代表して、私たちの支援者である女王陛下と王室の皆様に深い哀悼の意を表したいと思います」と述べた。

 BHAのアナマリー・フェルプス会長は、フィリップ殿下の長年の公務に対して"心からの感謝の念"を述べた上で、「女王陛下と王室の皆様に、つつしんでお悔やみを申し上げます」と付言した。

 1968年グレイハウンドダービーの優勝犬を所有していたフィリップ殿下は、ロイヤルアスコット開催の王室行列の先頭の馬車にいつも女王と同乗し、2012年クイーンズヴァーズ(G3)でエスティメイトが優勝したときには女王にトロフィーを贈呈した。

 アスコットでの女王の代理人サー・フランシス・ブルックは、「このたび、女王陛下と王室の皆様に深い哀悼の意を表します。殿下が女王陛下と多くの場面でご一緒され、勝利の喜びを分かち合っておられたので、ここアスコットにはとても楽しい思い出があります」と語った。

 フィリップ殿下の逝去を受けて、多くの競馬場、競馬団体、競馬に関わりのある政治家から悲しみの声が寄せられた。一方、長年にわたり女王の所有馬を管理したニッキー・ヘンダーソン調教師は、フィリップ殿下を"素晴らしいお方"と表現した。

 同調教師はこう語った。「今日はとても悲しい日です。殿下は素晴らしいお方でした。長年にわたって女王陛下をそばで支えてこられました。一緒にいると楽しいお方でした。競馬が殿下のお気に入りの趣味ではなかったことは認めざるを得ませんが、他の多くの馬関係の活動を大いに楽しんでおられました」。

 「殿下は何よりも、信じられないほどの献身と忠誠心で女王と国に仕えておられました。殿下に感謝の気持ちを伝えるべきだと思いますし、殿下はそれにふさわしいお方だと思います」。

 競馬界に貢献したことで2016年にナイトの称号を授与されたサー・アンソニー・マッコイは哀悼の意を表し、とりわけ2012年ロイヤルアスコット開催でのエスティメイトの勝利とフィリップ殿下の馬術での手腕について語った。

 「何よりもまず、女王陛下と王室の皆様に深い哀悼の意を表します。ウィンザー城で殿下とともにひとときを過ごすことができて、とても幸運でした。殿下はとても興味深いお方ですが同時に好奇心旺盛なお方でした。若い頃は優秀なポロの選手で、馬車競技にも本当に熱心に取り組み熟達しておられました」。

 「競馬においてとても強い印象を残された瞬間は、2012年エスティメイトが優勝した後、殿下が女王陛下にクイーンズヴァーズを贈呈したときだと思います。女王陛下だけでなく競馬界にとっても、かなり特別な瞬間だったと覚えています」。

 フィリップ殿下は2017年、王室関係の公務から退いた。持病の心臓疾患の手術を受けて1ヵ月間の入院生活を過ごしていたが、3月に退院していた。

 王室は殿下の逝去を声明で発表した。「誠に悲しいことですが、女王陛下が最愛の夫であるエディンバラ公フィリップ殿下の死去を発表されました。殿下は今朝、ウィンザー城で安らかに息を引き取られました。詳細は追って発表いたします。王室は世界中の人々とともに殿下の死を悼んでいます」。

 フィリップ殿下と女王の間には、4人の子供、8人の孫、10人の曾孫がいる。

By Julian Muscat and Peter Scargill

[Racing Post 2021年4月9日「'He was such fun' - racing pays tribute to Prince Philip, the Duke of Edinburgh」]