ハムダン殿下は生前ドバイの副首長とアラブ首長国連邦の財務相を務めた一方、毎年セリで数百万ポンドを支出する有力購買者であり、シャドウェルエステート名義で馬を生産する一流生産者でもあった。

　1984年にシャドウェルエステート（ノーフォーク州セットフォード近郊）を購入し、グリーンデザートなどの種牡馬を供用していた。また姉妹事業として、デリンズタウンスタッド（キルデア州メイヌース近郊）とシャドウェルファーム（ケンタッキー州レキシントン）を運営した。

　競馬関係者に対して義理堅いことで知られており、殿下の競馬事業に関わった人々の多くが数十年にわたって殿下のために働いた。殿下はサラブレッド競馬に愛情を注いでいるのと同時に、アラブ競馬の熱心なサポーターでもあった。

　殿下はアラビアンレーシングオーガニゼーション（Arabian Racing Organisation）の支援者である。また毎年最終日がニューベリー競馬場で施行される欧州最高峰のアラブ競馬開催、ドバイ国際アラブ競走（Dubai International Arabian Races）の創設を支援した重要人物でもあった。

　3月24日のシャドウェルの公式声明にはこう記されている。「シャドウェルは深い悲しみとともにハムダン殿下の逝去をお伝えします。殿下は2021年3月24日（水）に安らかに永眠されました」。

　「今こそ、世界中のサラブレッド競馬産業とアラブ競馬産業への殿下の功績と多大な貢献を回顧するときです。殿下の数々の馬を通じてそのレガシーは生き続けるでしょう」。

　「シャドウェルのメンバー全員が、殿下のような義理堅く、寛大で、謙虚で、聡明な方のために働けたことをとても誇りに思っています」。

　シャドウェルのアシスタントレーシングマネージャーであるリチャード・ヒルズ氏はこう語った。「とても悲しいニュースです。物心ついたときから殿下のことを知っていましたので、上司と父を同時に失ったようなものです。殿下は素晴らしい人で、私たちはとても親密でした。アスコット競馬場が大好きなのにもかかわらず、シャドウェルが6勝も挙げた昨年のロイヤルアスコット開催に行けなかったことを殿下が残念に思われていたと聞いています。数週間前に殿下と話したばかりなので、寂しくてたまりません」。

　サー・マイケル・スタウト調教師はこう続けた。「ハムダン殿下は自身の馬について知り尽くしており、深い愛情を注いでいました。英国競馬界に多大な貢献をし、立派なレガシーを遺しました。殿下の死は惜しまれるでしょう」。

　バターシュなど殿下の所有馬を多数管理したチャーリー・ヒルズ調教師は、こうツイートしている。「1月にロックダウンに入ったときに私の家族が無事かどうか聞くために電話を掛けてきてくださいました。また、バターシュがナンソープS（G1）の1勝目を挙げたときに私の息子のジェームズとエディを表彰台に連れて行ってくださいました。それらは殿下の優しさのほんの数例にすぎません。競馬界は最も優れた人物の1人を失いました」。

　アラブ首長国連邦の大統領は3日間の服喪期間を宣言した。これにより、すべての政府部局と政府機関が3月25日（木）から27日（土）まで閉められる。メイダン競馬場は27日（土）の夜に、権威あるドバイワールドカップナイトを開催する予定である。

By Peter Scargill

　（関連記事）海外競馬ニュース2021年No.6「ハムダン殿下、南半球の事業の段階的撤退を決定（オーストラリア・南アフリカ）」
　　　　　［Racing Post 2021年3月24日「Hamdan Al Maktoum, influential owner and breeder, dies at the age of 75」］