海外競馬ニュース 2020年09月10日 - No.35 - 1
オーセンティック、ケンタッキーダービー優勝(アメリカ)[その他]

 ケンタッキーダービーの歴史においてこのレースを6勝したのは、68年にわたり伝説のベン・ジョーンズ(Ben Jones)調教師ただ一人だった(1938年~52年)。今や、同じく殿堂入りトレーナーであるボブ・バファート氏がその仲間入りを果たした。

 9月5日の第146回ケンタッキーダービー[G1 約2,000m 総賞金300万ドル(約3億1,500万円)]において、管理馬オーセンティック(Authentic)が1番人気のティズザロー(Tiz the Law)に競り勝ったことで、バファート調教師は最多勝タイ記録の6勝目を挙げた。

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 バファート調教師が手掛け、最終的に三冠馬となったケンタッキーダービー馬、アメリカンファラオ(2015年)とジャスティファイ(2018年)とは対照的に、オーセンティックの優勝は驚きをもって受け止められた。オーセンティックはそれまで5戦4勝の成績を挙げていたが、"ダービーの距離ではもたないのではないか?"と疑う者もいた。同馬は7月18日のハスケルS(G1 約1800m モンマスパーク)を鼻差で辛勝していた。

 しかし、この辛勝は不幸に見えて実際はありがたいものだったのかもしれない。競馬評論家の一部にオーセンティックのスタミナへの疑問を抱かせただけではなく、ライバルの騎手たちをも油断させたかもしれないからだ。どの騎手もオーセンティックは途中でバテると信じていたようで、レース前半に急いで仕掛けてこなかった。

 オーセンティックはゆっくりとスタートを切ったが、殿堂入りジョッキーのジョン・ベラスケス騎手に急かされることなく、たやすく先頭に立つことができた。ハスケルSで接戦したニューヨークトラフィック(Ny Traffic)からの軽いプレッシャーを受けながらも、先頭に立ち続けた。22秒92、46秒41、1分10秒23とタイムを刻んだのち、オーセンティックはほかの14頭を十分に引き離していたが、1頭だけが迫ってきた。それがティズザローだった。

 オーセンティックが1分35秒02でマイル地点に差し掛かったときには、ティズザローをわずか頭差でリードしていたが、最後の直線では確実な差を保ちつづけ、1¼馬身差で優勝した。勝ち時計は2分00秒61。

 レース後、バファート調教師は感極まっていた。その理由は最多勝タイ記録を達成したからだけではない。もう1頭の管理馬サウザンドワーズ(Thousand Words)をレース前のパドックで制御しようとして腕を骨折した長年の助手ジミー・バーンズ(Jimmy Barnes)氏のことを心配していたからだ。

 バーンズ氏が鞍を着けるのを手伝っていたところ、サウザンドワーズは立ち上がりバランスを崩してバーンズ氏のほうに倒れ込んだ。標準予防措置としてサウザンドワーズは出走取消となったが、バファート調教師はレース後に馬に怪我はなかったようだと述べた。

 バーンズ氏は運が悪かった。

 バファート調教師はかすれた声で、「かわいそうなジミーは今救急車に乗っています。楽しいわけないでしょう。感情がかき乱されています。競馬というゲームには良いことも悪いこともあります。信じられません」と語った。

 オーセンティックはウィナーズサークルで調教師をギクリとさせた。旋回し始めたオーセンティックを避けようとしてバファート調教師は転倒したのだ。怪我はなかったようだ。

 オーセンティックはダービーで逃切り勝ちを決めたが、それは2002年の優勝馬ウォーエンブレム以来である。

 ウォーエンブレムもバファート調教師に管理されており、同調教師にとって、シルバーチャーム(1997年)、リアルクワイエット(1998年)に続く3頭目のケンタッキーダービー馬だった。

 ダービーの勝利回数を伸ばしたのはバファート調教師だけではない。ベラスケス騎手は、アニマルキングダム(2011年)、オールウェイズドリーミング(2017年)に続き3度目のダービー制覇を決めた。同騎手はレース後の記者会見で、バファート調教師の"左手で鞭を使ってオーセンティックを促せば良い"という助言が有効だったことを認め、この名伯楽を称賛した。また、"オーセンティックはダービーの距離ではもたない"というレース前の下馬評を無視していたと語った。

 誰もが同じ幸福感を味わっていたわけではない。ティズザローを管理したバークレー・タグ(Barclay Tagg)調教師は、同馬が主戦のマヌエル・フランコ(Manuel Franco)騎手を背に健闘したにもかかわらず、がっかりしているように見えた。

 そして「結果をどのように受け止めていますか?」と聞かれ、タグ調教師は「ティズザローは勝ちませんでした。バファート調教師は強敵です」と淡々と述べた。

 オーセンティックとティズザローの後には、3着ミスタービッグニュース(Mr. Big News)、4着オナーエーピー(Honor A. P.)、5着マックスプレイヤー(Max Player)、6着ストームザコート(Storm the Court)、7着エンフォーサブル(Enforceable)、8着ニューヨークトラフィック(Ny Traffic)、9着ネッカーアイランド(Necker Island)、10着メジャーフェド(Major Fed)、11着ソレヴォランテ(Sole Volante)、12着ウィニングインプレッション(Winning Impression)、13着マネームーヴズ(Money Moves)、14着アタッチメントレート(Attachment Rate)、15着サウスベンド(South Bend)が続いた[取消:フィニックザフィアース(Finnick the Fierce)、キングギレルモ(King Guillermo)、サウザンドワーズ]。わずか15頭立てのダービーは1998年以来の最少頭数である。

 今年のケンタッキーダービーにファンは入場できなかったが、競馬場はレース運営に不可欠な競馬場職員・調教師・調教助手・厩務員などのほかに、メディア・馬主・馬主のゲストの入場を制限つきではあるが認めていた。

 同時に、競馬場の外では抗議者が今年ルイビル警察に殺害された黒人女性ブリアナ・テイラーさんへの正義を訴えていた。ケンタッキーダービーはケンタッキー州とルイビル市にとって一大イベントであり、抗議活動の舞台となっていた。

 警察がセントラルアベニュー沿いの至近距離で抗議者を監視しており、チャーチルダウンズ競馬場は抗議者が入場しないようにしていたが、社会に変化が必要なことを認めていた。出走馬がパドックから出たとき、アナウンサーのトラヴィス・ストーン(Travis Stone)氏はチャーチルダウンズ社からのメッセージを読み上げ、トランペット演奏者スティーヴ・バトルマン(Steve Buttleman)氏が『ケンタッキーの我が家(My Old Kentucky Home)』を演奏する前に黙とうが捧げられた。

By Byron King

(1ドル=約105円)

[bloodhorse.com 2020年9月5日「Authentic Turns Back Tiz the Law to Win Kentucky Derby」]