海外競馬ニュース 2020年09月03日 - No.34 - 2
早期妊娠喪失に関する研究が飛躍的に進歩(イギリス)[獣医・診療]

 サラブレッド生産者協会(Thoroughbred Breeders' Association:TBA)が資金提供する研究が、繁殖牝馬の早期妊娠喪失の主な原因を突き止めるにあたり飛躍的な成果を挙げた。

 英国王立獣医科大学(Royal Veterinary College: RVC)の馬妊娠研究所の所長マンディ・ド・メストル(Mandi de Mestre)博士が主導する研究は、早期妊娠喪失の症例を検査したところその相当数において"異数性"として知られる染色体異常が生じていたことを明らかにした。

 ド・メストル博士はこう説明した。「異数性は、染色体数の異常に関係します。これは人間の女性にも生じ、妊娠が初期段階で喪失する原因となるか、生理学的差異を生じさせる不均衡をもたらします。これは、人間におけるダウン症候群を引き起す原因と同様ですが、現在ダウン症候群にはスクリーニング検査(出生前検査)ができます。」。

 同博士は研究背景について解説した。「このアイデアを最初に思いついたのは10年も前のことです。獣医師たちと話していて、早期妊娠喪失の症例の約80%が原因不明であることに気づいたのです。早期とは、胎児・胎盤が形成されて臓器が発達する妊娠初期(2ヵ月)の期間です」。

 「私たちの知識には、大きなブラックホールがありました。それが出発点となり、TBAはまず早期妊娠喪失の研究方法を開発するために助成金を提供しました」。

 「RVCには優秀なチームがいます。私たちは早期妊娠喪失を追跡できる方法について、ニューマーケット馬診療所(Newmarket Equine Hospital)、ロスデールス馬診療所(Rossdales Equine Hospital ニューマーケット)、馬繁殖サービス(Equine Reproductive Services ヨークシャー)の獣医師たちと密接に取り組みました。結果として2016年に、発症した牝馬を見分けることができるということを論文で発表しました。それにより、何が早期妊娠喪失を生じさせているかについての問題に取り組むことを可能にするプロジェクトを仕上げられました」。

 同博士は研究結果についてこう語った。「染色体数を数えたところ、検査した早期妊娠喪失のサンプルの20%強において染色体数の異常が確認されました」。

 「その重要性を出発点に立ち戻って考えると、早期妊娠喪失の症例の80%についてそれが生じた原因がつかめなかったのですが、今やサンプルの4分の1は原因を解明することができるようになりました。これは早期妊娠喪失の根本的原因が何かを理解するにあたり大躍進だと感じています」。

 「次のステップとなるのは、牝馬にスクリーニング検査ができるようにするために診断検査を開発し、費用対効果が高くて速やかな方法を考え出すことです。それにより、馬主は次に何をすべきかを知るために情報を活用できます。安心させられるのは、繁殖牝馬に異数性が原因で妊娠喪失が生じても、それは長期的な問題ではないということです。なぜなら、サンプルを検査した多くの牝馬がその後出産しているからです」。

 ド・メストル博士は研究を結実させるため尽力した全ての人々に感謝を表明した。「この研究は多大な労力を要しました。シャルロット・シルトン(Charlotte Shilton)氏は幅広いチームの援助によって、異数性が生じた妊娠を特定することに卓越していました」。

 「私たちはテキサスA&M大学の世界的レベルの遺伝学者、英国とアイルランドでこの研究に熱心に打ち込む多くの獣医師、この研究に参加した生産者とも緊密に取組みました。そして助成金を提供してくれたTBAに感謝したいと思います。その助成金がなければ研究は不可能だったでしょう」。

By Andrew Scutts

[Racing Post 2020年8月20日「Good news for breeders with breakthrough in equine early pregnancy loss research」]