海外競馬ニュース 2020年08月27日 - No.33 - 3
ケンタッキーダービー、最終的に無観客で開催(アメリカ)[開催・運営]

 チャーチルダウンズ競馬場はこれまで、観客を迎えてケンタッキーダービー(G1 9月5日)を開催する予定だった。しかし8月21日、同レースをはじめダービーウィーク(9月1日~5日)を無観客で実施することを発表した。

 チャーチルダウンズ競馬場は、ダービーウィークには不可欠な職員と出走馬関係者しか入場できないとし、馬主に関するルールについては明確に述べなかった。

 同競馬場は8月12日、アンディ・ベシア州知事が承認した厳格な新型コロナウイルス感染防止策の下で観客数の上限を2万3,000人としてダービーを開催する意向を発表していたが、その後方針は変更された。

 この夏、チャーチルダウンズ競馬場があるルイビル市では、今年3月に黒人女性のブリアナ・テイラーさんがルイビル警察に銃撃されて亡くなったことに対する抗議デモが繰り返されている。抗議者の中にはダービー中止を求める者や、ダービー当日にデモ行進を計画する者がいた。それらの抗議活動は今後も実行される可能性がある。

 ダービーは、感染防止策としてファンの入場を禁じた数々のスポーツイベントが載った長いリストに名を連ねる。歴史あるモータースポーツイベント「インディアナポリス500(8月23日)」や、ゴルフのメジャー選手権の1つ「マスターズ・トーナメント(11月12日~15日)」も無観客での開催となる。これらの動きは、無観客で試合を実施する野球のメジャーリーグ(MLB)やNBAバスケットボールの決定に続くものである。チャーチルダウンズ競馬場の春開催もウイルス感染拡大のために日程を延期され(5月16日~6月28日)、無観客で実施された。

 チャーチルダウンズ社(Churchill Downs Inc.:CDI)は声明でこう述べている。「ケンタッキーダービーは長い歴史をもつ米国の伝統的なレースであり、常にたくさんの人々を魅了してきました。しかし、私たちはチーム・ファン・参加者の健康と安全を第一に考えています。CDIはこの数ヵ月間、観客数を制限して安全なダービーを開催することを計画してきました。その計画に自信を持っていましたが、入手できる最良かつ確かな情報を活用した上で柔軟に対応できるように心掛けてきました」。

 「現在ルイビル市と郡全体で感染者が急増しており、もう一度計画を再検討する必要がありました。そのため、9月5日のケンタッキーダービーを無観客で実施するという苦渋の決断を行いました。チャーチルダウンズ競馬場とそのチームは皆、ルイビル市民としての連帯責任を強く感じています。それは、この困難な時期に我々のコミュニティの健康と安全を守るために確実にできることを全て行うことです。無観客でのダービー開催がその責任を果たすための最も良い方法だと考えます。熱心なファンを失望させてしまうことを非常に遺憾に思います」。

 CDIとベシア知事は8月、ダービーの"有観客開催"の計画を進めたことで、厳しい批判にさらされていた。ルイビル・クーリア・ジャーナル紙のコラムニスト、ジョセフ・ガース(Joseph Gerth)氏は、「チャーチルダウンズ競馬場は人々の健康よりも利益を重要視し、ベシア知事は寝返ってその計画を進めることを承認した」と書いた。

 ダービーの"有観客開催"を認めたことは、これまでベシア知事が感染拡大との闘いにおいて取ってきた他の措置とは大違いである。同知事は8月10日に「州内の学校は9月28日まで校内での授業を再開すべきでない」と勧告していた。

 ベシア知事はチャーチルダウンズ競馬場の発表に添付された声明において、同競馬場はダービーを無観客で実施するという正しい決定を行ったと述べている。

 「ケンタッキー州では今なお感染が急激に拡大しています。ホワイトハウスはジェファーソン郡とルイビル市を感染拡大が深刻化する"レッドゾーン(危険区域)"に指定しました。今週だけで郡の新規感染者数は2,300人を超えました」。

 「チャーチルダウンズ競馬場がウイルスを監視し続け、正しく責任ある決定を下したことを称賛します。私はすべてのケンタッキー州民に、感染拡大を食い止める行動を取るようにお願いしているところです。そうすれば、ケンタッキーダービーのような我々が楽しんできた多くの伝統を取り戻すことができます」。

 ケンタッキーダービーとダービーウィークはチャーチルダウンズ競馬場と市および州に利益をもたらすものであり、全米各地から観光客を引き付ける。ルイビル観光局(Louisville Tourism)はケンタッキーダービーシーズンの地域への経済効果は4億ドル(約420億円)以上と見積もっている。しかし、わずか2万3,000人がこのレースを観戦したとしても、それはかなり減少してしまうだろう。昨年のダービーの入場者数は15万729人、前日のケンタッキーオークス(G1)開催日の入場者数は10万5,719人だった。

 ルイビル市長のグレッグ・フィッシャー氏は8月20日、感染者数の高止まりが続いていること、そして市内での抗議デモが予想されることを理由に挙げ、ダービーには出席しないと述べた。

 チャーチルダウンズ競馬場のケヴィン・フラナリー(Kevin Flanery)会長は8月21日の記者会見でこう語った。「ルイビル市は現在、たくさんのつらい経験をしています。苦しんでいる人々が大勢います。私たちは以前から言っていますが、すべての人々にとっての平等・公平に関する良好な対話を求めています。それは重要なことです」。

 チャーチルダウンズ競馬場はその声明において、「5月初旬から、ノートンヘルスケア(Norton Healthcare)の医療専門家にデータを提供してもらうなど、公衆衛生局と相談しながら、ケンタッキーダービーに関する決定を行ってきた」と述べた。同競馬場によれば、ノートンヘルスケアでは7万人以上の患者が検査を受け、その陽性率は6月には2%だったが、最近では10%に急増している。

 ノートンヘルスケアの理事長兼CEOのラッセル・コックス(Russell Cox)氏はチャーチルダウンズ競馬場の声明でこう述べている。「我々のコミュニティにとって重要な時期です。非常に流動的な状況であり続けています。すべてのイベントは、開催日にできるだけ近い時期に出されたデータに基づいて評価しなければなりません。私たちはチャーチルダウンズの決定を称賛しており支持しています」。

 チャーチルダウンズ競馬場によれば、ダービーウィークのレース開催日と関連イベントのチケット購入者には自動的に払戻しが行われる。

 CDIのCEOビル・カースタンジェン(Bill Carstanjen)氏は、「今年のケンタッキーダービーはこれまでのような祭典にはなりません。しかし、素晴らしいチームメンバーとコミュニティのパートナーが尽力してくれたことに感謝してもしきれないぐらいです。あらゆる可能性を調査し、最良の決定に至りました。今後数週間にわたって、競馬ファン・ルイビルのコミュニティ・米国が今年直面している課題を熟考する機会を見いだし、より良く安全な将来に向けて一丸となって取り組むことを望んでいます」と語った。

By Byron King

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[bloodhorse.com 2020年8月21日「Kentucky Derby to be Held Without Fans」]