海外競馬ニュース 2020年08月06日 - No.30 - 4
禁止薬物使用を発覚させる馬生物学パスポート(アメリカ)[獣医・診療]

 ケンタッキー大学のグラック馬研究財団(Gluck Equine Research Foundation)は、馬生物学パスポート(EBP)を開発している。この計画は、ペプチドおよびプロテインの量の変化を観察して、薬物使用を発覚させるバイオマーカー(指標となる生体内物質)を特定し、それらのバイオマーカーを長期間観察することを目指すものである。

 グラック馬研究財団は7月20日の声明において、このEBP計画の目標を以下のように記している。(1)ケンタッキー大学における馬研究レベルを引き上げる。(2)方針転換や薬物検査プロトコルに影響を与える基盤として役立てる。(3)サラブレッド競走馬への薬物・治療薬の影響をより詳しく理解する。

 馬薬理学・毒物学科の教授であり馬分析化学研究所の所長であるスコット・スタンリー(Scott Stanley)博士は、こう語った。「この数年間、私たちは馬への薬物使用をめぐってネガティブな報道がされているのを見てきました。研究科学者として30年間にわたり規制目的の薬物検査を実施してきた経験から、私たちのチームはこれが現在解決できない問題であると認識しています。新たに出現する禁止薬物に対応するために新規の薬物検査を開発しようとするものの時間が掛かり、いつも後手に回っていることは分かっています。それに、各馬が異なる速度で薬物を代謝することも心得ており、そのことが標準的なクリアランス期間・休薬期間を分かりにくくさせます。その上、環境要因、人間の相互作用、現在の薬物検査手続きに影響を及ぼしうる数百もの変数があります」。

 「EBP計画は、新たな禁止薬物を即刻特定し、競走馬への生理作用を測定することを可能にする手段です。これらのデータは、競馬産業のイメージを汚して評判を傷付けかねない意図的な薬物投与と偶然の薬物混入を区別するのに重要な意味を持ちます」。

 声明には、「EBP計画は、今後範囲を拡大し、新たな課題に対処できるような柔軟性をもつ発展的な研究計画である」と記されている。グラック馬研究財団は今後数年間にわたって、競馬産業にとって有益な将来の手段となるように、EBP計画の正当性を立証してひきつづき精緻化させる。さらにそれは、違反者を告発できるようにし、かつリスクのある馬を出走させないようにするための、ルール変更を後押しするのに必要となる科学的データを提供するだろう。

 EBP計画はストーンストリートファーム(Stonestreet Farm)から10万ドル(約1,050万円)の資金提供を受けている。

 ストーンストリートファームのバーバラ・バンク(Barbara Banke)氏はこう語った。「我々の牧場は、公正確保、公平な条件へのコミットメント、そして何よりも馬の健康への取組みに誇りを持っています。馬生物学パスポートは、競走当日検査・競技外検査の完全な情報開示を提供する包括的計画となるでしょう。私たちはEBP計画に10万ドルを提供します。そしてすべての利害関係者に対して、競馬産業の将来への投資として、税控除のある資金援助を考えるように促します」。

By Blood-Horse Staff

(1ドル=約105円)

[bloodhorse.com 2020年7月20日「Gluck Foundation to Develop Equine Biological Passport」]