海外競馬ニュース 2020年07月30日 - No.29 - 1
エネイブル、英国で最後に走る姿は観客に披露できるか?(イギリス)[その他]

 エネイブル(牝6歳)は7月25日、アスコット競馬場で史上初のキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)3勝を達成した。これを受け、カリド・アブドゥラ殿下(エネイブルのオーナーブリーダー)のレーシングマネージャーであるテディ・グリムソープ(Teddy Grimthorpe)氏は、今年も同馬に現役を続行させるという決断は正当化されたと述べた。

 ソブリン(Sovereign)とジャパン(Japan)を寄せつけずに3回目のキングジョージ優勝を決めたエネイブルは、今度は史上初の凱旋門賞(G1)3勝を目指すだろう。凱旋門賞(10月4日 ロンシャン)に先駆けエネイブルは8月に英国でのラストランを行うことになるが、グリムソープ氏は観衆がこの名牝の勇姿を見られることを望んでいる。

 ジョン・ゴスデン調教師はエネイブルのキングジョージ優勝後、同馬が昨年の凱旋門賞でヴァルトガイスト(Waldgeist)に苦い敗北を喫したときに"もう一度このレースに挑戦させたい"と表明したアブドゥラ殿下のスポーツマンシップを称賛した。

 エネイブルは今年初戦のエクリプスS(G1 7月5日 サンダウン)でガイヤース(Ghaiyyath)に敗れたが、そのときの辛労はレース後の調教での進化とキングジョージ優勝につながった。

 グリムソープ氏は7月26日にこう語った。「アブドゥラ殿下はエネイブルに6歳も現役を続行させることにしましたが、それは勇気ある決定でした。このような素晴らしいレースをしたのですから、これから何が起ころうともその決定は完全に正当化されます。そして、競馬界全体にとって大きな利益になることも望んでいます」。

 「エネイブルは自らが競馬界を代表するような馬であることを示し、感動を引き起しました。それこそが彼女の魅力です。彼女がアスコットでG1馬2頭を破ったことは、軽視すべきことではありません。信じられないほど着実にレースをこなすことも、彼女の長所のひとつです」。

 「このような牝馬に関われるのは大変おそれ多いことです。これほど卓越した馬は、競馬界が華やかなものであり続けるために不可欠だと実感しています」。

 フランキー・デットーリ騎手は、レスター・ピゴット氏の記録に並ぶ"キングジョージ7勝"を達成した。7月26日にヨーク競馬場にいたデットーリ騎手は、前日のエネイブルの勝利を大いに喜び、人々は才能溢れる馬に引きつけられると述べた。

 「言うことなしのパフォーマンスでした。家に帰ってもう一度レースを見て、ふたたび喜びに浸りました。アブドゥラ殿下は凱旋門賞を3勝することを常に夢見ていますが、その途上でキングジョージを3勝できたことは信じられないほど素晴らしいことです。ゴールドカップ(G1 ロイヤルアスコット開催)を3連覇したストラディバリウス(Stradivarius)と同様に、人々は超優良馬のパフォーマンスを見ることを好みます。次は競馬場で観客がエネイブルの疾走を目にすることができると信じています」。

 ゴスデン調教師は7月26日、エネイブルがレースの疲れから順調に回復しつつあると述べ、凱旋門賞に挑戦する前に英インターナショナルS(G1 8月19日 ヨーク)かヨークシャーオークス(G1 8月20日 ヨーク)に出走することになりそうだと述べた。ヨークシャーオークスでは、今年の英1000ギニー(G1 6月7日 ニューマーケット)と英オークス(G1 7月4日 エプソム)を制したラブ(Love)と対戦するかもしれない。

 「エネイブルは好調です。飼葉を残らず食べています。今朝は外へ連れ出したところ、機嫌よく草を食んでいました。今後は彼女の様子を見つつ、両レースを検討して決定したいと思います」。

 「昨年、エネイブルはヨークシャーオークスでマジカル(Magical)と対戦しました。そして今年はラブがこのレースに出走しようとしています。ラブが背負うのは3歳の負担重量なので、レースは興味深いものとなりそうです」。

 ヨーク競馬委員会(York Race Committee)の議長を務めるグリムソープ氏は、どのレースに出走させるかはアブドゥラ殿下が決定すると述べた。しかし、「ヨーク競馬場は準備ができており、許可が下りるのであれば、イボアフェスティバルが始まる8月19日に観客を迎えることを熱望しています」と付け足した。

 8月1日のグッドウッド競馬場で、"有観客"の競馬開催が試行される。グリムソープ氏はこう語った。「観客を迎えることに、これまで以上の希望を抱いています。グッドウッド競馬場での試行が足掛かりとなることを期待しています。すべてに自信が持てるわけではありませんが、ヨーク競馬場は再び観客を迎える心構えはできています」。

 「観客、とりわけヨークシャーの観客はヨーク競馬場にとっての活力源です。競馬は他のスポーツイベント同様に、観客がいなければ異様なものになってしまいます」。

 「誰もが、着実に物事を進めて行くべきだと理解しています。競馬界はこのような状況においてレースを首尾よく施行してきたと思います。今後も国内の雰囲気を見ながら、堅実に実施していかなければなりません」。

 グリムソープ氏がグッドウッド競馬場に目を向けているのは、"有観客"の試行だけが理由ではないだろう。7月29日のサセックスS(G1 グッドウッド)で、同じくアブドゥラ殿下が所有する無敗馬シスキン(Siskin ガー・ライアンズ厩舎)がカメコ(Kameko)やモーハーサー(Mohaather)と対戦する予定である。

 同氏は、「あらゆる意味で、サセックスSを楽しみにしています。シスキンは調教で力をつけており、ライアンズ調教師は彼の状態に満足しています。シスキンにとって大仕事となりますが、私たちはこの挑戦にワクワクしています」と付言した(訳注:シスキンはサセックスSで残り1ハロンで抜け出すが、叩き合いの末、モーハーサー、サーカスマキシマスに続く3着となった)。

By Peter Scargill

[Racing Post 2020年7月26日「Grimthorpe: Enable staying in training justified whatever happens after Ascot」]