海外競馬ニュース 2020年07月09日 - No.27 - 1
ガイヤース、先行策で名牝エネイブルを下してエクリプスS優勝(イギリス)[その他]

 今年の英ダービー(G1 エプソム)がライバル馬の力が及ばないところに意外にも到達できた馬が優勝したレースだった一方で、エクリプスS(G1 サンダウン)は先行馬ガイヤース(Ghaiyyath 牡5歳)が実力・的確さ・度胸を披露する舞台となった。

 このようなレース展開が、昨年の優勝馬エネイブルの最も身近な人々の気を揉ませることになった。同馬は史上初の凱旋門賞(G1)三連覇に挑んで苦い敗北を喫して以来の出走だった。鞍上のフランキー・デットーリ騎手はレースがほぼ終盤に差し掛かったときに、2着を確保させるために愛するパートナーを真っ直ぐ走らせた。

 それまでに、ガイヤースが派手な"先行逃切り"のパフォーマンスを見せていた。ゴージャスなこの馬は、最高のレベルを決して落すことなく、その実力もついにピークに達したという評判であった。

 時折、内に秘めた攻撃性と意欲があだとなり、同馬は狙いやすいターゲットとなったり、レース後に気質を乱したりしてきた。しかし今では、戦術的に抜け目がなく相性が良いウィリアム・ビュイック騎手が、全力を出し切ってしまわないようにガイヤースを抑えられる。

 ガイヤースが先行策を取ることは誰もが知っていたが、だからといって他の騎手がゴールに向かって走る同馬をとらえられたわけではない。発馬機を何気なく出て先頭に立ったガイヤースとビュイックは、その位置を他馬に明け渡すことは決してなかった。

 他の騎手たちはきっと、最後の直線でうねりをあげる逆風に向かって走るガイヤースを称賛したに違いない。昨年のリーディングジョッキーであるオイシン・マーフィー騎手は、同馬を絶賛した騎手の1人であり、「ディアドラと馬群の後ろから抜け出そうとした時に、ガイヤースを吹き飛ばすつもりでしたが、彼は風を切って走っていきました」とジョークを言った。

 ガイヤースが容赦なく先頭に立ち、ビュイック騎手は手を緩めず同馬を力強く走らせた。これはアンソニーヴァンダイク(Anthony Van Dyck)とストラディヴァリウス(Stradivarius)を下したコロネーションカップ(G1 6月5日 ニューマーケット)の時と同じ戦術だった。ジャパンとエネイブルが後方から迫ってきたが、ガイヤースの見せ場を作ったに過ぎなかった。

 ビュイック騎手はこう語った。「彼は道中速いスピードで走ることができ、どのようにそれを活かすのかを心得ています。自分が望むままに走ることを好み、コントロールされることを嫌がります。好きなように走らせ、大きな完歩を使わせるのがベストです。態勢が整えばダッシュさせます。騎乗するのが楽しく、素晴らしい馬です」。

 「彼は豊かなスピードを持ち、それを持続することが出来るので、1¼マイル(約2000m)の距離がベストだと思います。1½マイル(約2400m)のレースでも勢いを失わず走ってくれるのですが、ときどき最後の1ハロンがとても長く感じられてやきもきします」。

 ガイヤースの勝利は、チャーリー・アップルビー調教師が同馬に対して抱いている"持っている可能性を十分に発揮できる"という信頼をさらに強くした。ちょうど誕生日を迎えた同調教師は、これ以上ないほどのプレゼントがもたらされたことに微笑んだ。

 「とても嬉しいです。最後の直線で他馬が迫ってきたとき、彼がどのくらい先行していたか気になりましたが、彼は意欲を示していて、ばてるようなことはありませんでした。見事な勝負でした。競馬界が渇望するような素晴らしいレースでした」。

 「コロネーションカップの後に、彼は多くの尊敬を集めたようです。なぜなら、多くの人々が彼のパフォーマンスを初めて見たからです。彼はフランス、ドイツ、そして冬のドバイ遠征で大勝利を収めていましたが、コロネーションカップでの勝利の後に英国のファンと応援が増えたと考えます」。

 「彼は今や完成品です。冬のドバイ遠征で学んだことの1つは、彼がより良いレース運びをするようになったことで、コロネーションカップの後はさらに良くなりました。過去に私たちが見てきたことを基にすれば、今回の勝利は彼が手にする資格のあるものです。彼にとって喜ばしいことと考えています」。

 エネイブルは負けたものの、ジョン・ゴスデン調教師はいくらか喜びを感じていた。同調教師は、感触と見た目、そして馬体重の増加から、エネイブルが最高の状態ではないと述べていた。

 エネイブルの次走がキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1 アスコット)であるのに対し、ガイヤースは凱旋門賞前の目標として英インターナショナルS(G1 ヨーク)に照準を合わせている。

 アップルビー調教師はこう語った。「ガイヤースは、エネイブルを負かしていないような楽なレースをしました。来週彼の様子を見て、ヨークに行くか、それともレース間隔をもう少し開けるかを考えるでしょう」。

 「もう1勝してから凱旋門賞に挑戦することを計画しています。エネイブルが凱旋門賞に出走するのであれば、私たちは再び彼女に挑むことになります。今日のレースの光景は素晴らしいもので、立ち会えたことをとても誇りに思います」。

By Peter Scargill

[Racing Post 2020年7月5日「Ghaiyyath strikes in Eclipse as Enable goes down fighting at Sandown」]