海外競馬ニュース 2020年05月28日 - No.21 - 3
馬ピロプラズマ病発生の疑いにより馬輸出停止(ニュージーランド・オーストラリア)[獣医・診療]

 新型コロナウイルス感染拡大により停止されていたNZ・豪州間の馬の空輸は、2週間ほど前に再開されていた。しかし、今度は馬ピロプラズマ病(equine piroplasmosis)が発生した可能性があるため、NZから豪州への馬輸出は再び無期限で停止されることとなった。

 NZの第一次産業省(MPI)は5月20日、輸出業者に対して、豪州への馬輸送が即時停止されると通知した。

 5月19日夜の航空便はNZを出発できなかった。5月22日夜に出発予定の航空便も、MPIが馬輸出の再開について豪州農業省と交渉している最中であり、延期が予想されている。

 これまでNZにおいて、馬ピロプラズマ病の発生例はない。しかし、MPIの動物健康&福祉課長のクリス・ロドウェル(Chris Rodwell)氏は、輸出前の血液検査で1頭の牝馬が馬ピロプラズマ病の陽性反応を示したことを認めた。その牝馬は昨年、馬ピロプラズマ病が発生していたとされているEU加盟国からNZに輸入されていた。

 その牝馬がタイレリア・エクイ(Theileria equi)に感染しているかどうかを確認するために、追加検査が予定されている(訳注:馬ピロプラズマ病は、原虫のバベシア・カバリ(Babesia caballi)とタイレリア・エクイの感染によって起こる伝染病である)。

 ロドウェル氏はANZブラッドストックニュースに対してこう語った。「感染が疑われる牝馬に対して、追加的な血液検査が実施されました。結果は今週末に出る予定です。タイレリア・エクイはダニが媒介して動物から動物に広まり、貧血などの症状を引き起こします。この牝馬は昨年初め、繁殖のためにEUからNZに輸入されました。その時に、病気の徴候は報告されていませんでした」。

 馬ピロプラズマ病は媒介ダニがいなければ、馬から馬へ感染することはなく、この種類のダニはNZでは発見されていない。しかし、他国と締結している"獣医学に関する協定"の多くでは、「輸出国において、馬ピロプラズマ病が一定期間存在していないこと」が要求されている。

 豪州との協定では、その期間は3年間と定められている。つまり、現在の取決めの下では、NZから豪州への輸出は2023年まで禁止されることになる。

 輸出再開のための代替方策は緊急の問題として決定されるようだが、すでに窮地に立たされているNZの馬産業にとって、馬ピロプラズマ病の発生は大きな一撃である。一時的な馬輸出禁止でさえも、春シーズンに向けての準備やNZ拠点の繁殖牝馬が豪州の種牡馬のもとに行く交配計画を覆す可能性がある。

 MPIは5月20日夜、早期解決策を見つけるべく迅速に取り組み、馬主たちを安心させるために動き出していた。

 ロドウェル氏はこう語った。「MPIは、馬産業にいる人々はこの状況に懸念を抱くだろうと認識しています。そのため、これまで継続されてきた馬輸出が中断されないように、できるだけ早く問題を解決すべく取り組んでいます。豪州などいくつかの馬輸入国は、NZにタイレリア・エクイの感染馬がいないことを証明するよう要求しています。馬ピロプラズマ病の感染疑いがある検査結果が出たので、MPIは現在のところ清浄国であることを保証できません。MPIの市場アクセスの専門官は馬輸出を継続させられるように、豪州の当局とともに取り組んでいます」。

 NZバイオセキュリティー局(Biosecurity New Zealand)は、これが馬ピロプラズマ病の単発の症例にすぎないことを確認するために、調査をすでに開始している。それでも、"この症例はなぜNZで発生したのか"、"どうして長い間検出されなかったか"についての疑問は残る。

 ロドウェル氏はこう続けた。「当該馬はMPIの輸入要件を満たしており、輸送前30日以内に実施された検査ではタイレリア・エクイに感染していませんでした。馬は輸送前に検疫を受け、体についていたダニは全て除去されます。そして到着時にさらに検査され、検疫を受けます」。

 国際獣疫事務局(OIE)によれば、馬ピロプラズマ病をもたらす2種類の原虫(バベシア・カバリ&タイレリア・エクイ)のどちらかが、欧州を含む世界中の大半の地域で見つけられる。

 過去にはタイレリア・エクイの存在が豪州で報告されたこともある。直近では、1976年にNSW州のサザンハイランド地方で発生している。しかしこの原虫が定着することはなく、現在のところ豪州では馬ピロプラズマ病が発生していないと考えられている。

 豪州への輸出前に発行される公式動物衛生証明書では、輸出前の3年間に16の疾病がNZで発生していなかったことが証明されなければならない。その一覧には、馬ピロプラズマ病をはじめアフリカ馬疫・馬インフルエンザ・鼻疽(びそ)などが含まれる。

 MPIのエマ・パスモア(Emma Passmore)博士は、輸出業者に宛てたEメールにこう記している。「豪州への輸出馬のための証明書において、MPIは馬の輸送前の3年間にNZで馬ピロプラズマ病が発生したという臨床的・疫学的証拠などがないことを証明しなければなりません。それは、一時的な移動でも完全な輸出の場合でも必要となります。このことを証明することができなくなったため、豪州への輸出や豪州を経由した輸出は即時停止されます」。

 豪州はNZにとって最大の輸出相手国であり、厳しい検疫法を実施していることで有名であるが、豪州以外の国々への輸出にも影響が及ぶ可能性がある。各国の要求は以下のとおりである。

【マカオ】 輸出国に対して過去2年間馬ピロプラズマ病が発生していないことを要求する。

【シンガポール】 過去12ヵ月間に輸出国で馬ピロプラズマ病が発生していたなら、追加的な検査や治療を実施することを要求する。

【米国】輸出国に対して過去12ヵ月間に馬ピロプラズマ病が発生していないことを要求する。

【日本】輸出国が馬ピロプラズマ病のない環境であることを要求する(期間は定めていない)。

【香港】輸出前の60日間に馬ピロプラズマ病が発生していない場所で輸出前検疫を行うことを要求する。

 輸出業者は5月20日夜、輸出禁止が今後数週間以上続いた場合の潜在的な影響について理解していた。多くの輸出業者は、豪州への輸出の即時禁止は残念なことだが避けられない措置だったと述べた。

 エクワイン・インターナショナル・エアフレイト社(Equine International Airfreight)のキャメロン・クラウチャー(Cameron Croucher)社長はこう語った。「失望させられるようなニュースですが、現段階ではこの措置は至極当然なことです。NZ・豪州間の航空便は、新型コロナウイルス感染拡大によって停止されていましたが、再開したばかりでした。このような結果は、馬主や調教師を大変がっかりさせます。彼らは、サラブレッドの輸送のさらなる遅れに直面するでしょう」。

 「NZと豪州のいずれの政府機関も、確認検査の結果が出れば、輸出再開に向けての早期解決策を見つけるために懸命に取り組むだろうと思います。また、馬ピロプラズマ病の感染がどのようにして起こったのかについて、適切な調査が必要です。輸出停止期間が南半球の繁殖シーズンにまで長引けば、NZのサラブレッド産業に大きな打撃が及びます」。

 この1週間、多くのNZ産馬が豪州へ輸出されていたことが確認されている。2020年繁殖シーズンには、昨年同様多くの繁殖牝馬がNZから豪州に輸送されることが見込まれている(昨年は約200頭)。

By Andrew Hawkins/ANZ Bloodstock News

[bloodhorse.com 2020年5月21日[New Zealand-to-Australia Equine Transport Suspended]]