海外競馬ニュース 2017年03月30日 - No.13 - 1
世界最強馬アロゲート、ドバイワールドカップで驚異的な優勝(ドバイ)[その他]

 砂漠の蜃気楼だろうか?いや、そうではない。すでに地球最強馬となっているアロゲート(Arrogate)だ!

 アロゲートはゲートで出遅れ、世界最強ダート馬群に大きなリードを許したが、ライバル馬13頭を外からごぼう抜きにして勝利し、メイダン競馬場全体は大きな動揺に包まれた。同馬は最も鮮烈な方法で、その地位を確かなものにしたのだ。

 ボブ・バファート(Bob Baffert)調教師は、これまでアロゲートを三冠馬アメリカンファラオ(American Pharoah)と比べることを拒んできた。しかし、メイダン競馬場の大勢の観客の中に立つ幸運を手にした同調教師は、アロゲートが管理馬の中で最高であるだけではなく、世界最高の馬であることを実感したに違いない。

 バファート調教師はこう語った。「私が人生で出会った馬の中で最高の馬です。勝てるとは思いませんでした。ゲートを歩くように出た時、全くチャンスはないと思い、"どうしてドバイまで連れてきたのだろう?"と言ってしまいましたが、それは間違いでした。セクレタリアト(Secretariat)以来の世界最高の馬です。まるで映画『シービスケット(Seabiscuit)』のようでした」。

 アロゲートはスタートでふらついただけではなく、道悪のダート馬場を克服しなければならなかった。これまで嵐がこんなに接近している状態でレースが行われたことはなかった。ほんの数時間前には、この嵐のためにドバイ空港では運航に支障が出ており、町には混乱が起きていた。

 ドバイワールドカップデーを予定通り施行すべきかどうか多くの議論がなされた。朝方、馬場は濁った水の海となり、レースをぎりぎり施行できるかどうかの状態だったが、トラクターとハロー車の一群が馬場を生き返らせるためにベストを尽くした。開催を可能にした神に感謝しなければならない。アロゲートのおかげで、私たちは素晴らしい光景を分かち合えたのだから。

 バファート調教師はこう語った。「観衆の声援が後押しとなり、アロゲートは遅れを取り戻し始めたようです。今夜の彼のようなレースをした馬を、私は未だかつて見たことがありません。ゲートを2番手か3番手で飛び出すプランを想定していました。これで勝てるなんて、大した馬です」。

 プランA・B・Cが消えても、ベテランのマイク・スミス(Mike Smith)騎手(51歳)はまだパニックに陥らなかった。9番ゲートから一番遅く出ただけでなく、最初のコーナーに突進していく馬群に置き去りにされたアロゲートは、ぎこちなく走っていた。

 向こう正面の直線を出るとき、スミス騎手はまだ10馬身の遅れを取り戻さなければならなかった。しかし、アロゲートはF1レースカーよりも大きな馬力を持ち、ギアを入れて回転数を徐々に上げて飛ばしていった。

 アロゲートは大きなストライドで伸びやかに走り、一瞬で5馬身を追い上げた。そしてそのペースをゴールまで維持して、成し遂げがたい偉業を達成した。アロゲートにとって長い直線は必要なかった。残り1ハロン(約200m)の地点で先行馬のガンランナー(Gun Runner)をとらえ、メイダン競馬場全体をあっと言わせる2¼馬身差でゴールしたのだ。

 スミス騎手はこう語った。「私は名牝ゼニヤッタ(Zenyatta)の主戦を務めましたが、今回ひどく出遅れたときに、アロゲートに"きみはどうするか分かっているよね?彼女がしたようにできるだろう?"と声を掛けました。彼は"行け"という言葉に反応して、滑って減速しましたが、馬群の後ろの位置を確保したところ、安定したペースをつかみ、すぐに5馬身を追い上げました」。

 「その後我慢するよう心がけ、他馬を走らせるままにしました。そのおかげで大外に出さずにすみ、良い結果をもたらしました。最終的に、アロゲートに十分な能力を発揮させることができたのです」。

 スミス騎手によれば、アロゲートは発走直前に振り向き、そのことが混乱状態を招いた。同騎手はこう付言した。「面白くない冗談だとは分かっていますが、ボブは前回のドバイ遠征のときに心臓発作を起こして倒れました。私も今回、スタート地点で心臓発作を起こすかと思いました」。

 「名牝ゼニヤッタの主戦を務めるチャンスに恵まれ、彼女の鞍上で我慢することを覚えました。それが今日の結果に繋がりました」。

 「騎手生活が終わりに近づいているときに、このような馬を与えてくれた神様に感謝します。どう言葉にして良いか分かりません。泣き崩れてしまいそうです。アロゲートは私が騎乗した中で最高の馬です。今ここでそれを証明しました。彼こそが世界一の馬です」。

 おそらく、今回最も驚かされたことは、アロゲートが昨年の今頃は3歳の未出走馬であったことである。しかしその11ヵ月後、その獲得賞金は1,700万ドル(約18億7,000万円)に上り、同馬は北米最高賞金獲得馬となっている。

 バファート調教師はドバイワールドカップを控えた今週前半に、アロゲートのことを"アメリカのフランケル"と呼んでいた。フランケルのレーティング140を超えるかどうかは、時間がたてば分かるだろう。この2頭はいずれもカリド・アブドゥラ殿下のジャドモントファームの勝負服を背にしている。同殿下のレーシングマネージャーであるテディ・グリムソープ(Teddy Grimthorpe)氏はこう語った。「信じられません。ダートレースでこのようにまくって他馬をごぼう抜きにする光景は見られないでしょう。私たちは何と幸運なのでしょうか?」。

By Lewis Porteous in Dubai

(1ドル=約110円)

[Racing Post 2017年3月25日「Awesome Arrogate overcomes adversity to win in stunning fashion」]