海外競馬ニュース 2014年07月10日 - No.27 - 3
良血馬オーストラリア、英ダービーを優勝(イギリス)[その他]

 英国においてオーストラリアの勝利が熱狂をもって称えられることはほとんどない。しかし6月7日に国名にちなんで名付けられた馬オーストラリア(Australia)が1番人気で英ダービーを制したときは例外であった。この10年で、1番人気馬が英ダービーを制するのはこれで5回目である。

 オーストラリアの勝利により、エイダン・オブライエン(Aidan O’Brien)調教師は史上初のダービー3連勝調教師となり、他の調教師とは別次元に入った。

 英ダービー4勝など英国クラシック競走を20勝している同調教師がなぜ昨年、オーストラリアを“これまでで最高の管理馬”と称したのか不思議に思っている人々がいたが、この牡駒は、クールモア牧場をベースとして大きな成功を収めている馬主バリードイル勢(Ballydoyle バリードイルはジョン・マグニア氏が所有する競馬施設でクールモア牧場の姉妹施設。この施設に関わる人々をバリードイル勢と呼ぶ)に勝利をもたらすことで、最初の答えを出した。

 オーストラリアはオブライエン調教師に新たなダービー勝利をもたらすと同時に、馬主のデリック・スミス(Derrick Smith)氏、スー・マグニア(Sue Magnier)氏およびマイケル・テイバー(Michael Tabor)氏に4勝目をもたらし、また、この勝利はテオ・アー・キン(Teo Ah Khing)氏が同馬の所有権の一部を有していることで、競馬に新たなフロンティアを開いた。アー・キン氏はチャイナホースクラブ(China Horse Club)とともに中国本土へのサラブレッド競馬の導入を目指している。

 ジョゼフ・オブライエン(Joseph O’Brien)騎手とオーストラリアはレース前半で馬群中段の外側を走り、ゆっくり上がって、一緒に馬群から抜けたキングストンヒル(Kingston Hillレーシングトロフィー勝馬でデリック・スミス氏の息子ポール氏が所有)にプレッシャーをかけた。残り1ハロン(約200m)付近で先頭に立ち、11-8(2.4倍)の一番人気馬オーストラリアは追撃してくるライバル馬キングストンヒルとずっとせめぎ合い、最後に1馬身1/4差で勝利した。

 追加登録したロムスダル(Romsdal)は3着に入ったことで関係者に利益をもたらし、またアロッド(Arod)は4着となった。

 エイダン・オブライエン調教師は次のように語った。「オーストラリアはまさしく特別な馬です。A地点からB地点にすんなりと移動する方法が独特です。このような走り方をする馬は普通、1マイル半(約2400m)をこれほどあっさり勝つことはありません。エプソムのような競馬場で1マイル半(約2400m)を制するためには馬体のあらゆる腱が試されます。心を静め、奮起し、競馬場の喧騒やあらゆる事態に適応しなければなりませんでしたが、他馬とは違い、持って生まれたペースです」。

 「何事も推測は危険ですが、ジョゼフは安全に、自信を持って騎乗しようとしていました。そしてそうしただけです。オーストラリアを誇大に宣伝しようとしているわけではありません。ずっと前からオーストラリアは特別であると言ってきたかもしれませんが、本日改めてそう思いました」。

 「我々はダービーに出ようと尽力してきましたが、将来も出られるかどうかはわかりません。そこにはいろいろ要因があり、うまくいかないことも沢山あるからです。この1年は順調ではありませんでしたので、この勝利は厩舎にとって大きな誇りです」。

 この春オーストラリアは咳をしていて、オブライエン調教師は、バリードイル勢の馬の健康状態は現在も続く懸念事項であることを認めた。

 「管理馬は難しい時期を過ごしており、万全な状態で走っていない馬や、凡庸な成績しか残していない馬もいます。春に罹病し大量の薬で治療されたため、その後調教を再開した時に必ずしも順調に行くとは限りませんでした。緊迫した雰囲気でしたので、今回の勝利を喜んでいます」。

 同調教師は自身の功績を謙遜し、次のように語った。「確かに特別ではありますが、私たちはこのような馬を毎年預かることができる特権的な立場にいます。本当のところは、私たちが預かった馬が素晴らしい血統の馬だったということで、それは驚くべきことです」。

 オーストラリアにとって愛ダービー(G1 約2400m)は避けられない選択肢であるが、オブライエン調教師はオーストラリアが真価を見せるのは1マイル1/4(約2000m)だと考えている。

 ジョゼフ・オブライエン騎手は次のように語った。「ずっとオーストラリアが大変優れた馬であると考えてきました。今日は先頭に立つのが早すぎました。コーナーまであと半ハロン(約100m)付近で態勢を整えた時に内側の馬とわずかにぶつかり、そのことが彼を奮起させました」。

 「オーストラリアはレース中にどの位置にでも移動させることができるので乗りやすい馬です。落ち着いていながらも奮起します。オーストラリアは状況を把握すると少し頭を上げますが、その後はどの馬も近くに寄せ付けることはありません」。

 「オーストラリアには独自のペースがありますが、私はレースで気楽に乗り、彼のリズムを引き出しただけです。1マイル1/4(約2000m)と半完歩早いテンポが合っています」。

 2年前にキャメロット(Camelot)で英ダービーを制し、これが英ダービー2勝目となるジョゼフ・オブライエン騎手は次のように付け足した。「オーストラリアをどれだけ高く評価しているかを隠すつもりはありません。英ダービーを勝つとは思っていませんでしたが、挑戦することになるとは思っていました」。

 ジョン・マグニア(John Magnier)氏も勝馬関係者であり、すでにザミンストレル(The Minstrel)やゴールデンフリース(Golden Fleece)で英ダービーを制している同氏は、8回目のダービー勝利を祝った。一方、メイダン競馬場のデザイナーであるマレーシア人のアー・キン氏は、これが最初で最後にならないよう願っている。

 アー・キン氏は次のように語った。「世界最高のクールモア牧場とそのチームと組んだことに満足しており、非常に幸運だと思っています。エイダン&ジョゼフ・オブライエン親子をはじめとするこのチームは本当に素晴らしいと思います」。

 「チャイナホースクラブも満足しており、そのメンバーはこのクラシックレースに注目することになると考えています。本日はチャイナホースクラブにとっても大きな宣伝になりました。私たちは絶対に戻ってきます」。
 

2014年英ダービー結果
    着差 発走前オッズ
1 着 オーストラリア   11-8(2.4倍)
2 着 キングストンヒル 1馬身1/4 15-2(8.5倍)
3 着 ロムスダル 3馬身1/4 20-1(21倍)
馬主 デリック・スミス氏、スー・マグニア氏、
マイケル・テイバー氏、テオ・アー・キン氏
調教師 エイダン・オブライエン氏
騎手 ジョゼフ・オブライエン氏
厩務員 デヴィッド・ヒッキー(David Hickey)氏
生産者 スタンリー・エステート&スタッド社
(Stanley Estate and Stud Company) 

  

エイダン・オブライエン厩舎の英ダービー勝馬5頭
騎  手 発走前オッズ
2001 ガリレオ
(Galileo)
マイケル・キネーン
(Michael Kinane)
11-4(3.8倍)
2002 ハイシャパラル
(High Chaparral)
ジョン・ムルタ
(John Murtagh)
7-2(4.5倍)
2012 キャメロット ジョゼフ・オブライエン 8-13(1.6倍)
2013 ルーラーオブザワールド
(Ruler Of The World)
ライアン・ムーア
(Ryan Moore)
7-1(8倍)
2014 オーストラリア ジョゼフ・オブライエン 11-8(2.4倍) 

 

ダービー卿、生産者として頂点に立つ

 その先祖がレースを創設し、その名前を付けた19代ダービー卿は、6月7日、勝馬オーストラリアの共同生産者として表彰台にいた。

 世界一有名なレースは12代ダービー卿を記念して創設された。19代ダービー卿は、ウィジャボード(Ouija Board)が自身の勝負服で英オークスを制してから10年後に、その産駒がデリック・スミス氏の勝負服でダービーを制するのを目の当たりにした。それが1歳時に52万5,000ギニー(55万1,250ポンド)で落札されたオーストラリアである。

 ダービー卿は、「驚くべき物語です。オークス馬を生産したうえに今やダービー馬を生産することになろうとは、幸運すぎて信じられません。こんなことはあり得ません。私にとってまさに絶頂です。この興奮をうまく言い表せません。ウィジャボードを本当に誇りに思います。驚くべき牝馬です」と語った。

 ダービー卿は、ウィジャボードの最初の3頭の仔を出走させたが、4頭目の仔は売却することに決め、それがオーストラリアであった。一族の生産事業はダービー卿の弟ピーター・スタンリー氏が担っている。

ダービー卿は次のように続けた。「私たちは感情にとらわれて初めの数頭を所有していましたが、商業的な生産者として生産事業を運営するつもりであれば、売却しなければなりません。牝駒は売却しないと以前から決めていましたが、全てを手元に置いておくことはできませんし種付料も高額です」。

 「クールモア牧場とバリードイル勢はオーストラリアで素晴らしい仕事を成し遂げました。私たちは今後とももっとワクワクするようなことに取り組んでいきます」。

By Jon Lees

[Racing Post 2014年6月8日「Australia fulfils his date with destiny」]