相次ぐ競馬場協会からの脱退、その背景と競馬場間の対立・後半(イギリス)【開催・運営】
なぜ今、このような事態が起きているのか
英ジョッキークラブの最高経営責任者(CEO)ジム・マレン氏、英ジョッキークラブが競馬場協会(RCA)に対して長年抱いてきた懸念を、なぜ今、具体的な行動に移すことになったのかを説明するにあたり、遠慮なく語った。
「もう時間がなくなりつつあると思います」と彼は述べ、続けて同じように強い言葉を口にした。
「妥協が競馬の発展を阻んでいます」とマレン氏は主張し、その例として、英国競馬が2027年の開催日程を大幅に削減できなかったことを挙げた。
「アリーナレーシング社(ARC)や他のいくつかの競馬場からは、さらに多くのデータを求める声が上がりました。私も、可能な限り多くのデータを集めるべきだという点には同意しますが、どこかの時点で決断を下さなければなりません。私は31年間ビジネスの世界で仕事をしてきましたが、何かを決断する際に『最適なデータ』が揃っていたことなど、一度もありません。だからこそ、こうした仕事は本当に難しいのです。データが多ければ多いほど、より多くの情報に基づいて判断できますが、欲しいデータが100%揃うことは決してありません。この問題をいつまでも先送りし続けるわけにはいきません」
「今後10年間、賭事から得られる収入が減少し続けることが分かっているのに、賭事のために競馬の開催数をむやみに増やすのは、愚かなビジネス手法です。競馬をより魅力的にするための、別の方法を模索する必要があります」。
その点で、マレン氏は、英国競馬のトップレベルを強化しようとする業界全体の取り組みの背景にある考え方を支持している。一方で、その考えには、ラドブロークスコーラルグループの最高経営責任者(CEO)を3年間務めたことを最後に退いた賭事業界での過去の経験も大きく影響している。
「私はかつて、英国最大の認可ベッティングショップチェーンを運営していましたから、この問題についてはよく分かっています」とマレン氏は語る。
「現在、競馬賭事賦課公社(Levy Board)の賭事収入の30~35パーセントは認可ベッティングショップから得られています。しかし、ベッティングショップチェーンのビジネスモデルはゲーム機に依存しています。ゲーム機税が引き上げられれば、店舗は採算が取れなくなり、馬券の売上高は失われてしまうでしょう。事業税や増税、さらにゲーム機に対する政府の姿勢まで考慮すれば、状況が今後好転すると考えるのは夢物語です」
「こうしたことすべてが、なぜガバナンス改革が必要なのかという問題に私たちを立ち返らせるのです。ベッティングショップからの収入が大幅に減少していくことになるため、代替となる収入源を見つけなければなりません」
一部には、英ジョッキークラブがチェルムズフォードシティ競馬場を買収することで、そうした収入源を確保できたのではないかとの見方もあった。特に、バレットレッドロウ社がケンプトンパーク競馬場を再開発するオプションを行使した場合、英ジョッキークラブはオールウェザー競馬の開催拠点を失うことになるためである。しかし実際には、このエセックス州の競馬場はARCが運営することになっている。
「あれは極めて重要な一件でした」とある業界専門家は語る。しかし、ARCがエセックス州のチェルムズフォードシティ競馬場を獲得したことについて尋ねられたマレン氏は、単に「私はチェルムズフォードシティ競馬場には入札しませんでした」と答えるにとどまった。
今後どうなるのか
当初から改革を求めていた競馬場・団体の中では、アスコット競馬場が先陣を切り、その後に英ジョッキークラブが続いた。グッドウッド競馬場、ニューベリー競馬場、そしてヨーク競馬場も同じ道をたどることになるのだろうか?
「私は英ジョッキークラブの立場を理解しようと努めています。そして、足並みをそろえて対応できるよう、合理的かつ建設的な道筋をともに見出そうとしています」と、ヨーク競馬場の会長であり、英ジョッキークラブの会員かつビヴァリー競馬場の理事を務めるブリジット・ゲリン氏は語る。
「ヨーク競馬場はRCAから脱退するつもりは一切ありません」とゲリン氏は付け加える。同氏は、RCAの見直しによってヨーク競馬場の要望は満たされたと考えている。その最大の要望は、RCAの役割を、会員へのサービス提供を担う業界団体に限定することであった。
会長のドミニク・バーク氏も英ジョッキークラブの会員でもあるニューベリー競馬場は、現在、今後の対応を検討しているとみられる。ヨーク競馬場と同様に、同競馬場もこれまでのところ、英ジョッキークラブに追随しないことを選んでいる。
グッドウッド競馬場も同様で、同競馬場の最高経営責任者(CEO)であるアダム・ウォーターワース氏は次のように述べている。「もしRCAが純粋な業界団体に戻り、BHAにおける公式な代表機能から手を引くのであれば――私たちの提案は、競馬場がBHAの会員資格を直接持ち、構成団体推薦の理事を置かないというものです――そして業界団体としての活動だけに関与することに同意するのであれば、我々は残留します。そうなると思います」。
ウォーターワース氏の言葉からは、グッドウッド競馬場が英ジョッキークラブと同様に、RCAがBHAの会員資格を手放すことを望んでいることがうかがえる。しかし、それは口で言うほど簡単なことではない。
RCAがBHAにおける持分を他の当事者に譲渡することは、RCAの一存ではできない。BHAの定款第9条では、RCAを別の団体に置き換えることは可能だが、そのためには、議決権を持たないRCAを除くすべてのBHA会員の全会一致による賛成が必要であることが明記されている。たとえすべての競馬関係者側の会員がそれを望んだとしても――馬主協会(ROA)会長でBHA理事でもあるジム・ウォーカー氏が草の根レベルの競馬を熱心に支持していることを考えれば、実現するかどうかは決して定かではない――競馬場がBHAに直接加盟する場合に、具体的にどのような仕組みにするかについて、統一された見解はない。
浮上している案の一つは、BHAにおける競馬場側の持分を、RCAと、RCAを脱退した元会員で構成される組織の2者が保有するというものである。
直接的な競馬場会員制度に関する自身の代替案について、マレン氏は次のように述べている。「英ジョッキークラブ、大手競馬場、小規模競馬場、そしてARCという4つのグループがあります。ごく単純に考えれば、競馬場側の持分を各グループに25%ずつ割り当てることになります。つまり、BHA全体ではそれぞれ12.5%ずつということです。そうすれば、各グループは留保事項について相当な議決権と発言力を持つことになります」。
グッドウッド競馬場とヨーク競馬場は、これとは若干異なるアプローチをとる提案をコックス氏に提出した。両競馬場の提案では、各競馬場のBHAにおける持分比率を、馬券売上高、賞金、入場者数を指標とする英国競馬への貢献度に応じて決定し、定期的に見直すべきだとしている。
英ジョッキークラブとARCはそれぞれ12.5%を取得し、これに次ぐのが7%のアスコット競馬場となる。なお、アスコット競馬場は、コックス氏が独自に考えをまとめことに異存はないとしている。ヨーク競馬場とグッドウッド競馬場はそれぞれ3.5%を取得する。小規模競馬場の中でも特に意欲的なポンテフラクト競馬場は、BHAの1.5%を持有することになる。単純に数字を合計してみると、他の一部の競馬場については、計算上、これよりはるかに小さな持分とせざるを得ないことになる。
2018年まで18年間にわたりRCAの最高経営責任者(CEO)を務めたスティーブン・アトキン氏は次のように述べている。「英ジョッキークラブには、組織内に豊富な専門知識があり、優れた法的助言を受けることもできます。BHAの競馬場側の代表を変更する際に生じる様々な課題について、すでに徹底的に調査しているものと思います。少なくとも過半数の競馬場の支持が得られなければ、そうした変更への対応は格段に難しくなるでしょう。
RCAは存続できるのか
RCAが加盟する競馬場から最も高く評価されているのは、各種サービスや助言を提供するとともに、政府やその他の機関に対して会員を代表するという役割を担っているからである。
RCAは業界団体として存続すべきであると主張する人物の一人に、ヨーク競馬場の会長であるゲリン氏がいる。
同氏は次のように述べている。「業界団体としてのRCAが会員のために実際にできることを考えてみれば、全員が同じ枠組みの中にいることには大きな意味があります。そうでなければ、英ジョッキークラブとRCAのそれぞれに、まったく同じ仕事をする担当者を置くことになってしまいます」。
それが将来的にあり得るのかと問われたマレン氏は、「その質問は、私たちが別の組織を設立したいと考えていることを前提としています。しかし、そうではありません」と答えている。
しかし、かつては実際にそうだったようである。
RCAからの脱退を発表した声明の中で、マレン氏は次のように述べていた。「我々は、アスコット競馬場や志を同じくする業界パートナーと協力し、競馬の長期的な持続可能性に基づくビジョンを追求していく考えです。その実現に向け、新たな組織の設立に向けた初期段階にあります」。
本紙が把握しているところによると、その後、英国の主要競馬場数カ所に対し、ある情報筋が「基本条件合意書のようなもの」と表現する文書が送付されたという。その文書は、当時「New Co」と呼ばれていた、RCAから脱退した競馬場によるグループの設立に向けたものだった。
この構想は十分な賛同を得られず実現には至らなかったものの、マレン氏は、加盟競馬場がそれぞれ年間27,000ポンド(約567万円)の会費を支払っているRCAに対して依然として大きな交渉上の影響力を持っている。追加の支払いを含めると、RCAは通常、英ジョッキークラブから50万ポンド(約1億500万円)前後の収入を得ている。この収入を失えばRCAにとって極めて大きな影響が生じ、提供するサービスを大幅に縮小せざるを得なくなることはほぼ確実である。
最近、英ジョッキークラブがRCAを脱退した理由を説明するため、英国の各競馬場に送った書簡の中で、マレン氏は、英ジョッキークラブの行動によって、RCAが提供する「優れた業界向けサービスの費用や提供体制に不確実性が生じた」ことを認める一方、「特定の運営サービスや共有サービスを今後提供する可能性については、引き続き協議を行っている」と付け加えた。
本記事の取材でRCAとの関係について尋ねられたマレン氏は、次のように述べている。「我々が求めてきた政治面での完全な切り離しが実現すれば、RCAとは、高く評価されている業界団体、そして運営サービスの提供者として、今後も協力していきたいと考えています」
「政治面で切り離したとしても、英国の59競馬場に運営サービスを提供する業界団体を維持することはできます。ただし、まずは政治的な役割を切り離すことが先です」。
マレン氏は、自身が何を求めているかをRCAにはっきりと示した。英ジョッキークラブのトップが望む結果を得られるかどうかに関わらず、一つ確かなことは、コックス氏の危機対応の手腕が、就任早々に試されることになるということである。
本紙への声明の中で、RCAは次のように述べている。「RCAは、英国競馬が現在直面している、そして今後も続く課題を深く認識しています。そして、組織として掲げる目的に沿って、それらの課題に対処するために必要な解決策を策定すべく、すべてのステークホルダーと協力していくことに引き続き尽力します」
「私たちは、幅広い有益なサービスの提供、ベストプラクティスの共有、そして会員への専門的な助言を通じて、この取り組みを行っています。これらは、効率性と費用対効果の観点から共同で提供されており、会員が可能な限り優れた競馬場となることを全体的な目標としています」
「最近のガバナンスの見直しの結果が示す通り、RCAは必要に応じて変化することをいとわない組織でもあります。この取り組みは、すべての会員との建設的な議論を通じて継続しています。また、提起された課題の多くがBHAの組織構造や運営に関係していることから、次期BHA会長のサイモン・コックス氏とも協議を進めています」
「今後の進展については、適宜、改めてお知らせいたします」。
その続報は、大きな関心をもって待たれることになるだろう。
(1ポンド=約210円)
By Lee Mottershead
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