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2025年10月16日  - No.39 - 2

全米ホースメン共済協会が馬の突然死に関するHISA声明に意見(アメリカ)【獣医・診療】


[訳注:本記事は、全米ホースメン共済協会(HBPA)のCEOを務めるエリック・ハメルバック氏による投書が、10月9日のブラッドホース・デイリー紙に掲載されたものです]

 HISA(競馬の公正確保と安全に関する統括機関)は先日、「馬の突然死症候群(Equine Sudden Death Syndrome)」に関するプレスリリースを発表した。残念ながら、この声明は疑問を解消するどころか、さらなる疑問を生んだ。

 同声明では、査読付き研究論文は一切引用されず、科学的参考文献も示されず、主張の根拠となる研究への直接リンクも提供されていない。それらの関連する研究成果が公に発表されているにもかかわらず、である。獣医学に基づく運営を標榜する組織として、この透明性の欠如は信頼性と信用の両方を損なうものではないか。

 ペンシルベニア大学による病理解剖(ネクロプシー)分析に基づく1988年の研究は、筋骨格系損傷以外の原因による「馬の突然死」の主要な原因の一つが運動誘発性肺出血(EIPH)であることを明らかにしている。

 同大学による突然死した馬11頭を対象とした病理解剖によれば、うち9頭がEIPHに起因し、1頭は出血死、1頭は中枢神経系外傷による死亡であり、11頭のどの馬からも心臓病変は認められなかった。この点に関して、公表された科学的記録は明確である。EIPHは調教・競走馬における長期的なリスク要因として十分に立証されており、管轄区域を問わず国際的に認識されている。

 また、HISAのプレスリリースには、運動中の馬の心電図モニタリングを困難にするいくつかの要因も記載されていない。これらの要因は、診断の正確性と信頼性に影響を与え得るものだが、言及もされていないのだ。

 心拍数モニターはしばしば、鮮明な信号を得るのに苦労することがある。衛星の位置が問題を引き起こしたり、あるいは構造物が信号を遮断したり、受信を妨げたりすることがある。さらに、電極のズレ、馬の汗や被毛もセンサーに干渉することもある。これらの要因はすべて、不正確な測定値に繋がる。

 文字通り数百時間にも及ぶ膨大な量のデータ記録を整理し、心房細動に特徴的な不整脈パターンを特定することは途方もない作業であり、忍耐力、経験、そしてある程度の想像力に裏打ちされた主観的判断が求められる。測定値そのものも一般的な不規則性を補正するため編集者によって「上書き」される。これらの読み取り値に対して厳密な編集が行われない場合、より多くのアーチファクト(データの乱れ、エラー)が現れ、心房細動発生率が高いと誤って解釈され記録してしまう可能性がある。

 一部のモニターでは、電解質バランスが不十分な傾向にある競走馬特有の生理機能に合わせた補正が行われていない場合があり、これも心拍数測定値の差異を招く。こういったデータを心房細動のエビデンスとして評価すれば、偽陽性または偽陰性を引き起こす可能性もある。

 これらが省略されていることは、単なる学術的問題に留まらないと私は考える。HISAは、EIPHが馬の突然死の主要因であることを示す膨大な研究成果を無視することで、業界が直面する最も差し迫った課題の一つから注意を逸らしているのだ。さらに、声明の中で現行のモニタリング装置の限界を認めなかったことで、そのメッセージは読者を狭い解釈へと導いているように見え、獣医学や査読付き研究が示しているより広範かつ明白な現実からは遠ざかっている。

 同様に懸念されるのは、EIPHに対する有効性が実証された保護薬であるフロセミド(ラシックス)の排除がどのようにリスクを悪化させるのかという点を、HISAが依然として軽視している点である。ラシックスは全ての馬の出血を完全に無くすわけではないが、その重症度を軽減することが科学的に証明されており、数えきれないほど多くの調教師、獣医師、馬関係者が、最も危険な肺出血のケースにおいてラシックスが馬を守る役割を目の当たりにしてきた。

 競馬業界は、透明性、データ、解決策を得る権利があり、それを要求しなければならない。HISAが真に馬の福祉を向上させ、業界内の信頼を得たいと望むなら、以下のことを行うべきである:

・科学的根拠を公表すること。突然死に関連するいかなる主張も、査読付きデータと関連文献で裏付けられる必要がある。

・EIPHについて認めること。数十年にわたる獣医学の知見を、プレスリリースのために軽視してはならない。

・ラシックス禁止措置について再検討すること。馬の死亡率低減が目標ならば、リスクを悪化させうる方策は、科学的根拠に基づき、正直に再検証されねばならない。

 競走馬の福祉と競馬の公正性は、明確かつ証拠に基づいたリーダーシップにかかっており、今回のHISAのプレスリリースにはそれが欠けている。これではホースマン、獣医師、そして何よりも馬に対して不利益がもたらされるだろう。

By Eric Hamelback

(CEO, National Horsemen's Benevolent and Protective Association)

(関連記事)海外競馬情報2025年 No.37-2 「心房細動と突然死の関連性が明らかに(アメリカ)【獣医・診療】

[bloodhorse.com 2025年10月9日「Letter to the Editor: HBPA Calls for More Transparency」]


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