心房細動と突然死の関連性が明らかに(アメリカ)【獣医・診療】
アメリカ競馬の公正確保と安全に関する統括機関(HISA)は 9 月 25 日、「サラブレッドの運動関連突然死(EASD)」を調査するパイロットプログラム(本格的に導入する前に一定の条件で試験的に実施されるプログラム)2つのうち1 つから得られた重要な発見を発表し、運動関連の突然死事故の一部は心房細動と関係があると示した。
研究者たちは、心房細動を検出し、隠れた心臓のリスクを発見するための対策が導入できると楽観的な見方を示している。
「ウェアラブルデバイス(体に着けて使用する小型のコンピューターデバイス)や獣医師による診察など、心臓のスクリーニング検査を日常的な評価に組み込むことで、調教師や獣医師は運動前にリスクのある馬を特定できるようになります」と、HISA のコンプライアンスおよび研究獣医師であり、HISA のEASDワーキンググループの議長を務めるカレン・ハッサン博士は述べた。「これにより、馬の命を救うことができる、拡張可能なモニタリング体制と標準化された対応戦略への道が開けるでしょう」。
ウェアラブルデバイスによる高度な心臓モニタリングを通じて研究者たちは、従来は深刻ではなくパフォーマンスを制限する程度のものと解されていた心房細動が、運動中に悪化して、より重篤な不整脈を引き起こし突然死に至る可能性があることを突き止めた。
影響を受けている馬の心電図データは、安静時および運動時の両方で心房細動を示しており、早期発見の必要性と、調教前および競走前の評価に定期的な心臓スクリーニングを統合する重要性を強調するものとなった。
プログラムの次段階では、実施規模の拡大、リアルタイム心電モニタリング手順の策定、リスクベースのスクリーニング基準の決定に焦点が当たる。具体的には、運動前のウェアラブルデバイス、携帯型心電計又は獣医師による聴診によって心房細動の検出をまず行い、調教師が運動を中止し獣医師チームとの連携で影響馬の追加評価を行えるようにする。
その段階での鍵は、心房細動に重点を置いたリズム解析のための最適な作業手順とツールの確立、心房細動以外の不整脈リスクの定義、運動中の心不全に対する標準化された対応体制の提案と評価が挙げられる。
これに併せHISAは、EASD、関連する危険因子及び調教師や獣医師がEASDの予防のためにできることを示すため馬の健康に関する勧告を発表した。
HISAは2024年8月に本調査をEASDワーキンググループ(2023年10月発足)に委託した。
2025年上半期において、HISA規則対象の競馬場および調教施設における死亡事例のうち、EASDはそれぞれ約8%(競走時)および18%(調教時)を占めた。HISA発足以降の症例を遡及分析した結果、50%以上の症例が心臓疾患(多くは「突然死」と分類)に関連していた可能性が高いことが判明した。これらのEASD事象の大半は競走馬のキャリア初期に発生し、特に0~5戦の競走馬で発生率が最も高かった。
HISAは、これらのリスクへの対応・理解深化とEASD予防の重要性を認識し、EASDワーキンググループを発足させた。パイロットプログラムは、ペンシルベニア大学獣医学部心臓学・超音波診断学・内科学准教授のクリストバル・ナバス・デ・ソリス博士と、ミネソタ大学獣医学部遺伝学・ゲノミクス・大型動物内科学助教授のシアン・ダーワード=アカースト博士が主導し、現在進行中である。夏にはケンタッキー州で開催された米国獣医内科学会フォーラムで研究成果が発表された。
ナバス・デ・ソリス博士とダーワード=アカースト博士は、主要専門家と協力し根本原因の解明と予防戦略の策定に取り組んだ。共同研究者にはメアリー・デュランド博士(米国馬スポーツ医学コンサルタント)、グレース・フォーブス博士(豪州レーシングヴィクトリア)、ローラ・ナス博士(豪州アデレード大学)、およびウェアラブル技術専門企業アリオネオ・エキメトル(フランス)の専門家らが名を連ねた。
EASD について関係者にさらに理解を深めてもらうため、今後数週間にわたって、馬術関係者や獣医師を対象とした一連の教育ウェビナーが開催される予定だ。
「この研究は、私たちの作業部会のたゆまぬ献身と、国際的な協力者たちの貴重な貢献がなければ実現しなかったでしょう」と、ハッサン博士は述べた。「私たちは力を合わせて、馬の福祉の向上と、永続的な変化の基盤構築に取り組んでいきます」。
Edited Press Release
HISA
[bloodhorse.com 2025年9月25日 「Study Connects Atrial Fibrillation to Sudden Deaths」]