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海外競馬情報
2023年09月21日  - No.9 - 3

小規模競馬場が"競馬のプレミアム化"により受けるダメージ(イギリス)【開催・運営】


 英国競馬界は競馬を永遠に変えてしまうかもしれない壮大なる実験に乗り出そうとしている。多くの人々に影響が及ぼされるだろうが、彼らはまだ何が起こっているか気づいていない。
 サースク競馬場とキャタリック競馬場のCEOとして、私はとても気になるメッセージを感じ取っている。
 来年から競馬開催日は基準によって"プレミアム"と"コア"のどちらかに正式に分類されることになる。競馬のプレミアム化(訳注:競馬というスポーツのトップレベルを披露する試み。強豪馬が競い合う最高級レースの提供を目指す)の仕掛け人たちは、競馬の二層化を企てているという事実を隠そうとしない。大規模競馬場がほとんどのプレミアム開催日を実施することになり、競馬賭事賦課公社(Levy Board 賦課公社)から380万ポンド(約7億300万円)の資金を注入することが提案されている。その資金の半分は、広く催されるコア開催日から直接注入される。しかしコア開催日が同レベルのレースを施行しても同レベルの資金援助を受けられない。なぜなら、プレミアム化の仕掛け人たちは、これについて明確にしているのだが、格上の馬がコア開催で出走することを望んでいないからだ。たとえばサースクハントカップ競走に出走するような馬には、より大きな競馬場だけで出走してほしいと考えているのだ。
 コア開催を実施する私たち、小規模競馬場の任務はベッティングショップに素材を提供し、プレミアム開催の邪魔をしないようにピラミッドの底辺を担当することだと言われている。同業者のひとりは最近、コア開催はこれからずっと"底辺に向けてのレース"になるのだろうと述べた。
 サッカーのプレミアリーグが発足したときには少なくとも昇格と降格があったので、クラブはピラミッドを上下することができた。新たにできた競馬のピラミッドでは上に行くことができない。小規模競馬場を"プレミアリーグ"に昇格させたいと望むならば、まずはもっと大きなグランドスタンドを数百万ポンドもの費用をかけて建設しなければならない。各プレミアム開催日には少なくとも22万5,000ポンド(約4,163万円)を要するので、そのビジネスモデルを商業的に成り立たせるためには十分な有料入場者を収容しなければならないからだ。
 多くの小規模競馬場は、成功を収めている開催が土曜午後の枠から外されることにひどく失望している。影響が及ぼされる競馬場は、経済的インセンティブを期待できると言われている。しかし結果として競馬界が目立った利益をあげることなく観客を失うのであれば、これは茶番になるだろう。それに、プレミアム開催を輝かせるために作られたコア開催が単に賭事の穴を生み出してしまい、ほかのスポーツや他国の競馬によって埋められることになると心配する者もいる。
 "競馬はひどい苦境に立たされている"と言われてきた。だから競馬界は計画を考え出した。今やそれがうまくいくことを願わねばならない。しかしこの戦略の成功がどのように判断されるのか、また首脳陣がその点について透明性を保つかどうかは興味深いところだ。この計画を後押ししたならば、2年後にそれがうまくいかなかったと言うのは難しいであろう。
 そしてピラミッドの底辺でビジネスを営む人々は、そのあいだに取り返しのつかないダメージを受けないことを祈るしかない。


サースク競馬場&キャタリック競馬場 CEO
ジェームズ・サンダーソン

By James Sanderson
(1ポンド=約185円)

(関連記事)海外競馬情報 2023年No.6「BHA、2024年競馬開催日割の大幅な改革を発表(イギリス)

[Racing Post 2023年9月4日「Britain's smaller tracks are in a 'race to the bottom' - and we must hope we're not irreparably damaged」]


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