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2023年06月20日  - No.6 - 1

BHA、2024年競馬開催日割の大幅な改革を発表(イギリス)【開催・運営】


 BHA(英国競馬統括機構)のCEOジュリー・ハリントン氏は5月25日(木)、2024年競馬開催日割の大幅な改革を発表した。その際、英国競馬界に対して短期的な視点にとらわれず思い切って対応するよう告げた。
 BHA理事会の承認を得て来年の開催日割に導入される新機軸には次の3つが含まれる。(1)新たなプレミアム開催の導入、(2)土曜2時間の競馬のショーウインドウ化、(3)6つの日曜ナイター開催の試行。
 また出走頭数が減少している現状を踏まえて、英国競馬の競争性を高めるための次のような計画もある。(1)障害競走を年間300レース削減、(2)平地競走の一部を夏から秋・初冬に移行、(3)プレミアム開催導入など日曜午後の平地競走の質の向上。
 業界横断的な商業委員会により策定されたこれら提案は、実施に移されて最初の2年間で検証が行われる。競馬というスポーツの裾野を広げ、新しいファンにアピールし、既存の顧客との関係を深めることが目標であり、収益を増やしてその結果賞金レベルを引き上げていくことを期待している。
 ハリントン氏はこう語った。「1年単位で見ないことが絶対に重要です。そうすると何もできなくなります。レースをより魅力的なものにすることにより、皆様に深く関与してもらえるようにするのが狙いであることを思い起こすべきです」。
 そして、競馬界は1年間ですべてを終わらせられるかのようにこの改革に取り組むべきではないと述べ、「もう少し機敏になり、新しいことを試してそれを展開していくにしてもやめてしまうにしても、そこから学ぶ必要があります」と付け加えた。
 またハリントン氏は、競馬界に思い切って対応するように求めているかどうかを聞かれて「それは妥当な見方でしょう」と答えた。
 競馬のプレミアム化は、昨年BHB(英国競馬公社 BHAの前身)の元会長ピーター・サヴィル氏が提唱したコンセプトであり、このスポーツのトップレベルを披露するものだ。高額賞金で強豪馬が競い合う白熱した最高級のレースを提供する。
 このプレミアム化で最も物議を醸しているのは、年間の土曜午後開催のおよそ3分の2に2時間枠を設けることである。そしてそれは2場のプレミアム開催とそれ以外の1場の開催から構成される。残り3分の1の土曜日もプレミアム開催があるが、4場開催であるため、2つのアプローチを比較することができる。
 BHAのCOO(最高執行責任者)リチャード・ウェイマン氏は、「競馬ファンの注目度が高い土曜午後に強豪馬が出走して激しいレースを繰り広げてほしいのです。そのうえでITVは明らかに大きな役割を果たします」と述べた。
 小規模な競馬場は、実入りの良い土曜開催が結果的に早い時間帯か遅い時間帯の別枠に移されることに懸念を表明している。それゆえ、訴訟が起こされる恐れが高まっている。しかし、ハリントン氏はそのようなことは起こらないと考えておりこう語った。
 「競馬産業全体でテーブルを囲み、大小の独立競馬場も参加して、土曜午後のショーウインドウ化の提案は毎週適用されるわけではないというところに落ち着きました。合意された1年目の方法はとても現実的なもので、入場料収入の観点から予期せぬ結果を招かないようにしました」。
 「訴訟が起こされることはありえないと思いますね。なぜなら全員がテーブルを囲み、互いの意見を聞いてきたからです」。
 ハリントン氏は、「これらの計画は競馬の長期的健全性と持続可能性を支援するために生み出される収益を徹底して最大化させようとするものです」と述べる一方で、"開催日割の改革が賭事収入を増加させることに重点を置きすぎていて競馬ファンに配慮していない"という指摘があるがそのようなことはないと主張した。
 そして「競馬ファンをないがしろにしているとは思われたくありません」と付け加えた。
 ハリントン氏は競馬界には細かい目標値というものはあるが、それらは最終的な開催数と関連するのでまだ詳細が掴めていないと述べ、こう続けた。
 「どの枠が何場開催になっているのかが分かれば、より明確な目標値の一覧を提示できます。お祈りだけしてベストを望んでいるというわけではありませんからご安心ください」。
 ウェイマン氏は、障害競走数を減らして夏の平地競走を秋以降に移すことは"非常に的を射ており"、賭事データを利用して考え出されたものだと述べた。そして「これは非常に複雑な分析の結果であり、2024年のレースを著しく魅力あるものにするでしょう」と付け加えた。
 BHAは、今後数週間のうち基本方針の実施を後押しするためにさらに詳細を詰めて磨きをかけるだろうと述べた。これには競馬賭事賦課公社(Levy Board)への提案など、資金調達という喫緊の課題も含まれる。小規模な競馬場は、資金がプレミアム開催に集中することで大損失を被るのではないかという懸念を抱いていた。
 プレミアム開催の賞金レベルを最低賞金額の引上げにより下支えするという目的があり、そのための追加資金は賦課金収入と競馬場の両方からもたらされる見込みであると、ハリントン氏は述べた。
 そして、「今はこの仕組みがどのように機能するかを競馬場や賦課公社とともに検討する時間が必要です」と付け加えた。
 またBHAはこの改革に際して、競馬界の雇用者をどのように支援するかについて協議を行う予定であるとし、それには競馬開催日割における休日数に関する議論や提言も含まれると述べた。
 BHAのジョー・ソーマレズ・スミス会長は、BHA理事会は"この新機軸が必要であり競馬界の最善の利益につながることが明確なので"支持し承認したと述べた。
 そして、すべての人がこの提案に同意するわけではないのは"やむを得ないこと"であるとしながらも、BHA理事会を最終的な意思決定機関とする競馬界の新たなガバナンスシステムはまさにそのような状況を想定して作られたものであると付け加えた。

意思決定プロセスにおけるデータ
 BHA理事会によって承認された競馬開催日割の大幅な改革の主導者たちは、彼らの行動はデータ分析に基づいていると主張する。商業委員会は賭事業者・賦課公社・競馬場の数字にアクセスし、収益がどのように競馬界に流れ込むかを確認した。

 また競馬賭事客フォーラム(Horseracing Bettors Forum)などから顧客の意見を取り入れ、競馬産業の競馬開催日割&資金グループからのアイデアも聞いた。
 ソーマレズ・スミス会長はこう語った。「競馬界を成長させるための中心にあるのは、適切にデータを活用することです。競馬界はあまりにも長いあいだ感情や部分的な情報に基づいて意思決定をしてきました。私たちは今、競馬界にとって何がベストであるかについて、純粋にデータ主導で証拠に基づいた決定をし始めています」。

  By Bill Barber


競馬開催日割の改革の方向性は正しいのだろうか?

 何ヵ月も家に引きこもっていると、隣の町にドライブに行くことが大冒険であるように思える。コロナ禍にそういった感慨を覚えた方も多いだろう。競馬界がまさに今その状態だ。長いあいだ舵を取らずに漂流したのちに、自らの責任で積極的に将来の方針を決めようとしているのだから、当然緊張を強いられることになる。
 思い出せるかぎりでは、競馬産業では分断と対立がBGMになっている。だから、じっくりと時間をかけて策定された実際の計画があって、その実行に十分な賛同が得られているというのは新鮮な経験だ。
 結局のところ改革は必要だ。それだけは当然のことと見なされているようだ。現在競馬界のリーダーたちが、"風向きによって全員がそこに連れいってもらえる"とただ願うのではなく、羅針盤の方位を選んでそこに向かって舵取りを行うようになったのは心強いことだ。
 業界横断的な商業委員会の委員長を務めるBHA(英国競馬統括機構)のデヴィッド・ジョーンズ氏は、「古典的な試行錯誤という方法です。うまくいってさらに突き進めたくなるような提案もあれば、そうならないものもあるでしょう」と述べた。
 これらの提案の中心にあるのがプレミアム化である。観客が土曜午後のあふれんばかりのレース数にたじろがされるのではなく、質の高いレースを見極められるように取り組むべきだという考え方である。ゴールデンタイムの競馬開催を3場に減らすことにより、競馬界に"呼吸するスペース"をもたらし、テレビ局が言いたいことを伝えるためのスペースを提供できると、戦略文書には記されている。
 しかしこれはある程度、ITVレーシングがすでにやっていることである。常にトップクラスのレースに焦点を合わせて、関係者についての魅力的な物語を伝えている。エクリプスS(G1)が行われる午後にビヴァリー競馬場のカードを粉砕したところで、本当に事態は好転するのだろうか?
 私はただ気になるのだ。ビヴァリーのような小規模な競馬場に、貴重な枠をあきらめて同数の観客を集めるのが難しい別の枠にレースを移動させるように頼むことが。そのような代償を払う価値があるほど、競馬界全体で利益が得られるという確証はあるのだろうか?
 それはどうか分からないのだが、意思決定者はかつてないほど大量のデータにアクセスして"競馬界に収益がどのように流入しているかを正しく把握しているのだ"と説明されている。つまり彼らの選択はできるかぎり徹底した情報に基づいていると言うのだ。BHAのCEOジュリー・ハリントン氏は記者たちにこう語っている。「より魅力的な商品を作り出して参加者を増やすことが目的です。予期せぬ結果となれば、変更することができます」。
 しかしハリントン氏は、判断を急ぐ前にこれらの変更については1年以上の猶予を与えるよう競馬界に懇願している。
 重要なのは、どの競馬場も存続の危機に追い込まれないようにすることだ。最近は競馬場にとって、放映権などの場外収益が伝統的な収入の流れ(入場料・ホスピタリティ・スポンサーシップなど)の重要性を上回っていると、ハリントン氏は見なしている。そういう前提に立てば、20年前と比べれば開催日割を改革しやすくなっているということなのだろう。
 私たちは正しい方向に向かっているのだろうか?判断するのはまだ早いが、少なくとも動き出しているのは確かだ。

By Chris Cook

[Racing Post 2023年5月25日「British racing told to be brave as wide-ranging fixture list reforms are revealed」、「Getting the wheels turning is progress - but are we sure of the direction we're taking?」]


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