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2023年04月21日  - No.4 - 1

連邦取引委員会、HISAのアンチドーピングルールを承認(アメリカ)【開催・運営】


 連邦取引委員会(FTC)は、HISA(競馬の公正確保と安全に関する統括機関)が提案したアンチドーピング&薬物規制(ADMC)ルールを承認する命令を出した。

 このルールは3月27日に施行され、ADMCプログラムは正式に開始されることになる。

 HISAは、新たに強化されたアンチドーピングルールの発効と、それが競馬にもたらす意味を概説するためにリリースを発表した。

 サラブレッド競馬史上初めて、サラブレッド競走を運営する大多数の競馬場が一律の薬物検査・施行基準を順守することになる。これらの基準は、馬の福祉を強化し競走の公正性への信頼を高めるために策定された。競馬の公正確保・福祉ユニット(Horseracing Integrity & Welfare Unit:HIWU)が運営するHISAのADMCプログラムは、すべての薬物検査とその結果を唯一の国家機関の下で管理する。また試験所が検査する物質のカテゴリーを統一し、違反に対する明確かつ一貫した罰則を設ける。

 HIWUはADMCプログラムの独立執行機関として競馬界に以下を導入することになる。

 (1)コンピュータ化された新たな検体採取システム

 (2)全米における戦略的な競技外検査

 (3)速やかな裁定を容易にする中央集権化された決定プロセス

 HISAのCEOリサ・ラザルス氏はこう語った。「史上初めて一律のアンチドーピングプログラムを導入することは、米国競馬界にとって状況をがらりと変える出来事となるでしょう。HISAのADMCプログラムは競馬にふさわしい現代的で厳格な規制の枠組みであり、公正なものです。アンチドーピングルール・理性的アプローチ・プロフェッショナルな執行により、競走の健全性を確保し、馬の福祉に対して競馬産業が真剣に取り組んでいることを示すことができます」。

 HIWUを率いる専務理事のベン・モジャー氏はこれまで、北米のさまざまなスポーツリーグや組織でアンチドーピングプログラムを監督した経験がある。ほかにもHIWUの首脳部には、サラブレッド競馬界や連邦法執行機関などのアンチドーピング分野で数十年にわたり働いた経験をもつ専門家がいる。

 モジャー氏はこう語った。「HIWUのチームはADMCプログラムの運営でHISAと提携することを光栄に思っています。このプログラムは、競馬界のアンチドーピング実施の統括方法における大きな進歩を示すものです。HIWUは数ヵ月にわたって各州の競馬委員会や競馬参加者とともに取り組み、顔を合わせての会合やリモート会合での発表、ウェブサイトの資料ライブラリなどを通じて、競馬界のすべての利害関係者に新しいルールを周知してきました。我々と一緒に取り組んできたすべての人々に感謝しています。とりわけ今回実施される新しい一律の手順のもとで任務を遂行する地元の検体採取担当者、試験所、その他の関係者にお礼を言いたいです」。

 ADMCプログラムの禁止物質リストは次の2つのカテゴリーに分けられる。(1)馬体内での存在が許容されない禁止物質。(2)指定期間外での存在が許容される規制薬物。HIWUが開発した高度情報処理検査システムで、馬は競走後および競技外にこれらの物質の検査を受けることになる。ADMCプログラムは、北中米競馬委員会協会(ARCI)、世界アンチドーピング機関(WADA)、国際馬術連盟(FEI)などが定めた国際的に認められている基準を取り入れる。

 HISA理事会のチャールズ・シーラー会長は、「サラブレッド競馬は米国の大切な文化ですが、あまりにも長いあいだ少数の悪者たちにより傷つけられてきました。彼らは州ごとに異なるアンチドーピングルールが寄せ集め状態になっているのを利用して不正を行い、本来受けるべき制裁を逃れてきました。競馬界のリーダーたちと全米のホースマンたちは、馬の福祉と公正確保を何よりも優先させるためについに一丸となりました。これにより競馬の未来が明るくなることを信じて疑いません」と語った。

 HISA のADMC委員会の会長でありテネシー・タイタンズ(NFLチーム)の副社長兼最高法務責任者であるアドルフォ・バーチ3世はこう述べた。「ADMCルールは科学的な情報に基づき、アンチドーピングと馬の福祉の分野で圧倒的知識をもつ専門家によって策定されました。競馬産業全体からの協力を得られ、このプログラムによって競馬はほかの北米のスポーツの水準やクオリティーに並ぶことになるでしょう。つまり一元化された公正確保と安全に関する規制を利用できるということです」。

 超党派の議会制定法により連邦法として成立した「競馬の公正確保と安全に関する法律(HISA)」は、州をまたがる場外馬券発売やオンライン投票の対象となる全米各地のすべてのサラブレッド競走をHISA(競馬の公正確保と安全に関する統括機関)に管轄させるものである。

 ADMCプログラムは、競馬場安全プログラムに次いで実施に移される2つ目の規制プログラムである。前者は一律のレース中の安全ルールと競馬場の認定基準を定めたもので、2022年7月1日にFTCから承認を得て発効した。

 本誌(ブラッドホース誌)は、ADMCプログラムが開始されても4州が参加しないと伝えてきた。ルイジアナ州とウェストバージニア州は、昨年ルイジアナ西部地区連邦地方裁判所のテリー・ドーティ裁判官が出した仮差止処分のため加わっておらず、テキサス州とネブラスカ州はHISAの監視下に入るよりも、州外でのサイマルキャスト発売を実施しないことを選択した。

 またHISAの始動を阻止するために訴訟を進めてきた全米ホースメン共済協会(NHBPA)も、3月27日(月)に声明を発表した。

 NHBPAの会長であるダグ・ダニエルズ博士はこう述べている。「HISAが『競馬の公正確保と安全に関する法律(HISA)』の実施を急ぐ中、FTCはまたもや重大な不備のある一連のルールを軽率に承認しています。また競馬産業が抱いている懸念は考慮されなければならず、FTCの誰もそれに耳を傾けていないと私たちは思っています」。

 「我々が骨を折らなければ将来への不安はつのるばかりです。本日、テキサス州北部地区の裁判所に申立てを行い、裁判官にこれらのルールの発効を直ちに停止するよう求める予定です」。

 米国第5巡回区控訴裁判所は昨年末、HISAを文面上違憲であると宣言した。12月30日のこの判決に対し、連邦議会は第5巡回区の判決を覆すためにHISAの監督機関である連邦取引委員会(FTC)にさらなる権限を付与した。第5巡回区は法改正を踏まえて判決を再考するよう求められたため、テキサス州とルイジアナ州の連邦地裁に審理を差し戻すことにした。

 各州の競馬委員会の統括組織である北中米競馬委員会協会(ARCI)のエド・マーティン会長はリリースにおいて、HISAをめぐって進行中の訴訟が、HISAが施行しようとする規制についての判断に影響を与えることを懸念していると述べている。

 「サラブレッド競馬界は引き続き懸念を持つべきです。憲法上の問題が宙に浮いたままであることを理由として、有能な法的代理人がいる上訴人によって、HISAのルールの下で課された罰則が無期限に執行停止されることのないようにしなければなりません。以前の判決の流れを変えて、州法に代えて堅実な法律に基づく連邦政府の優先的ルールを承認するにあたり、これが今後どのように展開されるかについて我々は引き続き懸念を有しています」。

 「未解決の憲法上の問題が、不正者が立件されてもただちに制裁を受けないことの理由になるのであれば、競馬産業、ひいては一般の人々のためにならないでしょう」。

 「上訴を避けるための方法として、より甘い"司法取引"をもたらすこととならないよう望んでいます。上訴の審理が行われる裁判所では、『競馬の公正確保と安全に関する法律(HISA)』の合憲性が解決されるまで、業務停止処分や過怠金の執行が停止される可能性があるからです」。

By FTC, HISA

HISAのアンチドーピングルール、発効4日後に30日間の停止の判決

 HISA(競馬の公正確保と安全に関する統括機構)が3月27日(月)に連邦取引委員会(FTC)の承認を得たその日にアンチドーピング&薬物規制(ADMC)プログラムを即時実施したことは行政手続法の違反だとして、連邦判事はADMCプログラムを5月1日までの30日間停止することとした。

 テキサス州北部地区ラボック支部のジェームズ・ヘンドリックス連邦地裁判事は、3月31日(金)の午後遅くにこの判決を下した。全米ホースメンズ共済協会(NHBPA)・テキサス州・テキサス州競馬委員会(Texas Racing Commission)などがHISAを相手取って起こした訴訟は継続中である。

 ヘンドリックス判事はこう記している。「監督機関が実体的なルール、つまり行動を統制するようなルールを定める場合、確定ルールが公示されてから発効するまで通常30日間待たなければなりません。これは取締りを受ける当事者がルールの妥当性に異議を唱えたり、ルールを順守したりするための時間を確保するためです。しかし、アンチドーピングルールは確定したものとして公示されたその日に発効しました。その結果、このルールは行政手続法に違反しているので、原告とそれ以外の人々にも30日間の猶予が与えられることになります」。

 昨年末の米国第5巡回区控訴裁判所の判決ほどダメージはないものの、3月31日(金)の判決はADMCプログラムを停滞させる。昨年末の判決はHISAを違憲とし、それにより立法者たちはFTCによる監視を強化することを内容とする明確な条項をこの冬に通過させた。

 HISAのCEOリサ・ラザルス氏はこう語った。

 「いったん各州に鍵を返し、5月1日にふたたび引き継ぐ体制を整えておきます」。

 「検体から陽性反応が出れば、州のルールに基づいて起訴されます。もちろん、各州の競馬委員会に対しては裁判所の命令との関係でできるかぎりの管理上および運営上の支援を行うつもりです」。

 HISAの関係者は、今後30日間で陽性反応が出た場合はADMCルールが適用されることはなく、この期間に開始された司法判断は州のプロセスに即し継続されると述べた。

 NHBPAは3月27日(月)、ADMCルールがただちに発効した場合、ホースマンたちが回復不能な損害を受ける可能性があると主張し、裁判所に救済を要請していた。

 ヘンドリックス判事はこう記している。「ADMCルールは個人の権利と義務に明らかに影響を及ぼします。なぜなら何よりもこのルールは対象者が該当施設での抜き打ち検査に応じること、対象馬の体内に禁止物質が確実に存在しないようにすることを要求し、さらにかなりの財政的影響を及ぼす罰則を課すことになるからです」。

 NHBPA のCEOエリック・ハメルバック氏はこう語った。「NHBPAがまたもや法廷でHISAを負かしたことを大変嬉しく思っています。HISAとFTCが今回新しいルールを急いで実施したのは無謀で無責任なことでした。ホースマンたちには時間が必要であり、NHBPAがふたたび彼らを支援できたことを嬉しく思います。第5巡回区控訴裁判所は以前私たちが起こした訴訟でHISAは違憲であるという判決を下しました。今後もそう判断してくれると期待しています」。

 ラザルス氏はこの判決が下された数時間後にビデオ会議でメディアと話していた。そこで、今回の判決にはがっかりしたが、自身をはじめHISA関係者は30日間の停止について上訴しないと述べた。

 そして、今回の判決をHISAとはほとんど関係なく"FTCのプロセスに関わるもの"とした。

 「最終的に競馬産業に貢献するために私たちはここにいるのです。上訴すればさらなる混沌を招くだけだと思いますので、現時点ではあと30日間ということですから、そのために計画を立て、コミュニケーションを図ることとし、紆余曲折は避けようと思います」とラザルス氏は語った。

 3月31日(金)の判決は、法律の文言が変更されたあとのHISAの合憲性について取り扱ったものではない。

 ラザルス氏は、ADMCの検体採取プロセスはスムーズに実施されており700以上の検体が採取されていると述べ、こう続けた。

 「もし陽性反応が出た場合は各州に検体を返却し、その結果に基づきどうするか、各州が司法判断を下すことになります。彼らは起訴すると考えますが、それらの法的任務をどのように処理するかは各州の判断に委ねられているのです」。

 「ADMCプログラムが5月1日まで保留とされても、HISAの競馬場安全プログラムはひき続き有効です。そのプログラムは鞭と蹄鉄の使用を規定するものです」。

 ラザルス氏は3月31日(金)の判決について、"一過性の小さな問題"と考えていると述べ、「前向きに取り組み続けます」と付け加えた。

By Byron King and Molly Pollins

(関連記事)海外競馬情報 2022年No.12「連邦取引委員会、HISAのアンチドーピングルール案を不承認(アメリカ)」、海外競馬ニュース 2022年No.30「HISAの"競馬の公正確保・福祉ユニット"のリーダーが決定(アメリカ)」、2023年No.5「米国ジョッキークラブの理事長、現状を擁護するARCIの会長を批判(アメリカ)

[bloodhorse.com 2023年3月27日「FTC Approves HISA's Anti-Doping Medication Control Rule」、3月31日「HISA's Anti-Doping Program Suspended 30 Days」]


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