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2022年08月23日  - No.8 - 1

HISAの発展に向けて結束が呼び掛けられる(アメリカ)【開催・運営】


 7月1日にHISA(競馬の公正確保と安全に関する統括機関)の安全ルールが施行され議論が高まっているが、HISAのCEOリサ・ラザルス氏はその騒ぎの裏にはこのイニシアティブが全体としては受け入れられているという自身にとって励みとなる流れが存在すると指摘する。

 ラザルス氏は8月14日(日)に米国ジョッキークラブの競馬の諸問題に関する円卓会議(ニューヨーク州サラトガスプリングス)で話したときに、HISAのために結束を呼び掛けながらこの指摘を行った。HISAは今年競馬の安全問題の監督を開始したほか、来年の1月1日にアンチドーピングの取組み・薬物検査・試験所の監視を開始する。

 ラザルス氏はこう語った。「人々がやって来て『蹄鉄ルールが気に入らない』もしくは『鞭使用ルールが気に入らない』と言うとき、私は"彼らはHISAを支持しているのだ"と考えます。なぜなら、彼らはプログラムにとって何が最善であるか、どうすればHISAは最高のものになるかを私たちと一緒に考えているからです。"安全性や健全性を規制する全米で統一された機関が必要である"という根本的な原則は、競馬産業によって受け入れられるべき、受け入れられなければならないのです」。

 とはいえ、ラザルス氏は実際にはHISA導入への反対運動が続いていることも認めており、4件の訴訟がHISAへの抵抗感を最も目に見える形にしていると述べる。そしてHISAが法廷で闘うために180万ドル(約2億4,300万円)を費やしたと語り、最終的にそれを支払うのは競馬産業であることを皆に思い出させた。

 ラザルス氏はHISAの合法性に対する異議申立ての企ては1つも成功していないとしながら、HISAを創設した議員たちを評価し、こう続けた。「あいにく、HISAを訴訟から守るために膨大な時間と競馬産業の財源を費やしてきました。ご存じのようにHISAは競馬産業により資金提供されています。そのため、これらの訴訟の費用は最終的に競馬産業によって支払われ、皮肉なことに一部はHISAに訴訟を起こしている団体によって支払われているのです。本当に恥ずべきことです」。

 「これは競馬をより安全にするための前向きな改革に費やされるはずの競馬産業の資金です。とても残念です。なぜなら業界が団結してできることはたくさんあるはずであり、先ほど申し上げたとおり、団結こそが私が情熱を傾けている基本的な指針の1つだからです」。

 ジョッキークラブのスチュアート・S・ジャニー(Stuart S. Janney III)会長は締めくくりの言葉として、いくつかの訴訟を振り返り、HISAの合法性が一貫して認められていることに言及した。そして、ルイジアナ州の連邦地方裁判所は対象馬の定義や捜索押収ルール等について適法化のための自主改善をHISAに求めたが、その判決ですらHISAの合法性については認めていると述べた。

 「ルイジアナ州の連邦地裁はそれでもHISAのルールの施行を止めることはできないと認めたのです」とジャニー会長は語った。

 HISAの運営が展開する中、安全性とアンチドーピングのルールが進化し続けていることをラザルス氏は強調した。また協力体制を重視し、誠意を持って接してくるあらゆるグループに対して対話の機会を設けているという。さらにラザルス氏は、HISAがもうすぐホースマングループを含むいくつかの顧問団を結成する予定であることを明らかにした。重要な問題についての利害関係者の関与を強化するためである。

 ラザルス氏は、「競馬はユニークなスポーツです。謙虚な気持ちで、業界メンバーがもつ豊富な経験と専門知識に感謝しながら、今後のルールの進展と評価に取り組んでいきます」と語った。

 HISAがこうした協力関係の構築に努力する一方で、現在係争中の裁判にHISAの支持者がうんざりしているのは明らかだ。ジャニー会長は訴訟を起こしてきたHISA反対派を「政治的圧力が強い州、たちの悪いホースマングループ、そして驚いたことに騎手組合(Jockeys' Guild)です」と言い表した。

 このホースマングループとは全米ホースメン救済協会(National Horsemen's Benevolent and Protective Association: NHBPA)のことであり、このような協会の中でも全米最大である。NHBPAのCEOエリック・ハメルバック氏は春の総会で、HISAの合法性に懸念があると述べていた。騎手組合からの反論は主に、鞭に関するルールについて鞭使用と鞭そのものの観点からの懸念が持ち上がっていることに起因する。

 ジャニー会長はHISAのルールが施行されることで騎手が得られる恩恵についてこう説明した。

 「各競馬場には騎手の健康と安全を監督するメディカルディレクターが置かれることになります。脳震盪の治療や騎乗再開プロトコルの統一基準、強制保険や医療情報の要求、馬の安全性を促進するルールなどが実施されます。騎手にとってHISAは安全性の問題で恩恵をもたらす一生に一度の機会だと言えます」。

 8月14日(日)の円卓会議では安全性とアンチドーピングの監視がきわめて大事であるということについての説明があった。ジョッキークラブの理事長兼COOであるジム・ギャグリアーノ氏が、2020年に二十数名が起訴された競馬界への捜査に携わった元FBI捜査官のジョン・ペンザ氏にインタビューしたのだ。起訴された者の多くは有罪判決を受けた。その中には、かつて名声をあげていたホルヘ・ナヴァロ元調教師もいた。

 ペンザ氏は現在、2016年にジョッキークラブが採用した捜査会社ファイブストーンズ(5 Stones)で国際捜査担当部長を務めている。そこで行った仕事も今回の起訴に一役買っている。

 ペンザ氏はナヴァロ元調教師についてこう語った。「"ジュースマン"の文字があしらわれた靴を履いている人がいたとして、その人物が何も恐れず厩舎の中にその靴を置きっぱなしにするのであれば、何かが間違っています。そのような行動が続けられると思いますか?そんなことは絶対にありえません」。

 ペンザ氏は変化が起こると信じており、その理由は全米レベルで競馬を監督するHISAの導入であると述べた。そして、潜在的な不正に関する懸念や苦情があればHISAが捜査するという態勢が整うだろうと語った。

 NTRA(全米サラブレッド競馬協会)の理事長兼CEOであるトム・ルーニー氏は、HISAは競馬界が馬を守りクリーンなスポーツを運営していることを一般の人々に保証する絶好の機会を与えると述べ、こう続けた。

 「競馬界が今後何年にもわたって成功し続けるためには、NTRAの競馬場の安全性・公正確保に関する同盟(Racetrack Safety and Integrity Alliance)などに基づく競馬場の安全性、アンチドーピングおよび薬物規制の統一基準、高度な健全性といったものが私たちの最優先事項であることを、一般の人々にも納得してもらえるようにしないといけません」。

 「これらすべてを実現するためにHISAは活動しています。リサ・ラザルス氏とそのチームに成功するチャンスを与えることが大切です。なぜなら、彼女の成功はサラブレッド競馬界全体の成功であり、将来の世代のために競馬というスポーツを維持することを意味するからです」。

 ジョッキークラブ・インフォメーション・システムズ社(Jockey Club Information Systems Inc.)のカール・ハミルトン社長は、ジョッキークラブの活動に関するプレゼンで、ソフトウェア"エクイタップス(EquiTAPS)"の開発について言及した。このソフトウェアは、馬の治療の追跡に関する新しい要件を満たすのに役立つ。またエクイベース社がHISAにデータを提供してルールの策定を支援したことも指摘した。

 民主党上院院内総務であるチャック・シューマー議員(ニューヨーク州選出)は録音メッセージの中で、HISAにより競馬界は"今後何年にもわたって明るいものになる"と指摘した。そして、ニューヨーク州やほかの州で競馬が大きな経済効果をもたらしていることに言及し、競馬産業が健全で強くあることが重要だと述べた。

 ラザルス氏はHISAがすべての体制を整えるには、ある程度の時間と猶予が必要だと述べた。一方で、HISAが競馬界に新たな楽観主義をもたらしている証拠として、主要な競馬開催の発売金増加や、セリが最近活況であることを挙げた。そして自ら馬券を買うことはないが、HISAに「賭けている」と締めくくった。会場ではスタンディングオベーションが起こった。

 ジャニー会長は最後の締めくくりとしてこう呼び掛けた。「皆さん、HISAのために結束するときです。競馬にとって素晴らしいことです。HISAは合法でありもう浸透しているのです」。

By Frank Angst

(1ドル=約135円)

 (関連記事)海外競馬ニュース 2021年No.48「組織的ドーピングを画策したナヴァロ調教師に5年間の禁固刑(アメリカ)」、2022年No.9「全米ホースメン共済協会、HISAへの懸念について語る(アメリカ)

[bloodhorse.com 2022年8月14日「Lazarus Calls for Unity as HISA Continues Rollout」]


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