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2015年01月20日  - No.1 - 5

輝かしいキャリアを積む海外遠征馬(国際)【その他】


 近頃、大旅行家を見つけることができる唯一の場所はハーレムである、ということは断じてない。実際には、ニューマーケットやランボーンのような場所に、ほんの一握りであるが居る。それは海外に遠征する英国調教馬、言うなれば“チーム・グレートブリテン”であり、このところますます実入りの良いキャリアを積み重ねているが、本国で競馬場に足を踏み入れることはめったにない。

 メイダンからメルボルンサンタアニタからシャティンにいたるまで、一攫千金のチャンスは世界中の競馬場に転がっているが、英国調教馬はそれを手にするためにしばしばそれらの場所に赴いている。たとえば、トーストオブニューヨーク(Toast Of New York)の例を考えてみよう。マイケル・バックリー(Michael Buckley)氏所有のこの3歳馬がBCクラシック(G1)の2着となるや否や、ジェイミー・オズボーン(Jamie Osborne)調教師は野心的な2015年出走計画の概略を示したが、どうやら欧州では出走させないようだ。その理由は簡単である。このアッパーランボーン拠点の牡馬は140万ポンド(約2億5,200万円)の賞金を獲得しているが、これまでの8戦のうち英国で出走したのはたった3戦で、英国で獲得した賞金は140万ポンドの内たった5,106ポンド(約92万円)だ。

 トーストオブニューヨークは、キャリアのかなり早い段階で芝以外の馬場への適性が確認された非典型的な例である。一方、レッドカドー(Red Cadeaux)、サイドグランス(Side Glance)、トレードストーム(Trade Storm)のような典型的な遠征馬はもっと高齢の熟練した競走馬であり、それらは皆、遠方の国々で大金を稼いでいる。どの馬も本国ではG1勝利を挙げておらず、欧州での獲得賞金はとても100万ポンド(約1億8,000万円)には達しないだろう。欧州調教馬の獲得賞金ランキング上位10頭のうち、欧州だけで出走しその地位を確立しているのはたった2頭である。
 

欧州調教馬の獲得賞金ランキング
1.   シリュスデゼーグル £5,903,640(10億6,266万円)
2.   グロリアデカンペオン(Gloria De Campeao) £5,898,547(10億6,174万円)
3.   トレヴ(Treve)* £5,391,949  (9億7,055万円)
4.   ドゥーナデン £5,271,584  (9億4,889万円)
5.   セントニコラスアビー £4,954,590  (8億9,183万円)
6.   レッドカドー £4,560,492  (8億2,089万円)
7.   シーザスターズ(Sea The Stars)* £4,417,163  (7億9,509万円)
8.   ゴルディコヴァ(Goldikova) £4,364,886  (7億8,568万円)
9.   プレスヴィス £4,318,943  (7億7,741万円)
10. スノーフェアリー £3,911,804  (7億  412万円)

*:欧州のみで出走
(ドバイカーニバルにおけるゴドルフィンのアフリカンストーリー(African Story)やモンテロッソ(Monterosso)はUAE調教馬と見なす)。


 ルカ・クマーニ(Luca Cumani)調教師は、米国、カナダ、日本、ドバイ、香港、シンガポールでG1勝利を果たし、メルボルンカップ(G1)では惜しい結果を繰り返してきた。他の大多数の英国人調教師よりも長距離遠征で成功している同調教師は、海外遠征は賞金面で魅力的であると述べた。

 ニューマーケットを拠点にしながら1983年アーリントンミリオン(G1)勝馬トロメオ(Tolomeo)で海外遠征の突破口を見つけたクマーニ調教師は、次のように語った。「英国と同等の賞金であれば、わざわざ遠くの国のレースに参戦するかどうか分かりませんが、遠征にはあるタイプの競走馬が必要です」。

 「遠征させるタイプの馬は、欧州で種牡馬になるほど優秀ではない馬か、せん馬です」。

 「ブリーダーズカップは別として、海外G1で優勝しても欧州G1を制するほど高い名声は得られません。欧州で種牡馬入りさせたいのであれば、欧州G1で優勝しなければなりませんが、すでに優勝しているのであれば、ドバイシーマクラシック(G1)やドバイワールドカップ(G1)、あるいはジャパンカップ(G1)に挑戦しても良いかもしれません。しかし、プレスヴィス(Presvis)やレッドカドーのような馬であれば、たとえ去勢されておらずせん馬でなかったとしても、海外G1で優勝しただけでは種牡馬所有者をワクワクさせることはないでしょう」。

 8歳せん馬レッドカドーは昨年11月、メルボルンカップで3回目の2着を記録して豪州で誰もが知る馬となり、遠征馬という新ジャンルの旗手となった。ウェリビーインターナショナルホースセンター(Werribee International Horse Centre)がその功績を記念するため馬房に名前を付けるほど、この馬は有名であるが、2歳のときにはエド・ダンロップ(Ed Dunlop)調教師に“ウォレンヒル調教場(Warren Hill)の中でも進歩が遅すぎる”と言われていた。


魅力的な入着賞金

 レッドカドーは、2012年5月のヨークシャーカップ(G2)優勝以来英国で勝利を収めておらず、また、2012年香港ヴァーズ(G1)優勝以来どの国においても勝利を収めていないが、これまでに450万ポンド(約8億1,000万円)を獲得している。ワールドツアーにおいて入着賞金は非常に魅力的であるようだ。

 ダンロップ調教師は次のように語った。「正直なところ、レッドカドーに70前半のレーティングが付いていたとき、その後これほど活躍するとは思っていませんでした。ずっと脇役だったのは認めざるを得ませんが、まさに年齢とともに進化しています。5歳になるまでリステッド競走(準重賞)で勝てませんでした」。

 「メルボルンカップに出走登録するには今ではG1で勝てる資質がなければなりませんが、私たちが初めて参戦したときには出走登録はずっと簡単で、レッドカドーにほとんど注意が払われませんでした。彼は写真判定の結果ハナ差で負けましたが、後は知ってのとおりの経歴です」。

 デヴィッド・シムコック(David Simcock)氏やアンドリュー・ボールディング(Andrew Balding)氏のような調教師にとって、大陸横断の遠征は不可欠である。たとえば、ドバイカーニバルの常連シムコック調教師は、トレードストームとシェイクザイードロード(Sheikhzayedroad)でカナダ・ウッドバイン競馬場のG1競走で2勝するなど、北米で多くの高額賞金を獲得している。同調教師は、この冬メイダンの新しいダートコースで走らせるために米国馬2頭をすでに購買している。そして次のように語った。「英国は世界中のどこにも負けない競馬を施行していますが、その賞金額は一部の馬にとってあまり後押しとなりません。しかし、一部の馬は海外に遠征することができ、それほど強豪ではない馬と戦い勝利を収めることができます」。

 「シェイクザイードロードはまさに、海外G1で健闘できるG3・G2級の馬です」。


膨大な移動距離

 ボールディング調教師は、フェニックスリーチ(Phoenix Reach)でカナディアンインターナショナルS(G1)、香港ヴァーズ(G1)、ドバイシーマクラシック(G1)を制し、この11月にサイドグランスで豪州のマッキノンS(G1)を制するなど、世界中の競馬番組から賞金を搾り取ることに熟達している。

 サイドグランスの強みは、優勝こそはしないが、世界有数の権威あるレースに参戦することである。これまで、ドバイワールドカップ・コックスプレート・アーリントンミリオンにそれぞれ2回参戦している。

 ボールディング調教師は次のように語った。「私たちは通常4歳になるまで馬を遠征させません。3歳で米国に遠征させてみることもあるかもしれませんが、通常十分に走り込み、肉体的にも精神的にも成熟したときに海外遠征は役立ちます。サイドグランスはせん馬ですが、フェニックスリーチは去勢されていなかったので牝馬を気に掛けていました。それでもプロ意識がとても高いので、そのようなことに煩わされることなく、さまざまな国で勝利を収めました」。

 「海外遠征で活躍する馬に共通して言えることは、気質が素晴らしく、馬主が熱心なことです。海外遠征には多くの費用が掛かりますので、それを支出する覚悟のある人が必要です。うまく事を進めれば、報酬が大きいことははっきりしていますが、常に少しばかりのリスクが伴います」。


海外遠征に向いた気質

 2011年にウィンザー競馬場とアスコット競馬場でリステッド競走を制したとき以来、サイドグランスのレーティングが海外G1で優勝したのにRPR119のままであることは興味深い。

 「“世界は狭く、高額賞金を提供する場所はいくつかあるので、活躍するだろう”と考えられる馬が厩舎にいれば、常にその選択肢をじっくり検討しています」とボールディング調教師は語った。

 そして次のように続けた。「海外遠征ではさまざまなことに遭遇するので、丈夫な馬であることが必要です。トラブルになるので、問題を抱えている馬を選ぶことはできません。海外遠征馬は、空港での遅延、長時間の直立や待機を我慢できる素晴らしい気質を持っていることが理想的です。気が張り詰めて、リラックスできない馬を遠征させることはできません」。

 調教師にとって最も重要な要素は2つある。それは、素晴らしいスタッフ[ダンロップ調教師の助手のロビン・トレヴァー-ジョーンズ(Robin Trevor-Jones)氏と、ボールディング調教師の助手のリーン・マスターソン(Leanne Masterson)氏は有名である]と、費用負担を厭わない馬主である。ダンロップ調教師は「馬主はこの点を忘れがちですが、レッドカドーの馬主ロニー・アカーリ(Ronnie Arculli)氏は所有馬をメルボルンカップ勝馬にするように、いつも私たちを駆り立ててきました」と語った。

 クライヴ・ブリテン(Clive Britain)調教師がメルボルンと日本に遠征した後は、海外遠征には馬の気質よりもスタッフの方がずっと重要な要素であるということを誰もが考えるようになった。「海外遠征に一番重要なのは、実際に馬に接するスタッフの気質です。遠征に同行する厩務員は馬と1対1の時間を持ち、個々の馬に十分配慮することが必要です。遠征から戻ってきた馬が遠征前よりもずっと人なつこくなっていることによく気付かされます」とブリテン調教師は述べた。

 クマーニ調教師は、2008年メルボルンカップの2着馬バウアー(Bauer)が、そのいつもの旅仲間である有名なアイルランド人獣医師デス・レドゥン(Des Leadon)氏に対し、まるで『特攻野郎Aチーム(the A-Team)』に登場するB・A・バラカス軍曹(訳注:大の飛行機嫌い)のようになっていた例を挙げた。「彼らは馬房では仲良くできましたが、飛行機の中では最悪でした。馬にも良い乗客もいれば、悪い乗客もいるのです。バウアーは最低の乗客でした。デスはバウアーがパニックを起こし倒れて怪我をするかもしれないので、鎮静剤で落ち着かせました。本当に酷い乗客でしたが、最終的には眠り込んでしまうのですから、不思議なことにバウアーにとって遠征はそれほど大きな負担にはなりませんでした」。


費用がかかる海外遠征

 海外遠征を計画するには、馬がある程度の能力を持っていることが重要である。海外のレースで提供される果実(賞金)が本国と比べて低い位置にぶら下がっているにしても、重賞勝ちを収める程度の実力が必要である。

 シムコック調教師は次のように語った。「挑戦する価値のあるレースでは、レーティングが110以上で気質が良い、G2〜G3を勝てる馬を探すべきです。海外遠征に掛かる時間、労力および金銭を考えれば、どこに遠征しようとも基本的に勝利を目指すことになります」。

 遠征馬に対し遠征費の補助やその他の奨励金を出す主催者はあるが、カナダへの往復旅行は1頭につき2万5,000ポンド(約450万円)掛かる。また、豪州での2ヵ月間の滞在費は10万ポンド(約1,800万円)と見積もられる。フレミントン競馬場では10着馬にまで賞金が支給されることを考えても、実績を残していない馬に掛かる資金は膨大である。

 ダンロップ調教師は次のように語った。「チャンスがかなりあると考えたときに、十分な能力があると分かっている馬を遠征させてきました。レッドカドーについては、気が遠くなるほど高額の遠征費がかかりましたが、黒字になっているので幸運です」。

 それでも、海外遠征向きの馬を見つけだせば、驚くほどの利益をもたらすことになるかもしれない。それはレッドカドーやその仲間たちによって如実に示されている。

By Nicholas Godfrey
(1ポンド=約180円)

[Racing Post 2014年12月2日「The Jet Set」]


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