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2023年08月24日  - No.32 - 1

クールモア、矢作調教師に競り勝ってシユーニ産駒を手に入れる(フランス)[生産]


 アルカナ社8月セール(8月18日~20日 ドーヴィル)の第3日目に目の当たりにしたことほど、サラブレッド生産の世界が狭くなったと感じさせるものはなかった。この日、クールモアのM・V・マグニア氏は220万ユーロ(約3億5,200万円)のハッと息をのむような落札を行った。

 マグニア氏が狙っていたのは、フランスのリーディングサイアーであるシユーニの牡駒だった。この牡駒は、チャイナホースクラブが米国で手に入れたガリレオ牝馬(アイルランド産)で生産した馬だ。この取引をいっそう国際色豊かなものにしたのは、競り負けた人物の正体である。それは日本の一流トレーナーである矢作芳人調教師である。彼の必死の挑戦をマグニア氏は振り切らなければならなかったのだ。

 この牡駒はアワーグラスの3番仔であり、マグニア氏がよく知る血統に属している。アワーグラスは名種牡馬シャマルダルの半妹であり、かつてはクールモアパートナーズの服色で出走していたが、2019年11月のキーンランドのセリでチャイナホースクラブにより110万ドル(約1億5,950万円)で購買されたのだ。

 また、マグニア氏はその前にリングに登場したウートンバセットの牡駒も80万ユーロ(約1億2,800万円)で落札していた。この牡駒の母はレキント(G2フライングチルダーズS勝馬)の半妹ホーリーローマンエンプレス(父アメリカンファラオ)である。

 いずれの牡駒も名門であるモンソー牧場により上場された。

 シユーニの牡駒と同様に、このウートンバセットの牡駒もチャイナホースクラブが以前クールモアの服色で出走していた牝馬を迎え入れて生産した馬である。母ホーリーローマンエンプレスは現役時代、エイダン・オブライエン調教師のもとでパンチェスタウンのハンデ戦を制している。そして28万ギニー(約5,439万円)で落札され、チャイナホースクラブの繁殖牝馬群に加わっている。

 観客席の薄暗いトップデッキで父親のジョンと一緒にいたマグニア氏はこう語った。「2頭とも素晴らしい牡駒ですね。たいへん興味深いことなのですが、私たちは数年前に彼らの母馬を売却していたのです」。

 「そのことを思い出してこれらの牡駒を落札しました。なぜなら、チャイナホースクラブは優秀な生産者ですし、モンソーは素晴らしい牧場だからです。彼らの馬を育てる手腕は見事なもので、2頭を手に入れられてラッキーです。2頭ともバリードイル(クールモアの調教拠点)に行くでしょう」。

 アガ・カーン殿下のボンヌヴァル牧場にいるシユーニは、クールモアの競馬事業にとってますます重要な種牡馬になりつつある。アイルランドのこの競馬帝国はシユーニ産駒であるセントマークスバシリカとソットサスを供用しており、パディントンは8月23日(水)の英インターナショナルS(G1 ヨーク)でバリードイルの最強3歳馬としての地位を確実にしようとしている。

 マグニア氏はこう続けた。「今回のセリはソットサスにとって目を見張るようなものとなりました。1歳産駒の評判がかなり良かったのです。ソットサスはとても丈夫な馬で、現役時代には良馬場でも重馬場でも勝利を挙げることができ、仏ダービー(G1 ジョッケクルブ賞)をレコードタイムで制したのです。ここでの産駒の売行きは素晴らしいものです」。

 「セントマークスバシリカは素晴らしい当歳馬を送り出しており、私たちはとてもワクワクしているのです。ここでだけでなく彼が豪州にシャトルされた際も、優秀な繁殖牝馬を多く送っています。そしてもちろんパディントンもいますね。ほかとは格が違っているようですから、水曜日のインターナショナルSがとても楽しみです」(訳注:英インターナショナルSでパディントンはモスターダフの3着に敗れた)。

 このシユーニの牡駒はモンソー牧場に、2頭目の100万ユーロ以上の落札馬をもたらした。初日にはゴドルフィンがドバウィ牡駒(母プリティスピリット)を125万ユーロ(約2億円)で落札していた。

 モンソー牧場のアンリ・ボゾ場長はこう語った。「父シユーニ×母父ガリレオの組合せはとても魅力的です!クールモアが20日(日)に、私たちが上場した中で最高価格の2頭を購買したことは強い信頼の印であり、彼らが成功することを祈っています。このセールに訪れる新規投資家は年々増えており、大規模な競馬事業体の主要人物が来られることで、誰からも信頼されるようになります」。

矢作調教師もウートンバセットの牡駒を100万ユーロで落札

 矢作調教師は3日目の最高価格を記録したシユーニ牡駒を落札できなかったかもしれないが、この日の後半に、クーロンス牧場(代表:アンナ・サンドストローム氏)が上場したウートンバセットの牡駒(母マジックアメリカ)を100万ユーロ(約1億6,000万円)で獲得した。

 現役時代にG3を制したマジックアメリカは勝馬5頭を送り出しており、今回100万ユーロで落札されたこの牡駒は、リステッド勝馬ルックアラウンドとG3・2着馬サラルシルの半弟にあたる。

 演台の反対側の席にいた矢作調教師はこう語った。「ウートンバセットは日本の競馬に合った種牡馬だと思うので、ぜひ産駒を買いたいと思っていました」。

 「金曜からここに来ていますが、全体的な印象としてとても盛況なセリだと思います。この牡駒の購買が今回最後の落札になります。私にとって100万ユーロが限界だと思いますね。ここで2頭を購買しましたが、ほかに狙っていた2頭はクールモアに競り負けてしまいました。でもこの牡駒にはとても満足しているのです」。

 矢作調教師にとってドーヴィルでの100万ユーロ以上の落札はこれが初めてではない。ちょうど1年前にもソットサスの全弟を210万ユーロ(約3億3,600万円)で落札してその牡駒はセール最高価格馬となった。そのシユーニの牡駒(母スターレッツシスター)はまだデビューしていないが、シンエンペラーと名付けられている。矢作調教師が今回購買したもう1頭はカメコが初年度に送り出した牡駒であり、14万ユーロ(約2,240万円)で落札した。

魅力的な指標

 セリは最初から活況であり3日間その熱が弱まることはなかった。さまざまな指標で過去最高値を記録した力強い統計によりそれは証明されている。

 セール全体の総売上額は5,694万9,000ユーロ(約91億1,184万円)に達し、過去最高記録だった昨年より15%上昇した。また平均価格は前年比11%増の23万2,445ユーロ(約3,719万円)だった。最も信頼できる市況指標とされる中間価格は17万ユーロ(約2,720万円)で昨年の14万ユーロ(約2,240万円)から21%増加した。また、上場馬283頭のうち245頭が購買されたので、売却率は8月セールとしては過去最高の87%となった。
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By James Thomas

(1ユーロ=約160円、1ドル=約145円、1ポンド=約185円)

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