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2022年08月18日  - No.30 - 2

矢作調教師、ソットサスの全弟を獲得(フランス)[生産]


 "最初は成功しなくても何度も試してみなさい"という格言がある。アルカナ社8月1歳セール(8月13日~15日)の2日目に矢作芳人調教師が行ったのはまさにそれだ。その結果、210万ユーロ(約2億8,350万円)という驚異的な価格で落札したソットサスの全弟(父シユーニ)を手掛けられることになったのである。

 矢作調教師は前日、シャマルダルの牡駒(母レディフランケル)をめぐって160万ユーロ(約2億1,600万円)の値をつけたゴドルフィンに競り負けた失意の入札者という役を演じていた。しかし今回は"手ぶらで帰るわけにはいかない"と固く決意していたようだ。

 ドーヴィルのセリ会場の観客席は満員状態だった。モンソー牧場(Ecurie des Monceaux)が今年上場する優良牝馬スターレッツシスターの仔を見ようと、生産界の重鎮や興味津々な競馬ファンが押し寄せたのだ。演壇の正面にある砂のショーリングを何度か回っただけで、価格は65万ユーロ(約8,775万円)に達し、そのあと5万ユーロ(約675万円)ずつ上がり始めた。

 価格が100万ユーロ(約1億3,500万円)の大台に乗ると、観客席の最上段にファハド殿下と目立たなく立っていたデヴィッド・レッドヴァース氏(カタールレーシングのレーシングマネージャー)が矢作調教師に食らいつこうとした。しかしレッドヴァース氏が指を立てて10万ユーロ(約1,350万円)の値上げを合図するたびに、数段下に座っていた日本の調教師は即座にそれに応じるのだった。

 観客が210万ユーロ(約2億8,350万円)の価格にハッと息をのんだとき、レッドヴァース氏は首を横に振り、小槌が振り下ろされた。

 7桁の売買契約書に署名した矢作調教師はこう語った。「もちろん素晴らしい血統です。ソットサスは凱旋門賞(G1)を勝ち、マイシスターナットは昨年のBCフィリー&メアターフ(G1)でうちのラヴズオンリーユーの2着に入りました。動きのいい牡駒で大好きです。日本に連れて帰って日本ダービー(G1)で優勝することを期待しています」。

 この牡駒がフランスに戻ってきて凱旋門賞に出走する日が来るのかという見込みについて、矢作調教師は「もちろんです!そうなったらいいですね。ドーヴィルに来るのは初めてではないのですが、街の雰囲気もセリも大好きです。美しいですから」と述べた。

 そして、この牡駒のオーナーは明らかにできないが"新しい日本人馬主"であると付け加えた。

 この牡駒は、最高級の繁殖牝馬としての地位を急速に確立したスターレッツシスター(父ガリレオ)の第8仔である。スターレッツシスターの仔のうち5頭が出走し5頭とも勝利を挙げている。中でもソットサスは、仏ダービー(G1 ジョッケクルブ賞)やガネー賞(G1)での勝利、そしてキャリアを決定づけた2020年凱旋門賞の制覇など6勝を達成している。

 スターレッツシスターの初仔は米国最優秀芝牝馬シスターチャーリー(父マイボーイチャーリー)である。アレックス・パンタール調教師に管理されフランスで3勝し、チャド・ブラウン厩舎に移籍して2018年BCフィリー&メアターフ(G1)での勝利を含む驚異的なG1・7勝を達成した。

 スターレッツシスターは次のような仔も送り出している。

・ マイシスターナット(父アクラメーション)...G3・3勝。3つのG1競走で3着内に入った。

・ ピュアディグニティ(父ドバウィ)...2020年にアルカナ社のセリでオリヴァー・セントローレンス氏により250万ユーロ(約3億3,750万円)で落札。ロジャー・ヴェリアン調教師に管理され、ナセル殿下とKHKレーシングから成る馬主グループが所有。デビュー戦を勝利で飾った。

 スターレッツシスターの出走した仔5頭は合計22勝を果たしており、そのうち16勝はブラックタイプ競走での勝利である。1歳のときにアルカナ社のセリに上場されたスターレッツシスターの仔はモンソー牧場に総額607万2,000ユーロ(約8億1,972万円)をもたらした。

 モンソー牧場のアンリ・ボゾ氏はこう語った。「大変感動的な瞬間です。私たちのチームがこのような評価をいただいたのですから。彼らの仕事をとても誇りに思います。スターレッツシスターにもすごく感謝していますね。安定して優秀な仔を出していますから。最近日本馬が活躍しているので、このような馬が日本に行くことは大きな誇りです。新しいステップで、とても面白いと思っています」。

 「チームのみんなには本当に感謝しています。一年中チームと牧場の世話をしていて忙しくてセリにまったく顔を出さないアシスタントのブルーノ・デューエード、1歳馬担当マネージャーのジョルダン・タンクレド、コミュニケーション担当のクレマンティーヌ・フェリエ、繁殖牝馬・当歳馬担当のルーシー・デューエードなどチーム全員にお礼を言いたいです」。

 「彼女のような牝馬を繋養できたのはただ運が良かっただけですが、このような素晴らしいチームの努力のおかげですべてが可能になったのです」。

 ボゾ氏は現在13歳のスターレッツシスターの近況についても話した。「シユーニの牡駒を産みましたが、出産日が遅れたので、現在妊娠していません。来年どうするかはまだ決めていませんが、今はこのセリの結果の余韻に浸り、もうすぐ始まる2歳戦と3歳戦を楽しみたいと思います」。

 「私たちのもとにはスターレッツシスターの娘がいないので、2歳の仔スノーパーク(Snowpark)は昨年1歳になったときに上場せず、ソットサスを手掛けたジャン-クロード・ルジェ調教師に預けました。ルジェ調教師は彼女にとても満足しているので、出走するのが楽しみです」。

 スターレッツシスターの影響力はレースとセリだけにとどまらない。ソットサスは種牡馬としてこの2年間クールモアで供用されており、2021年に3万ユーロ(約405万円)、今年2万5,000ユーロ(約338万円)の種付料で質・量ともに優れた種付予約を集めている。

 矢作調教師はこの日、まだ購買を終えていなかった。ドメーヌドレタン(Domaine de l'Etang)が上場したキングマンの牡駒(母ヴァルトジャグド)を56万ユーロ(約7,560万円)で落札したのだ。この牡駒はG2勝馬ヴァルトビエネ(Waldbiene)やリステッド勝馬ウルヴァルト(Urwald)の半弟である。昨年のアルカナ社12月セールでアヴニールブラッドストック(Avenir Bloodstock)により28万ユーロ(約3,780万円)で購買されていたので、関係者には結構なピンフック(転売)の利益をもたらしたのである。

By James Thomas

(1ユーロ=約135円)

[Racing Post 2022年8月14日「'It's a very emotional moment' - Sottsass sibling brings €2.1 million at Arqana」]

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