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2023年07月06日  - No.25 - 1

オーギュストロダン、憂鬱な空気の中で愛ダービー制覇(アイルランド)[その他]


 多くの人々が予想していたような派手なウィニングランにはならなかった。しかし、中盤にゾッとするような事故に見舞われた愛ダービー(G1)でオーギュストロダンは迫力に欠けるものの勝利を収め、今シーズン最強の3歳馬の地位を確かなものにした。

 強風のカラ競馬場で勝利を収めたこの英ダービー馬は、ライアン・ムーア騎手に念願の愛ダービー初勝利をもたらし、英国とアイルランドのクラシック競走のグランドスラム(完全優勝)を達成させた。オーギュストロダンを手掛ける無敵のエイダン・オブライエン調教師にとっては、欧州クラシック競走100勝目となり、英ダービー&愛ダービーのダブル制覇を5回達成したことになる。しかし単勝1.36倍(4-11)の1番人気に支持されたわりには楽勝でも圧勝でもなかった。

 同厩舎のアデレードリバーが½マイル(約800m)の地点で先頭に立っていたとき、同じくバリードイル(クールモアの調教拠点)のサンアントニオが横にならび、オーギュストロダンは2頭のすぐ後ろか間にポジションを取った。すべてがプランどおりに進んでいるように見えた。

 そこで悲惨なことが起こる。サンアントニオが右前肢を骨折し、鞍上のウェイン・ローダン騎手が地面に投げ出され、それはちょうどオーギュストロダン、プラウドアンドリーガル、スプリーウェル、ホワイトバーチの進路上だったのだ。サンアントニオは予後不良となり、ローダン騎手はターラ大学病院(Tallaght University Hospital)に運ばれ検査を受けた。脳震盪を起こしていたが意識はあり、会話もでき、手足も動かせると報告されている。

 歴史的な快挙に憂鬱な脚注がついてしまった。ムーア騎手はこの事故のせいでオーギュストロダンのパフォーマンスは迫力に欠けるものになったと示唆した。直線を駆け上がって行くにあたり、オーギュストロダンには十分な余力が残っていた。ただムーア騎手が追い始めたとき、"アデレードリバーの鞍上を務めるシーミー・ヘファナン騎手ですらなかなか抜かされないので驚いたのではないか"と感じられた。

 最終的にオーギュストロダンは、ムーア騎手に多少強く追われて1½馬身差をつけて先頭でゴールした。コヴェントガーデンはそのままアデレードリバーに続く3着に入り、総賞金125万ユーロ(1億9,375万円)のこのレースで8回目となるオブライエン厩舎の1着~3着独占を決めた。なお4着も同厩舎のペキンオペラだった。

 ムーア騎手はこう語った。「かなりスローペースでした。ウェインのこともあってスムーズではありませんでしたね。目の前に彼がいたのです。押したり引いたりしなければならず、それが本当に正しいかどうか分かりませんでした。そのように動くように彼に指示しなければならず、少しエンジンが止まってしまいました。止まったり進んだりする異常なレースでした。彼の実力が最大限に発揮できたとは思えませんね」。

 また、2着のアデレードリバーをとらえるまでに時間が掛かったことについてこう説明した。「アデレードリバーはガソリンを節約して主導権を握りまさに思いどおりにレースを進めていたのです。並び掛けようとしたとき余力を残していましたね。完璧にはいきませんでしたが、オーギュストロダンは勝ちました。ただ自分のレースができなかったように見えましたね。これから成長していくのが楽しみです」。

 ムーア騎手は強風をはじめとする数々の不利な要素が重なって、圧勝を収めた英ダービーよりもずっと技巧を求められたと感じている。パディパワー社によると、オーギュストロダンのキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)でのオッズは3.75倍から3.25倍(1番人気)に下がったが、凱旋門賞(G1)でのオッズは7倍のままである。

 古馬に挑むためには、ここでのパフォーマンスを上回る必要があるだろう。今回はバリードイル以外の出走馬は期待外れな結果に終わってしまった。シェーン・フォーリー騎手は、速い馬場のせいでスプリーウェルは精彩を欠いて6着に敗れたと述べた。ディラン・ブラウン・マクモナーグル騎手は、落馬したローダン騎手により行く手を阻まれた時点で英ダービー3着のホワイトバーチのレースは終わったと語った。

 ムーア騎手は、「バックストレッチで向かい風が強く、最後の直線では追い風が吹きつけていました。序盤ではもう少し速く走りたかったのですが、あのような風では、先行馬はひるんでしまいましたね。とりとめのないレースでしたよ」と釈明するように語った。

 11回目にしてなかなか手に入れられなかった愛ダービーでの勝利をつかんだムーア騎手は、「英ダービーから彼に乗ることを楽しみにしていて、このレースでさらに調子を上げるだろうと期待していました。それでもチャンスをものにして、やっと愛ダービーを制することができてラッキーです」と続けた。

 そして、オブライエン調教師を称賛して「長いあいだ騎乗させてもらっていてとても幸運です。このようなビッグレースを勝てるような馬を任せてくれるのです。彼と働けることに感謝しています」と述べた。

 オブライエン調教師はオーギュストロダンの今後の進路については明言しなかったが、風が序盤のタイムを狂わせたというムーア騎手のコメントに同意した。欧州クラシック競走で100勝を挙げ、史上19頭目の英愛ダービーのダブル制覇馬を送り出したにもかかわらず、いつもどおり謙虚な態度でこう語った。

 「オーギュストロダンにとってぴったりの流れにはなりませんでしたが、満足しています。才能を存分に見せていましたが、展開が良ければもっと力を発揮するでしょう」。

 オブライエン調教師は愛ダービー15勝を達成し、それぞれの優勝馬はいつものようなクールモアのオーナーグループに所有されていた。今回もオーギュストロダンをウェスターバーグ(代表:ゲオルグ・フォン・オペル氏)とともに所有するクールモアのジョン・マグニア氏、マイケル・テイバー氏、デリック・スミス氏が集まりこの勝利を味わった。

 テイバー氏はオブライエン調教師について、「彼は毎日調教していて、その仕事を愛していますね。楽しんでいるのです。人生は短いのですから、仕事を楽しまなければなりません」と述べた。

 たしかに人生は短いのかもしれないが、オブライエン調教師はその中に多くを押し込んでいて、それはまだ終わっていない。恐るべきことである。

By Richard Forristal

(1ユーロ=約155円)

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