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海外競馬ニュース
2022年12月22日  - No.48 - 4

大きく広がる馬用立位PETスキャナーの利用可能性(アメリカ)[獣医・診療]


 サンタアニタパーク競馬場で導入3年目を迎えた馬用立位PET(ポジトロン放射断層撮影)スキャナーは現在、500頭以上の馬の役に立っている。

 カリフォルニア大学デービス校獣医学部が押し進めたこの新しい画像診断法は当初、競走馬の球節の診断を中心としていたが、この1年でかなり発達した。サンタアニタ競馬場で競走馬を対象に行われた初期の馬用PET研究は現在発表されており、この新技術の有用性が確認されている。競走馬の球節の診断においてPETは骨のスキャンよりも優れており、とりわけレース中の予後不良事故の最も一般的な原因である種子骨骨折を特定できることが分かった。また、PETが骨折を長期にわたって監視して治癒に要する時間を予測する能力も実証された。

 サンタアニタの馬のほか、ゴールデンゲートフィールズ競馬場の競走馬(カリフォルニア大学デービス校のPET スキャナーで撮影)とフェアヒル調教センターの競走馬(ペンシルベニア大学獣医学部ニューボルトンセンターのPET スキャナーで撮影)を対象とした複数の機関による研究は、レースを無事に終えた馬に対するPETで何が発見できるかを検討してきた。この研究は、予後不良事故に遭う危険性のある馬を特定するスクリーニング戦略を進展させるための重要な足がかりとなった。この研究の概要は、グレイソン-ジョッキークラブ研究財団が主催する競走馬福祉・安全サミット(Welfare and Safety of the Racehorse Summit)で発表された。

 この1年で技術の利用可能性は大きく広がった。馬用立位PETが利用されるようになった最初の2年間は3台のスキャナーしかなかった(サンタアニタ競馬場・カリフォルニア大学デービス校・ペンシルベニア大学獣医学部)。しかし2022年にはロッド&リドル馬診療所がケンタッキー州レキシントンとフロリダ州ウェリントンの拠点にスキャナーを追加したことで、さらに4台のスキャナーが設置された。またフロリダ州では、フロリダ大学がオカラで運営する世界馬センター診療所(World Equestrian Center Hospital)とオカラ馬診療所(Ocala Equine Hospital)の2ヵ所でスキャナーが稼働している。米国全体ではチャーチルダウンズ競馬場などさらに3ヵ所で導入することが予定されていて、2023年末までに合計10ヵ所に馬用立位PETが設置されることになる。

 これに伴い、より多様な馬が立位PETを利用できるようになりその技術の応用範囲も広がっている。競走馬だけでなく、多くのレジャーやスポーツ向けの馬もPET利用から恩恵を受けるようになっている。立位PETは、前肢では蹄部から膝、後肢では蹄部から飛節までを診断するのに利用できる。

 カリフォルニア大学デービス校の画像診断学の教授であるマシュー・スプリエット(Mathieu Spriet)博士は最近、アメリカ馬臨床獣医師協会(AAEP)の2022年総会でさまざまな応用例の概要を発表した。

 スプリエット博士は「馬用立位PETは跛行の画像診断への我々のアプローチを革命的に変えました」と要約した。PETは複雑な症例ではCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像法)に加えて高度な画像診断技術として利用できるが、それ以外の症例では単にX線や超音波と組み合わせることができ、ほかの高度な画像診断技術に代わる手頃な選択肢を増やすことになる。

 スプリエット博士の研究は、PETはとりわけ蹄部・球節・飛節における骨折を対象とするものだったが、腱や靭帯の軟組織損傷に対しても一般的に応用できるということも示している。現在進行中の研究では、蹄葉炎や感染症など、ほかの深刻な症状へのPETの利用価値を調査している。

By University of California Davis

(関連記事)海外競馬ニュース 2022年No.34「チャーチルダウンズ競馬場、PETスキャナーを導入(アメリカ)

[bloodhorse.com 2022年12月19日「Standing Equine PET Scan Continues Making a Difference」]


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