バーイード、ダッシュがつかず最後の一戦で敗北(イギリス)[その他]
10月15日(土)英チャンピオンS(G1 アスコット)
最後の一幕はバーイードにとって余分なものとなってしまった。単勝1.25倍の大本命に支持されていたにもかかわらず、無敗記録と偉大なる輝きは打ち砕かれたのだ。その中で、ベイブリッジが英チャンピオンSを制し自らの卓越性をアピールした。
フランケルに捧げる壮大な舞台でのバーイードのラストランは、この偉大な馬への最大の賛辞となることが期待されるものだった。彼は昨年の英国チャンピオンズデー以来、フランケルが歩んだ道を寸分違わず辿ってきた。
2頭はいずれも3歳シーズンの終わりにクイーンエリザベス2世S(G1)を制している。バーイードはそこから、ロッキンジS(G1)、クイーンアンS(G1)、サセックスS(G1)、英インターナショナルS(G1)を経て、英チャンピオンSでのラストランまでずっと、偉大な馬の道を歩んできた。これまでに彼ほど一音一音を正確に鳴らした馬はいなかった。
このような驚くほど素晴らしい才能に恵まれた馬が、11戦目で比較的ノーマークだった馬に1¾馬身差をつけられ4着に敗れたという事実は、無敗のレースキャリアを全うしたフランケルの偉大さを今一度際立たせることとなった。
その場の雰囲気を損なわせ、ウィリアム・ハガス調教師から生気を奪うような敗戦だった。「レースでは負けましたが、最高級の馬であるという事実は消えることはありません。良いレースを見るために人々が競馬場に来ることは分かっています。多くの人がバーイードの勝利を見たかったと思います。私たちほどではないにしろ、多くの人がとてもがっかりしているでしょう。しかし、そういうものなのです」とハガス調教師は語った。
パレードリングに戻ってくるバーイードを迎えた拍手は、傷ついた人々の心に響いた。馬主のヒッサ王女の代わりに話したアンガス・ゴールド氏は負けたのは馬場状態のせいだと断言した。
「ジム(・クロウリー騎手)が言うには、ダッシュがつかなかったようです。発走したとき、もっと速い馬場で以前のように走らせたいと思ったようなのですが、あの馬場状態でダッシュがつかなかっただけなのです。おそらく、あまり驚くことはありませんね。私の経験では、速い馬場で素晴らしい走りっぷりを見せる馬が重馬場でもうまく走るのは稀なことなのです。バーイードはベストを尽くしましたが、ペースを上げることができませんでした」。
ゴールド氏は陣営のムードについてこう語った。「バーイードがそうですが、馬がすべてを出し切ってくれるようなときに、意気消沈してはなりません。無敗で引退することができなかったのは残念ですが、それでも彼は私たちに素晴らしい日々をもたらしてくれ、今までどおり良い馬です。今日はうまくいかなかっただけです」。
「優勝馬の真価を軽んじているわけではありません。素晴らしい馬です。2着のアダイヤーもそうです。ただ1つ残念なのは、バーイードの記録が無敗とならなかったことです。ただ、そのことで彼の価値が何ら下がるわけではありません」。
そうだ。優勝馬だ。このレースはバーイードが負けた英チャンピオンSとして競馬ファンの記憶に残るにもかかわらず、トロフィーに永遠に刻まれるのはベイブリッジの名前である。バーイード陣営の苦悩はベイブリッジ陣営の喜びに匹敵する。
サー・マイケル・スタウト調教師はもちろん以前にも英チャンピオンS優勝を成し遂げたことがある。一方リチャード・キングスコート騎手にとって、今シーズンは国際的にデビューするパーティーのようなものだった。今シーズンが始まった時点で、彼はアイルランドのG1を2勝しただけのジョッキーだった。しかし5ヵ月間でそれまでの実績を倍にしたのである。しかも、ただG1を2勝しただけではない。英ダービー(G1)でデザートクラウン、英チャンピオンSでベイブリッジに騎乗し、英国で最も権威のある2レースを制覇したのである。
勝利ジョッキーはこう語った。「すごいことです。騎乗させてくださった皆さんにとても感謝しています。素晴らしい2頭のおかげで華々しい年になりました」。
「とても良い騎乗ができましたね。いいテンポでスタートして、道中熱心に走ってくれ、うまくスピードを上げてくれました。自分たちのレースをすることができました。準備段階で"あれこれ試すのではなく自分たちのレースをしよう"と言っていましたね。それでまさに今日、ベイブリッジは見違えるような馬に変身していたのです」。
キングスコート騎手はバーイードの夢を壊したヒール役になったことを喜んで受け入れていた。「そのために馬を出走させるのです。何が達成できるのか見るためです。1頭を恐れる必要はありません。その馬が調子の悪い日を狙うのです。バーイードは素晴らしい馬ですが、私の馬は今日ひょいと姿を現したかと思うとその本領を見せつけてくれたのです」。
それはおそらくキングスコート騎手の今シーズンの活躍をある程度物語っているのだろう。英ダービーを6勝、英チャンピオンSを3勝しているスタウト調教師が、同じ年にこれら2つのレースを制したことについて"とても嬉しい"と語っているのだ。
名伯楽であるスタウト調教師は管理馬を必要以上に称賛することはない。それゆえ彼が「とても勇敢なパフォーマンスだった」と言ったとき、その言葉には特別な重みがあった。
「スタッフがこの馬を素晴らしく仕上げてくれました。7月2日のエクリプスS(G1 サンダウン)から戻ってきたとき怪我をしていて、軽めに調整しなければなりませんでしたが、ここへ来てとても調子を上げてきたのです」。
「1番人気馬を負かすことはできないと考えていましたが、2着になるチャンスは大いにあると思っていました。すごく良い状態です。精神的にも素晴らしい状態ですし、調教しやすい馬なのです」。
By Stuart Riley
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