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2022年09月29日  - No.36 - 3

伝説のステイヤー、ストラディバリウスが引退(イギリス)[その他]


 「ストラディバリウスが奏でる音楽は止まった」。

 オーナーブリーダーのビョルン・ニールセン氏は9月26日(月)、この言葉とともに当代随一の人気と持久力を誇った名馬の引退を告げた。ストラディバリウス(牡8歳 父シーザスターズ)は8月に患った脚部の打撲がなかなか治らず、関係者たちは引退させて種牡馬にすることを決意した。

 ストラディバリウスは今や、ナショナルスタッド(ニューマーケット)の種牡馬群に加わろうとしている。グッドウッドカップ(G1)4勝、アスコットゴールドカップ(G1)3勝、ロンスデールカップ(G2)3勝、ドンカスターカップ(G2)2勝という輝かしいキャリアを送った。この栗毛の自家生産馬は7シーズンで通算35戦20勝の成績を収め、345万8,968ポンド(約5億3,614万円)にのぼる賞金を獲得した。

 ニールセン氏はストラディバリウスについてこう語った。「速歩やキャンターをしていますが、脚部の打撲を治すのに思ったよりも時間がかかっています。休養をとらせないといけませんが、そのあと来シーズンに9歳馬として復帰させるのは酷なことだと感じました」。

 ストラディバリウスの引退は、彼のことを心から愛していた競馬ファンによって大いに惜しまれるだろう。その模範的なキャリアで際立っていたのは、ビッグレースでの安定性だった。ラストランとなったグッドウッドカップ(7月26日)ではキプリオスに首差で敗れ、4度目の優勝を逃した。それでもキプリオスとの接戦は観客を総立ちにした。

 ニールセン氏はこう振り返った。「最初から最後までおとぎ話のようでした。今回の怪我まで一度も治療を受けたことがなく、怪我でレースを回避したこともありませんでした。出走すれば大きな存在感を示していて、観客はそうした所が好きだったのです。常に安定感のある馬というのは彼の年齢ではおろか、全体を見渡してもなかなか珍しいのです。これほど長いあいだ見事に管理してきたジョン・ゴスデン調教師の努力の賜物です」。

 ステイヤー部門で圧倒的な強さを見せてきたストラディバリウスだが、彼の傑出したパフォーマンスは2020年ゴールドカップ(ロイヤルアスコット開催)において展開された。ネイエフロードに10馬身差をつけて圧勝したのだ。関係者はストラディバリウスにとって良馬場がベストだとつねに感じていたが、この勝利は重馬場で挙げられた。

 「個人的に悲しい日ですか?」と聞かれたニールセン氏はこう語った。「どちらとも言えませんね。この数年間ずっと彼のレースを見てきてとてもスリリングでしたが、永久に続くものではないということはずっと分かっていました。昨シーズンの終わりに引退させるかどうかをじっくり検討しましたが、彼はまだ走りたいという意欲を見せたのです。それ自体、驚くべきことでした」。

 「最終的に3レースに挑戦させるために現役を続行させることにしました。それで3戦したのですが、初戦のヨークシャーカップで優勝し、そのあとはアスコットとグッドウッドではついていませんでした。しかしその都度、彼はまだ意欲があることを見せてくれました」。

 「安定して多くレースに出走し、コースをしっかりと回り、それらすべての長距離レースで何度も勝利を挙げました。たとえ将来ダービーや凱旋門賞を勝つ幸運に恵まれるかもしれませんが、ふたたび彼のような馬を手に入れることはできないでしょう。彼は一般の人々から絶大な支持を受けていました。最初から最後までとにかく楽しかったですね」。

 ストラディバリウスの優位性はそれだけでも明らかなのだが、2年前の凱旋門賞に挑戦していなければステイヤーとしての記録をさらに豪華なものにしていただろう。結果的にその年のロンスデールカップとドンカスターカップは見送り、ロンシャンは重馬場となり凱旋門賞への挑戦は失敗に終わった。

 ストラディバリウスのように知名度の高い馬を所有することは、ニールセン氏にとって必ずしも簡単なことではなかった。プレッシャーは主戦のフランキー・デットーリ騎手にも悪影響を及ぼし、6月のゴールドカップで苦戦したあと、彼はストラディバリウスから降りることを申し出た。ニールセン氏も同じ考えだった。8月のグッドウッドカップでは、アンドレア・アッゼニ騎手に乗り替わり、これがストラディバリウスの競馬場での最後の姿となった。

 ステイヤーの種牡馬への支援を渋る生産界の背景に抗って、ストラディバリウスは今、種牡馬としてインパクトをもたらそうとしている。ニールセン氏は、力強い疾走によってレースを制する傾向がある従来のステイヤーの能力を超えるいくつかの資質を持っていると断言する。

 「決して一本調子の馬ではありませんでしたね。末脚の素晴らしさは誰の目にも明らかでした。来年は牝馬を集めて彼をサポートしようと思っています。ストラディバリウスが示したすべての特徴からして、牝馬から彼の産駒を生産したくない人などいないでしょう」。

 音楽は止まったのかもしれないが、思い出は残り続ける。ストラディバリウスはレースにおいて象徴的な存在だった。今シーズンのキプロリオスとの短いライバル関係は、夏場のハイライトの1つだった。

 彼が達成したG1・7勝はイエーツのステイヤーとしての記録に並んだ。また、2018年と2019年にステイヤーズミリオン(トップクラスの長距離4レースをすべて制した馬に100万ポンドのボーナスを提供するシリーズ)を連覇したことで、100万ポンド(約1億5,500万円)のボーナスを2度獲得した。このように覇権を見せつけた結果、このボーナスは廃止されてしまった。

By Julian Muscat

(1ポンド=約155円)

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[Racing Post 2022年9月26日「'The music has stopped' - legendary stayer Stradivarius is retired」]


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