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2022年07月14日  - No.25 - 4

ハノン調教師、管理馬からの高濃度のヒ素検出で1万ポンドの過怠金(イギリス)[獣医・診療]


 リチャード・ハノン調教師は懲戒委員会の第三者審査員団により1万ポンド(約165万円)の過怠金を科された。ニューマーケット競馬場で管理馬オーパープルレインから高濃度のヒ素が検出されたためである。

 審査員団は、ハノン調教師が管理馬に与えていた補助飼料に含まれた海藻が高濃度のヒ素検出の主な原因であり、その投与は意図的なもので、不利な分析結果を避けるためのあらゆる妥当な努力がなされていなかったと判断した。なお、同調教師の父や祖父もこの飼料を使用していた。

 勧告される過怠金の上限額となる1万ポンドを科すにあたり、審査員団の議長を務めたブライアン・バーカー弁護士はハノン氏についてこう語った。「ルールは守られなければなりません。ハノン調教師が懲戒委員会に現れたのはこれが初めてではないことを特に懸念しています」。

 「おそらくハノン氏はヒ素検査が開始されたのは2019年1月になってからだと言われたのかもしれません。しかし彼は義務的に与えられる性格のものではないとはいえ、合理的な助言は受けており、それを聞き入れないということを選択しました」。

 この事案については、双方からかなりの量の科学的証拠が提示され反対質問も行われたのち、5月26日に丸一日審問が行われたが、それ以降は中断していた。

 2019年9月26日、ニューマーケットの競走前検査でオーパープルレインから尿1㎎あたり426μgの濃度のヒ素が検出された。その後、同馬は6頭立てのレースで最下位に終わっていた。

 BHA(英国競馬統括機構)の当時の馬健康担当理事デヴィッド・サイクス氏がハノン調教師に電話したことで、BHAの主張は裏付けられていた。サイクス氏はハノン調教師に対し、管理馬から高濃度のヒ素が検出されており、一頭は閾値(300μg/ ml)をもう少しで超えそうなレベルであったこと、海藻を含む補助飼料の使用が原因である可能性があることを知らせていたのである。

 サイクス氏は最初の審問において、まとまった量の海藻を検査して、ハノン氏に対してこの飼料の量を半減させるか、あるいは日常的に与えるのを止めるように提案したと語った。

 BHAが主張するところによると、1日目の審問で審査員団に提出した科学的証拠は海藻が高濃度のヒ素検出の主な要因であったと示していたという。また混合飼料に含まれていた海藻の量を減らしたり海藻の使用自体を止めたりすると、2020年初めにハノン調教師の管理馬から採取された検体は基礎濃度にまで戻っていたという事実も示していたようだ。

 シャーロット・デーヴィソン氏はBHA側のまとめとしてこう述べた。「ハノン氏は、調教師は馬に与えている補助飼料に何が入っているかについて見ぬふりができ、何が含まれているか知らなかったと言うだけで制裁を免れることができるという裁定を事実上行うように求めているのです」。

 「ハノン氏はまた、海藻を与えるのを止めたとき管理馬の検体のヒ素濃度が不思議なことに基礎濃度にまで戻ったにもかかわらず、海藻はヒ素濃度のレベルが上昇したり下降したりする原因であったという分析結果を否定するように求めています」。

 リチャード・リデル弁護士は弁護側の主張を行う上で、オーパープルレインから閾値を超えるヒ素が検出されたのは海藻が主な要因であるとするBHAの確信に異議を唱えようとした。また、ハノン氏にヒ素を投与する意図はなかったとし、審査員団は意図がなかったと認めたのではないか、ハノン氏はルール違反を避けるために"あらゆる合理的な予防措置"を取ったのではないかと主張した。

 さらにリデル弁護士は、サイクス氏との会話のあとも海藻を使い続けたハノン氏の"心的傾向"について詳しく説明した。ハノン氏はBHAがヒ素の検査を始めたのが2019年1月であることを知らなかったため、自分自身、父、祖父の調教生活を通じて閾値ぎりぎりの濃度を示した管理馬はただ1頭だけだったと思い込んでいたと言うのだ。

 競馬施行規程のガイドラインに定められた過怠金の範囲は750~1万ポンド(約12万~ 165万円)だが、ルールL28.2により審査員団はそれ以上の過怠金を科す裁量権を有していた。

 BHAはハノン氏により厳重な制裁を科すことを求めた。その根拠は、ハノン氏がサイクス氏から受けた助言を聞き入れようとしなかったことに加え、2015年に管理馬3頭から非意図的投与による鎮痛剤トラマドール(Tramadol)の代謝物の検出がされており2,000ポンド(約33万円)・5,000ポンド(約83万円)・8,000ポンド(約132万円)の過怠金を支払っていた事実があったことによる。

 審査員団はこのケースは"例外的なカテゴリーには該当しない"と判断し、勧告される範囲を超えない過怠金を科したという。

By Scott Burton

(1ポンド=約165円)

 (関連記事)海外競馬ニュース 2022年No.19「馬からの高濃度のヒ素検出は海藻が原因か?(イギリス)

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