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2022年03月24日  - No.11 - 2

ブラックモア騎手、アプリュタールでチェルトナムゴールドカップ制覇(イギリス)[その他]


3月18日(金)チェルトナムフェスティバル最終日 チェルトナムゴールドカップ(G1)

 チェルトナム競馬場(コッツウォルズ地方)に日光がふりそそぐ午後、レイチェル・ブラックモア騎手(32歳)はゴールドカップで想像できる中で最も大胆な騎乗を見せ、惜しい敗北を喫した昨年の雪辱を果たし、このスポーツの頂点に立った。アプリュタールでとてつもなく魅惑的な勝利を収めたのだ。

 ゴールを駆け抜けるときまでに、アプリュタールは2021年の覇者ミネラインドーを15馬身も引き離して見事に形勢を逆転していた。ヘンリー・ド・ブロムヘッド調教師はその結果、2年連続でゴールドカップのワンツーフィニッシュを決めた。

 また、チャンピオンハードル(G1)とゴールドカップのダブル制覇を2年連続で達成したことになる。それはヴィンセント・オブライエン調教師が1949年と1950年にハットンズグレースとコテージレークで成し遂げて以来の快挙である。

 他を凌駕し続けるド・ブロムヘッド調教師には目を見開かされるが、彼はこの著しい快挙において脇役に徹することに満足している。ブラックモア騎手のほうは、話題を独り占めにし続けるハリウッドのスーパースターと言ったところだろう。というのも、1995年のマスターオーツが他馬をくたくたにした圧勝以来の大差が強調されたが、神懸った手綱さばきはそのような数字では伝えきれないからだ。

 ブラックモア騎手はこの12ヵ月間、まわりで世間が大騒ぎする中、事務員のように一糸乱れず落ち着き払って激動する歴史の断片を刻み続けてきた。喧騒は彼女の気を引くものではなかった。

 彼女はグランドナショナルもチャンピオンハードルも女性騎手として初めて制した。そして今回、チェルトナムフェスティバルのリーディングジョッキーとなったが、やり残したことがあった。

 ほかの一流スポーツ選手と同様に、彼女を悩ませたのは手に入れそこなった勝利だった。昨年のゴールドカップでのアプリュタールの惜敗が記憶に深く刻み込まれており、優勝馬のミネラインドーに騎乗するかもしれなかったという事実が傷をさらに深めた。

 のちにこの敗北によってどれだけ傷ついたか聞かれたときに、彼女は「毎日それについて考えているとは言えませんね。そんなことをしたら気が狂ってしまいます。でも頭の片隅にあるのは確かで、この1週間もそういう具合です。このために働いているようなものですから」と答えた。

 アプリュタール(せん8歳 馬主:チェヴァリーパークスタッド)にとって、チェルトナムゴールドカップにふたたび挑むための道のりは決して平坦なものではなかった。しかしその過程で勝利と敗北を重ねることにより、ブラックモア騎手は自身と騎乗馬について認識を新たにした。サヴィルズチェイス(G1 レパーズタウン)でガルヴィン(Galvin)に敗れたことは、おそらく最も印象深い最後の教訓となった。

 彼女は新たなプランを携えてチェルトナムゴールドカップにふたたび挑み、それを完璧に実行した。すぐにアプリュタールを控えさせ、少しの運を手に入れるためにゆっくりと時間をかけて平然と乗り続けた。最高の馬に乗っていることを信じ、その馬に最高のチャンスを与えるよう策を企てた。

 坂の下でレースは動きだす。ミネラインドーは、タイトル奪還を狙う2019年&2020年優勝馬アルブームフォトに3馬身差をつけてリードしていた。ブラックモア騎手の前には5頭いて、行く手が遮られていた。

 それでも、まさに彼女が望んでいた位置取りだった。アルブームフォトの後ろにつけ、あえてただ攻撃可能な距離に控えていたにすぎない。

 最後から2番目の障害まであと5完歩のところで、まだ前には5頭いた。そこで彼女はついにスパートを掛け、アルブームフォトとプロテクトラットのあいだに割って入り、不朽の名声に向けて最後の坂を上りだしたのである。

 ミネラインドーは戦いを挑まれ続けたが、運命的な推進力が勝負を決定づけた。アプリュタールは最後の障害を飛越して調子を上げ、坂道を駆け上がって本領を見せつけ、単勝4倍の1番人気を正当なものとした。プロテクトラットは、健闘したミネラインドーの2馬身うしろの3着に入り、英国勢で最高の着順を確保した。

 勝利ジョッキーの手綱さばきはセンセーショナルなものだったが、アプリュタールもまた格別だった。ブラックモア騎手は自らの壮麗さにふさわしいパートナーを得たが、その騎乗ぶりが彼の最大限の力を引き出した。

 ブラックモア騎手はこう説明した。「去年と同じことはしたくありませんでしたね。うまくいきませんでしたから。前で馬が壁になっていたので、あまり早くに差を詰めようとしませんでした。でもアプリュタールは今年、道中とても気持ちよさそうに走っていましたし、鮮やかに飛越してくれました。どの時点でも彼を控えさせることができたのです」。

 「ありがたいことに最後の2つの障害をきれいに飛越してくれ、最後には信じられないほどスピードを上げてくれました。チェルトナムの終盤であのような走りができるなんて、信じられないような気分です」。

 「チェルトナムフェスティバルは特別なものです。グランドナショナルはなにものにも代えがたいものですが、今回勝ったのはチェルトナムゴールドカップです。彼はとても才能豊かな馬で、コンビを組めてすごくラッキーです」。

 「仕掛けていくのを平然と遅らせて、驚くべき度胸を発揮しましたね」と言われると、彼女は「昨年のような位置取りではなく何か違うことをして負けるのであれば、それはそれで満足です。昨年はまったくうまく行きませんでしたからね。運が向いてきて、割って入ることができたのです。とにかくすごかったですね」と答えた。

 3月15日(火)にブラックモア騎手は多幸感を一身に受けてハニーサックルとともに引きあげた。障害競走の大スターとして、チェルトナム競馬場に戻ってきた観客から称賛の声を掛けられた。そのときと同じように、彼女はふたたび大喝采を引き起こした。スタンドは活気づき、ウィナーズサークルに入った彼女とアプリュタールは心の底からの割れんばかりの大声の歓迎を受けた。

 ブラックモア騎手はこう語った。「チェルトナムはとても特別な場所ですが、この雰囲気と観客のおかげでそうなっているのですね。歓声が戻ってきて、隙間がなく人しか見えない状態をふたたび味わえるなんて、本当にすごいことです。歌えなくてもロックスターの感覚に最も近いものを感じられるのです。皆さんが戻ってきて本当に嬉しいです。とてもラッキーだと感じています」。

 本当にラッキーなのは、彼女の舞い上がった気持ちを共有できることである。私たちが偉大な存在を前にしていることに疑いの余地はない。思い出してほしい。チャンピオンハードルとゴールドカップのダブル制覇を最後に達成したのは、1997年のトニー・マッコイ騎手だ。

 ブラックモア騎手は今や、それほど偉大な領域に達しているのだ。そしてド・ブロムヘッド調教師はそのことを誰よりもよく分かっている。

 ド・ブロムヘッド調教師は「夢のようです。彼女が乗ってくれてとてもラッキーです」と述べ、戦術的な進歩についてこう話した。「レイチェルは本能に任せた騎手です。正直なところ、そのことについてあまり疑問は感じていませんでした。しかし彼女は3週間ほど前に自分を責めていて、レースではアプリュタールのペースを生かしたいと言ってきたのです。ミネラインドーに乗ったロビー・パワー騎手も素晴らしかったです。何もミスを犯しませんでしたからね」。

 「おかしな1年でした。周りからうちの管理馬はあまり良い状態ではないと言われ、たしかに数ヵ月間うまく行っていませんでした。今週の出走馬の中でも2頭ほどが何か問題があるのではないかと感じられました。だけどハニーとこの馬を見ると、彼らは非現実的でしたね」。

 たしかに彼らは非現実的だったが、ド・ブロムヘッド調教師もそうだった。ブラックモア騎手を称賛するのに夢中になるあまりに失ってはならない小さな脚注がある。彼らは豪華なチームなのだ。

By Richard Forristal

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[Racing Post 2022年3月18日「Rachael Blackmore delivers sublime Cheltenham Gold Cup ride on A Plus Tard」]

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