ミネラインドー、チェルトナムゴールドカップ優勝(イギリス)[その他]
輝かしいチェルトナムフェスティバル(3月16日~19日)の開催週に、アイルランドからの出走馬関係者はバブル(隔離圏)に閉じ込められ、競馬場でも他とは離された集団とされていた。そのような週の終わりに、チェルトナムゴールドカップ(G1)でアイルランド調教馬との驚くべき実力の隔たりははっきり示される運命にあったのかもしれない。
単勝10倍のミネラインドーは同厩舎馬アプリュタール(A Plus Tard)を率いて先頭でゴールを駆け抜け、4日間のセンセーショナルな競馬祭典の最後を飾った。これによりヘンリー・ド・ブロムヘッド調教師は、チェルトナムフェスティバルの3つの主要レースを制すという歴史的快挙を達成した。
看板に偽りのない大規模なスペクタクル、チェルトナムゴールドカップの勝利で、ド・ブロムヘッド調教師はこのきらびやかな週の6勝目を挙げた。中でも、ハニーサックル(Honeysuckle)によるチャンピオンハードル(G1)での素晴らしい勝利、プットザケトルオン(Put The Kettle On)によるチャンピオンチェイス(G1)での驚異的勝利を果たした上に、ゴールドカップを制したことで、史上初の"ホリートリニティ(3つの伝統的レースの制覇)"を達成した。
これまでどの調教師も"ホリートリニティ"を達成したことがなかった。そのため、ド・ブロムヘッド調教師はチェルトナムフェスティバル開催週の絶対的な主役となった。
2019年と2020年のゴールドカップを連勝していたアルブームフォトは単勝5.5倍の1番人気で出走し、防衛戦での3着を確保した。2018年の同レースの覇者であるネイティブリバーはアルブームフォトの24馬身後ろの4位に入線した。英国調教馬の中で最上位となった同馬を白日の下に晒せば、あるいは昨今の言葉で表現すれば、その着差は明らかにソーシャルディスタンスの取りすぎだった。
2021年の最高峰のイベントであるチェルトナムゴールドカップの結果は、この独特な無観客の競馬開催を「アイルランド・ファースト、あとはどこに行ったのだろう」という強い言葉で要約した。
今やチェルトナムフェスティバルで通算15勝を果たし、喜びに満ちた表情のド・ブロムヘッド調教師は「とても素晴らしいことです」と述べ、「ゴールドカップを勝つこと、もしくはチェルトナムフェスティバルのどれか1レースを勝つことがどういうことか、うまく言い表すことができません。目覚めたらすでに月曜の夜になっているような気分です」と語った。
ウォーターフォードを拠点とする同調教師はこう続けた。「信じられないほど素晴らしいことです。チェルトナムフェスティバルに参戦するようになって何年も経ちますが、難儀して結果を出せない年もたくさんあれば、素晴らしい年もいくつかありました」。
「このようなことを達成できたのでは、調教場でも遠征先でも一緒に働いてくれたすべての人々の功績です。また、私たちを支援してくださる顧客なしではこのようなことは達成できなかったでしょう。彼らは、これらの素晴らしい馬を購買するチャンスを与えてくれました。最高に幸せだと感じています」。
今回の勝利で、弱冠21歳のジャック・ケネディ騎手は戦後においてゴールドカップを制した最年少騎手となった。同騎手よりも若くしてこのレースを制した騎手は、1926年にココ(Koko)に騎乗して20歳で勝利を挙げたティム・ハミー(Tim Hamey)騎手だけのようだ。
怪我に悩まされてきた若きケネディ騎手は、この勝利が自らにとって甘美な救いのようなものだったので、馬を止めたときに喜びの涙を流した。昨年は4回目の足の骨折を経験し、鎖骨を3本骨折していたために、チェルトナムフェスティバルで騎乗できなかった。
ケネディ騎手はまだ子犬のような存在にすぎないものの、老犬のような気概を持っており、言うまでもなくあふれんばかりの才能がある。「まぎれもなく人生で最高の日です。こんなことが起こるなんて信じられません。この勝利は私にとってこの上なく大切なものなので、ゴールを駆け抜けた後には感極まりました」。
レイチェル・ブラックモア騎手(31歳)はこれまで常に、ミネラインドー(せん8歳 馬主:バリー・マロニー氏)に騎乗してきた。しかし、同馬がサヴィルズチェイス(G1 12月28日 レパーズタウン)で落馬失格となり、アイリッシュゴールドカップ(G1 2月7日 レパーズタウン)でケンボーイの4着という期待外れな結果に終わったことで、今回はアプリュタールとコンビを組むこと選び、堂々と2着を確保した。
ケネディ騎手はこう語った。「ミネラインドーにはどの馬にも引けを取らないほどチャンスがあると考えていました。彼とコンビを組むことにとても自信を持っていましたし、レイチェルがアプリュタールを選んだことでおそらくプレッシャーがいくらか軽減されました。道中の走りっぷりも飛越も素晴らしく、不満に思うところはまったくありませんでした」。
ブラックモア騎手は今回のチェルトナムフェスティバルにおいて珍しいミスを犯した。アプリュタールは丘の下で仕掛けて行ったがミネラインドーをとらえることができず、ミネラインドーはゴールまで疾走して1¼馬身差の勝利を決めた。ブラックモア騎手は最終コーナーを回ってから鞭使用回数を超過したために2日間の騎乗停止処分を科された。
それでもなお、フェスティバル開催週のチェルトナム競馬場はブラックモア騎手にとって縄張りのようなものだった。同騎手は、リーディングジョッキーとしてフェスティバルを終えた。そして、「1週間ずっと見せていた輝かしい笑顔をゴールドカップの後もはっきりと浮かべていますね」と聞かれたときに、正しい馬を選ばなかったことについては淡々としていた。
ブラックモア騎手は、「マスクが上に大きくずれていたので、私の表情が見えなかったのではないでしょうか」と反論し、「それでも、ヘンリーとそのチーム全員がこのようなことを達成できて嬉しく思っています。あまり文句は言えません」と語った。
そして、騎乗馬を選ぶのがどれほど難しかったかを聞かれ、「分かりません。間違った選択をしてしまったことだけは分かります」と述べた。
ミネラインドーは、前走のアイリッシュゴールドカップを無事に走り切ったことで自信を取り戻し、ゴールドカップでもミスを犯さなかった。ケネディ騎手は、速いペースを作っていたフロドン(Frodon)を追跡し、早い段階で外を回った。バックストレッチの最後の障害を飛越するまで、同騎手は2番手に控えていた。そしてブラックモア騎手がアプリュタールで追跡してきたとき、これら2頭のあいだにポール・タウネンド騎手が騎乗するアルブームフォトがいた。
ゴールに向かって最終コーナーを回ったとき、ケネディ騎手はミネラインドーに先頭を奪取させたが、アプリュタールはマークされていた。その2馬身後ろにアルブームフォトが迫っており、フロドンもその後ろを追跡していた。
ブラックモア騎手がふたたび決勝線を先頭で駆け抜けるチャンスはかなりあるように思われた。しかし、ミネラインドーは最後から2番目の障害を勢いよく飛越し、アプリュタールは並びかけるのに苦心した。
ミネラインドーが最後の障害もあざやかに飛越しているあいだに、アプリュタールが追い込んできた。しかしブラックモア騎手の魔術でさえも、ミネラインドーをとらえるのに十分でなかった。どうやら、彼女にも限界はあった。
ケネディ騎手は後に、微笑んでこう語った。「これはまさに、子どもの頃から夢見てきたことです。彼に騎乗するチャンスを与えてくれたヘンリーとバリー・マロニー氏にとても感謝しています。どれだけ感謝してもたりないぐらいです。この恩は一生忘れません。このために命を懸けているのです。とにかく信じられません」。
フロドンは最終的に5着となった。優秀なノヴィース出走馬チャンプ(Champ)は第1号障害で大失敗を犯してからさらにミスを連発し、苦労し続けたあげくに丘の上で競走を中止した。一方、同じニッキー・ヘンダーソン厩舎のサンティーニ(Sanitini)も実力を発揮し損ねて競走を中止した。
これらの馬は、チェルトナムフェスティバルの多数の出走馬と同様に、アイルランド勢の様子を遠くから窺うしかなかった。なぜならアイルランド馬は向かうところ敵なしで、実力が抜きんでいたのだから。
By Richard Forristal