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2021年12月09日  - No.46 - 3

メディーナスピリットの陽性反応は抗真菌性クリームが原因との検査結果(アメリカ)[その他]


 ボブ・バファート調教師を担当するクレイグ・ロバートソン弁護士によると、2021年ケンタッキーダービー(G1)で1位入線した後に採取されたメディーナスピリットの尿検体を特別に検査した結果、この牡馬がベタメタゾンの陽性反応を示した原因は抗真菌性クリーム"オトマックス"の使用によるものでありえることが判明した。

 ロバートソン弁護士は12月3日付の声明に、ニューヨーク馬薬物検査研究所の所長であるジョージ・メイリン(George Maylin)博士が最近完了した検査によりベタメタゾンが注射によるものではないことが確認されたと記した。

 ベタメタゾンは競走馬に使用されるコルチコステロイドの一種であり、通常は抗炎症剤として注射器で投与される。ケンタッキー州では競走当日の使用はいかなるレベルでも禁止されている。調教師のために治療行為を行う獣医師は、レースの14日以内に馬にベタメタゾンを注射しないように勧告されている。

 メディーナスピリットの競走後の陽性反応を受けて、バファート氏の弁護士たちとケンタッキー州競馬委員会(KHRC)はこの夏、同馬の尿検体をメイリン博士に送付した。研究所が無罪を証明する、あるいは罪を軽減する証拠を提供することを願って、バファート氏の弁護士たちはメイリン博士がオトマックスに含まれる特定の成分を確認することを期待していた。その成分は、"馬はオトマックスで治療されていたため陽性反応を示した"という彼らの主張の正当性を立証する可能性がある。

 オトマックスは犬の耳の感染症を治療する薬剤として広く販売されている。ロバートソン弁護士によれば、ケンタッキーダービー(チャーチルダウンズ)に向けて、メディーナスピリットの後躯(馬体を前後方向に3等分しその最後部を指す)の皮膚病を治療するために、バファート氏の獣医師の勧めによりオトマックスは定期的に使用されていた。同馬の馬主ゼダンレーシングステーブルスのアムル・ゼダン(Amr Zedan)氏の代理人でもあるバファート氏のもう一人の弁護士、クラーク・ブルースター氏は診療記録にこの治療のことが記されていると以前述べていた。

 バファート氏の弁護士は12月3日、オトマックスには"ベタメタゾン吉草酸エステル"、注射剤には"酢酸ベタメタゾン"が含まれていると記した。同弁護士によれば、ニューヨークでの検査の結果はメディーナスピリットの検体には"ベタメタゾン吉草酸エステル"しか含まれていないことを示していたという。そして、「この検査結果によりケンタッキーでの問題は確実に解決されるはずであり、メディーナスピリットは2021年ケンタッキーダービーの正式な優勝馬の地位にとどまるべきです」と述べた。

 ブルースター弁護士も12月3日に発表した声明の中で同様の知見を示し、メディーナスピリットは"皮膚病"の治療中であり、メイリン博士の結論は"代謝物を確認したうえで"出されたものだと記している。

 ロバートソン弁護士は声明で、「ケンタッキー州のルールは"酢酸ベタメタゾン"にのみ対処し規制しています」と付け加えている。しかし尿検体がニューヨークに送られる前の6月のケンタッキー州での法廷審問のあいだ、KHRCの法律顧問であるジェニファー・ウォルシング氏は、KHRCの禁止物質リストの中でベタメタゾンの禁止はクリームと注射を"区別していない"と述べていた。

 フランクリン群巡回裁判所のトーマス・ウィンゲート判事はその審問の際に、さまざまな種類のベタメタゾンが問題になるかどうかについて疑問を呈していた。そして最終的に制裁を妥当と認めた自身の裁判所や法制度の下で審理された類似の事案を思い起こしていた。

 さらなる評価を求めないかぎり、ニューヨークでの検査が終了したことをうけ裁決委員による審問が予定されるようだ。独自の代謝物合成情報を得るために、その検査結果はいくぶん遅れて出されていた。

 KHRCの広報担当であるシェレル・ロバーツ氏は、ニューヨークの研究所の検査結果に関するバファート氏の弁護士の声明についてのコメントを控えた。そして、KHRCはこのような問題について公のコメントを出さずその公的活動は裁決委員の裁定や規定・法律文書の記述に委ねていると述べた。

 ロバーツ氏は、ケンタッキー州での裁決委員による審問は非公開でありメディアや一般には公開されていないと述べた。そして審問の日程についてはふたたびコメントを控えた。裁決委員は通常、審問の直後に裁定を下す。

 裁決委員がこの最新の検査結果を"無罪を証明するもの"あるいは"罪を軽減するもの"と見なさない場合、メディーナスピリットはケンタッキーダービーで失格となる可能性がある。しかし失格となった場合、KHRCに上訴したり、あるいは訴訟につながる可能性もある。ケンタッキーダービーの1着賞金は186万ドル(約2億1,390万円)である。

 メディーナスピリットが失格となった場合は、2着となったジャドモントファームのマンダルーンが1位に繰り上がり、メディーナスピリットは最下位となる。

 ケンタッキーダービーに関して競馬統括機関による措置はまだ取られていない。しかしバファート氏は最初の検査結果が出てから各競馬場のオーナーから制裁を受けている。この春、チャーチルダウンズ社(CDI)は私有財産の所有者としてバファート氏に対し、チャーチルダウンズ競馬場で2023年の春開催が終了するまでの約2年間、CDIの所有競馬場での出走停止を言い渡した。

 CDIはさらに、バファート氏のような出走停止となった調教師の管理馬がロード・トゥ・ザ・ケンタッキーダービーとロード・トゥ・ザ・ケンタッキーオークスでポイントを獲得できないようにしている。

 ニューヨーク競馬協会(NYRA)もバファート氏に出走停止を言い渡したが、同氏はNYRAの行動に抗議して訴訟を起こしている。差止仮処分により、バファート氏はこの夏サラトガ競馬場で管理馬を出走させることができた。この件についての審問はこの冬に行われる可能性がある。

 相互主義のため、KHRCのような競馬統括機関を介して科された出走停止処分は他の州でも尊重される。

 メディーナスピリットの検査結果は、ケンタッキーダービーを含めそこに至るまでの1年間にバファート氏が出した陽性反応5件のうちの1件である。ブルースター弁護士はより多くの年を見ると、バファート氏の薬物使用違反の記録は少なく、他の多くの一流トレーナーよりもずっと少ないと主張した。

 ロバートソン弁護士は12月3日の声明をこう締めくくった。「5月以降、バファート氏は不当で性急な判断を下される対象となっていました。私たちは、事実と科学的根拠が明らかになるまで誰もが待つべきだと要請してきました」。

 ケンタッキーダービーの競走後検査について最初に報じられたのは、5月9日にチャーチルの厩舎地区で行われた記者会見でのバファート氏自身の発言だった。バファート氏はその日、メディーナスピリットにはベタメタゾンで治療したことがないと語っていた。

 近年ベタメタゾンの陽性反応を示したバファート氏の管理馬はメディーナスピリットだけではない。もう1頭のガミーン(馬主:マイケル・ルンド・ピーターセン氏)はこの薬物の陽性反応を示したことで、2020年ケンタッキーオークス(G1 チャーチルダウンズ)で3着となっていたものの失格とされた。KHRCはその検査結果が出たことをうけてバファート氏に過怠金1,500ドル(約17万円)を科した。

 バファート氏はその事案において、ガミーンをこの薬物で治療したことについて異議を唱えなかった。ロバートソン弁護士は、ガミーンはオークスの休薬期間の14日間よりも長い18日前にベタメタゾンを注射で投与されたにもかかわらず陽性反応が出てしまったと述べていた。

By Byron King

(1ドル=約115円)

 (関連記事)海外競馬ニュース 2021年No.22「メディーナスピリットの尿検査を求めて調教師と馬主が提訴(アメリカ)」、No.35「ロード・トゥ・ザ・ケンタッキーダービー、バファート調教師を除外(アメリカ)

[bloodhorse.com 2021年12月3日「Attorney: Test Indicates Cream Used on Medina Spirit」]

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