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2021年11月11日  - No.42 - 3

ニックスゴー、BCクラシックを制して米国年度代表馬に(アメリカ)[その他]


 ブリーダーズカップ開催の2日目(11月6日)を迎えるにあたり、どの馬が年度代表馬となるかをいくぶん疑う声があったかもしれない。しかしデルマーに夕暮れが訪れたとき、議論の余地はまったくなくなっていた。

 韓国馬事会(KRA)のニックスゴーは年度代表馬となる資格についてのあらゆる疑問に答えを出した。総賞金540万ドル(約6億2,100万円)のBCクラシック(G1)で、発走後すぐに先頭に立ち、最後の1ハロンで差を広げてメディーナスピリットに2¾馬身差の勝利を決め、2021年の最も輝かしいスターとして名前を刻んだのだ。

 ブラッド・コックス調教師はこのメリーランド州産のペインター産駒について、「ニックスゴーとこの1年の成果をとても誇りに思っています。今シーズンは1月から出走しはじめ、後半は素晴らしいものでした」と語った。同馬は来年、テイラーメイドスタリオンズに種牡馬として供用される。

 コックス調教師にとっては初めてづくしの年だった。1月にはエクリプス賞の優秀調教師に初めて選出された。そして、エッセンシャルクオリティ(馬主:ゴドルフィン)がベルモントS(G1)を制したことで、初めての三冠競走の勝利を手に入れた。また同馬のおかげで、トラヴァーズS(G1)の初制覇も果たした。なお、エッセンシャルクオリティはBCクラシックで3着に入っている。

 ニックスゴーは昨年のBCダートマイル(G1)を制し、今年は初めてのペガサスワールドカップ(G1)、ホイットニーS(G1)、BCクラシックの勝利をもたらした。そしてもちろん、初の年度代表馬の栄誉ももたらすのだ。

 コックス調教師はこう続けた。「大勝利でした。私たちにとって素晴らしい一年でした。BCクラシックは、勝ちたいと思っていたレースのリストの中でもかなりの上位にあり、その勝利でこの一年を締めくくることができました。でも、また同じように勝ちたいですね」。

 勝利ジョッキーのジョエル・ロザリオ騎手にとっても素晴らしい年となった。このBCクラシックでの勝利で今年の重賞48勝目を挙げ、ジェリー・ベイリー騎手が持つ1シーズン重賞55勝の記録に迫っている。

 ロザリオ騎手は「信じられないような年でした」と述べた。

 2021年に北米で出走させた馬がニックスゴーだけだった韓国馬事会についても同じことが言えるだろう。

 KRAのシニアマネージャーであるジン・ウー・リー(Jin Woo Lee)氏は通訳を介してこう語った。「今日の結果には非常に満足しています。3歳のときには厳しい時期を送りましたが、苦しい1年を経たあとに危機を脱して特別な馬になりました。そして実際のところ、ブリーダーズカップで優勝することが年初に定めた最終目標でしたが、その目標を達成できました。だから彼は気持ちよく旅立つことができ、私たちは皆さんに感謝したいと思います」。

 競馬ファンにとって何より嬉しいのは、ニックスゴーの競走生活がまだ終わっていないかもしれないということである。

 KRAのレーシングマネージャーであるジュン・パク(Jun Park)氏とコックス調教師は、ニックスゴーが1月下旬に総賞金300万ドル(約3億4,500万円)のペガサスワールドカップ(ガルフストリームパーク)にふたたび出走し、現在の獲得賞金867万3,135ドル(約9億9,741万円)をさらに引き上げてから種馬生活に入る可能性もあると述べた

 パク氏はニックスゴー(母コスモズバディ 母父アウトフランカー)について、「この馬のレース後の状態を見なければなりません。種牡馬生活についての契約もありますが、ペガサスに出走する可能性はあります。あのコースを得意としていることは分かっていますから」と語った。

 もちろん、2日間で総賞金7ケタ(100万ドル)以上の重賞14レースが施行されるブリーダーズカップ開催でさえもすべての疑問に答えを出しているわけではない。ボブ・バファート調教師は「最優秀3歳牡馬はどの馬か?」という疑問を投げかけた。

 バファート氏が管理するケンタッキーダービー(G1)優勝馬メディーナスピリットは、レース前に最優秀3歳牡馬の最有力候補と目されていた2頭、エッセンシャルクオリティとホットロッドチャーリーに先着した。単勝2.8倍のエッセンシャルクオリティはメディーナスピリットの¾馬身後ろの3着、ホットロッドチャーリーはその1馬身後ろの4着だった。これを受けて、どの馬が最優秀3歳牡馬に選出されるべきかと質問されたバファート調教師は「私が投票するわけではありません」と答えた。

 また「あなたの心の中ではどの馬が最優秀3歳牡馬ですか?」という質問には、周囲に集まった報道陣に向かって「私の心の中で?そんなことには一切関わりません。そっちの方向に話をもっていくことはありません。ただ分かっているのは、彼をとても誇りに思っているということだけです。彼は今日、それを示しました。あなた方が投票してください」と語った。

 バファート氏はある記者に "エッセンシャルクオリティがエクリプス賞を受賞する可能性が高い"と言われて、「エクリプス賞は最高の馬に与えるべきです」と答えた。

 メディーナスピリットの鞍上を務めた殿堂入りジョッキーのジョン・ヴェラスケス騎手は、どの馬が最優秀3歳牡馬になるべきかについて、よりはっきりと主張していた。メディーナスピリットがケンタッキーダービーとBCクラシックの両方でエッセンシャルクオリティとホットロッドチャーリーを破っていたからである。

 彼はメディーナスピリットを支持し、「絶対的に彼でしょう。彼は今日それを証明しました」と述べた。

 最強馬であることとエクリプス賞で選出されることには異なる意味があり、それらに当てはまる馬も異なるかもしれない。しかしコックス調教師は、2021年に7戦5勝したエッセンシャルクオリティが最優秀3歳牡馬としての栄誉を得るのにふさわしいと考えており、こう語った。

 「メディーナスピリットはとても優秀な馬で、素晴らしいシーズンを過ごしました。私には投票権がありませんが、もしあるとすればどの馬に投票するかはお察しのとおりです。エッセンシャルクオリティがエクリプス賞を受賞するのに十分な活躍をしたと思っています」。

 もちろん重要なのにだれも触れたがらない問題は、メディーナスピリット(父プロトニコ)が競走後検査に2回も失格となったことで、ケンタッキーダービーでの勝利が論争中であるということだ。現在、ケンタッキー州競馬委員会(KHRC)は3回目の検査結果を待っており、その後メディーナスピリットを失格としてマンダルーン(コックス厩舎)を優勝馬に繰り上げるかどうかを決定する。

 メディーナスピリットはBCクラシックにおいて、別の理由でも注目を浴びた。同馬は圧倒的なスピードに恵まれており、ケンタッキーダービーではそれを発揮して先行逃げ切りで優勝していたほどだ。BCクラシックでも序盤でニックスゴーと競り合って、先行差し馬に有利な展開を作り出すことが期待されていた。

 しかしメディーナスピリットがゲートをゆっくりと出たとき、ヴェラスケス騎手はニックスゴーのように速くて手強い古馬のライバルとあわてて交戦するよりも、好機をうかがいながらゆっくりと挽回するほうが良いと考えた。

 ヴェラスケス騎手はゆっくりしたスタートについて、「戦略を変えなければなりませんでした。そしてだんだんと挽回しようとしました。あんなスタートをしてしまってから彼を急いで先頭に立たせるなんてバカなまねはできません」と語った。

 メディーナスピリットが最初のターン(1・2コーナーのあいだ)を内側に3~4頭を見ながら3番手で回っているとき、ロザリオ騎手とニックスゴーは最初の¼マイル(約400m)を23秒16で通過し1馬身ほどの差をつけてリードしていた。ホットロッドチャーリーと同じ単勝4倍で2番人気だったニックスゴーは½マイル(約800m)を45秒77、6ハロン(約1200m)を1分10秒04で通過してもなお、1½馬身のリードを保っていた。

 バックストレッチを走る馬群を見ながら、コックス調教師は複雑な気持ちになった。ニックスゴーにとっては素晴らしい展開だったが、½マイル(約800m)を過ぎた地点で8頭立ての7番手で内ラチ沿いを走っていたエッセンシャルクオリティにとっては不利な展開だったのだ。

 コックス調教師はエッセンシャルクオリティ(父タピット)について、「十分なペースで走ることができず、彼の前で馬群が固まっていました。数頭の有力馬を追跡しなければならず、彼はそのとおりにしました。そしてかなり努力したのですが、ニックスゴーがあのように逃げると、とらえるのは至難の業です」と語った。なお、エッセンシャルクオリティはふたたび出走することはなく、来年ジョナベルファームで種牡馬入りする予定である。

 デルマー競馬場で2万6,553人の観客が見守る中、ニックスゴーは残り400mの地点でホットロッドチャーリー、アートコレクター、メディーナスピリットを1馬身離して先頭に立っていたが、残り200mの地点で一気に加速して2馬身引き離し、その後も主導権を握った。

 ホットロッドチャーリーの馬主の1人、ビル・ストラウス氏は、「(ニックスゴーが)少しは盛り返すだろうと思っていましたが、その後もひたすら勢いよく走っていました」と語った。

 デルマーを舞台としたブリーダーズカップ開催は今回で2回目である。ニックスゴーは1¼マイル(約2000m)を1分59秒57で走った。ガンランナーはデルマーでの1回目のブリーダーズカップ開催で、BCクラシックを2分01秒29で制した。

 ニックスゴーは1⅛マイル(約1800m)を上回る距離のレースで走るのは初めてだったが、2008年に人工馬場で施行されたBCクラシックでレイヴンズパスが記録した1分59秒27に次ぐ走破タイムを出した。

 ニックスゴーはこれにより通算24戦10勝を果たした。また、昨年コックス厩舎に転厩してからは9戦8勝を挙げている。この中には昨年のBCダートマイル優勝が含まれる。

 コスモズバディの8頭の仔の中で唯一のステークス勝馬であるニックスゴーは、2017年のキーンランド9月1歳セールにウッズエッジファームにより上場され、KRAが8万7,000ドル(約1,001万円)で購買した。母コスモズバディは1歳牝駒ゴーゴープリンセス(父ジャスティファイ)も送り出しており、今年の4月19日にはゴーストザッパーの牝駒を出産した。

 コックス調教師はニックスゴーはまもなくケンタッキーに戻り、1週間以内にテイラーメイドスタリオンズによって生産者向けに展示されるだろうと語った。

 「フットボールや野球のメジャーリーグでコーチをしているような感覚です。本当にプレッシャーを感じています。つねに良いパフォーマンスができるように、あるいは馬が良いパフォーマンスを発揮できるように準備しておかなければならず、いつも前進しなければなりません。だから前にも言ったように、15分、たぶん30分くらいお祝いしてから、いつも仕事に戻るのです」。
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By Bob Ehalt

(1ドル=約115円)

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