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2021年08月18日  - No.30 - 2

組織的ドーピングを認めたナヴァロ調教師、最長5年の禁固刑の見通し(アメリカ)[その他]


 ホルヘ・ナヴァロ調教師(46歳)は、4年間にわたって巧妙で大掛かりな組織的ドーピングを画策し、管理馬の競走能力を向上させていたという容疑について有罪を認めた。これにより最長5年の禁固刑を科され、被害者への2,500万ドル(約27億5,000万円)以上の損害賠償義務が生じることになりそうだ。

 これは世界中の競馬社会において重大な出来事だ。ナヴァロ氏は、2019年ドバイゴールデンシャヒーン(G1)優勝馬エックスワイジェットを含む1,000頭以上の勝馬を送り出してきた。ところが、2016年~2020年3月に非合法のブラッドビルダー(赤血球数を増加させる作用がある)、血管拡張剤、気管支拡張剤、運動誘発性肺出血用ピル、デザイナードラッグのSGF-1000を馬に意図的に投与したり、他人に投与するよう指示したことを認めたのだ。それらは管理馬の競走能力を向上させることを目的としたものであり、レース前後の薬物検査で検出されることはなかった。

 ナヴァロ氏は、ジェイソン・サーヴィス調教師の組織的ドーピングへの関与も明らかにした。サーヴィス氏は2020 年の第1回サウジカップ[総賞金2,000万ドル(約22億円)]で1位入線したマキシマムセキュリティを管理していた。その賞金は今もなお、同馬の馬主に支払われていない。

 FBI(連邦捜査局)は2020年3月、競走能力向上薬(PED)使用の疑惑に対する盗聴を含む秘密調査の結果をうけて、早朝の家宅捜索を実施した。そのときに逮捕された27人にこれら2人の調教師が含まれていた。サーヴィス氏はこの容疑を否定し、無罪を主張している。

 昨年この事件が明るみになり競馬界に大きな衝撃を与えたが、さらに最も重大な局面において、ナヴァロ氏は自らの主張を覆した。すなわち、仲間と共謀してFDA(米国食品医薬品局)が承認していない不当表示薬物や変造薬物を投与したとする容疑に対して、ナヴァロ氏はその主張を無罪から有罪に変更したのだ。それらの薬物には、管理馬の競走能力を向上させることを意図した薬物が含まれていた。

 ナヴァロ氏はニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所でこう語った。「管理馬の競走能力を向上させるために、FDAが承認していない不当表示の変造された薬物を投与しました。それらの薬物には、ブラッドビルダー、血管拡張剤、気管支拡張剤、運動誘発性肺出血用ピル、SGF-1000などが含まれていました」。

 「私は5人以上が関与する犯罪行為の取りまとめ役でした。それらの薬物を管理馬に投与するように調整したのです」。

 「信頼される立場にあることを悪用しました。調教師免許を持っていますし、犯行に及んだとき、私はそれらの馬を預託されていたのです」。

 ナヴァロ氏は米国で出走した管理馬へのドーピングを認めただけでなく、ドバイで出走した管理馬にもPEDを投与したと述べた。つまり、2019年ゴールデンシャヒーンの優勝前にエックスワイジェットにドーピングしていたことを自身が説明する、起訴状内の盗聴証拠を認めたのだ。

 起訴状の中で、ナヴァロ氏はゴールデンシャヒーン当日にもエックスワイジェットに"モンキー"と呼ばれるエリスロポエチン(erythropoietin)に類似したブラッドビルダーを投与していたとし、「エックスワイジェットに50本の注射によって、また経口によってこの薬物を投与しました」と語っていたとされている。同馬は、2020年1月に心臓発作と思われる症状で死んだ。

 ナヴァロ氏は、逮捕前は米国で最も多くの勝利を挙げていた調教師の1人だった。彼はフロリダの自宅から調教拠点のモンマスパーク競馬場(ニュージャージー州)まで違法薬物を運んだこと、"競馬場の役員や従業員に見つからないようにするために"獣医師からの請求書を偽造したこと、また共謀していた調教師にPEDを提供したことも認めた。

 メアリー・ケイ・ヴィスコチル判事から、他の調教師に違法PEDを提供したかどうかを聞かれて、ナヴァロ氏はこう答えた。「ジェイソン・サーヴィス氏には気管支拡張剤を提供しました」。

 8月に入って、クリスチャン・ライン獣医師が組織的ドーピングへの関与について有罪を認めている。2019年6月16日のリステッド競走(モンマスパーク)に出走前のマキシマムセキュリティにSGF-1000を投与したと述べたのだ。このレースは、同馬が1位入線したものの走行妨害により降着とされたケンタッキーダービー(G1)の次に走ったレースだった。

 傍聴された電話の会話で、ライン氏は「SGF-1000の検査もしないんですよ。米国にはその検査がないんですね」と話していた。

 検察官の説明によると、SGF-1000は「羊の胎盤が由来とされる成長因子の作用により、馬のスタミナ・持久力・心拍数の低下を促進できる」と売り込まれている、検出不可能な静脈内血管拡張剤である。

 ナヴァロ氏は最長5年の禁固刑と7万ドル(約770万円)以上の罰金を科されるのに加え、詐欺行為の被害者に2,586万514ドル(約28億4,466万円)を返済しなければならない。

 司法取引の一端として、昨年追加起訴で示されたナヴァロ氏に対するさらなる訴因は取り下げられた。同氏は12月17日に判決を受ける予定である。

 オードリー・ストラウス連邦検事はこの事案について次のような判断を下した。「本日ナヴァロ氏が認めたように、調教師免許を持ち世界中のビッグレースの"勝利トレーナー"と評されていた彼は、実際には無謀な詐欺師であり、管理馬を組織的に虐待することで成功したように見せかけていました」。

By Peter Scargill 

(1ドル=約110円)

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