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海外競馬ニュース
2013年04月11日  - No.15 - 1

薬物規制措置の後退でブリーダーズカップの名声は凋落(アメリカ)[その他]


 あらゆる競馬開催の中で最高に魅惑的な開催を作り出そうとするときには厄介な問題も伴うが、私たちは、競馬の批判者が電話を掛けてきても強く弁護出来ると知っており、対処できるという自信を当然持っている。しかし3月1日の夜、米国競馬界はあまり祝福されていないということが明らかになった。そこでは、深刻かつ悲惨なことに敵が内部にいる。

 チェルトナムフェスティバルを8日後に控え、施行される魅惑的な27レース以外に私たちの頭の中にはほとんどない。しかしブリーダーズカップ協会(Breeders’ Cup Ltd.: BCL)が、これまで熱く議論されてきた薬物規制の範囲を2歳レースだけから全レースに広げるという長年の計画を断念する決定を3月1日に行ったことは、競馬に情熱を持つ者すべてを動揺させる1つの出来事であったはずだ。

 このニュースを初めて明らかにした際、BCLの担当者の説明は、競走当日に抗出血効果のある利尿剤ラシックスが2歳レース4競走(BCジュヴェナイルスプリントは廃止)の出走馬には使用できないことについて、BCL理事会の承認が得られるかという点が中心であった。

 当然のことながら、プレスリリースのどこにも、今年のレースの大半へのラシックス使用容認に関して、BCLが180度の転換をするとは明記されていない。このことは、ブリーダーズカップとその自ら掲げた目標にとってまったくの後退である。

 米国の調教師の大部分は、昨秋サンタアニタ競馬場において、苦痛を取り除く人道的手段であると彼らが主張する薬物使用に規制を課されることに憤慨していた。他のどの主要競馬国においても競走当日の薬物使用は認められていないことを指摘されると、ダートで施行される米国競馬は出走馬にとって他国の競馬とは違って、より困難でストレスを伴うものであると彼らは主張した。

 馬主のマイク・リポール(Mike Repole)氏など知名度の高い関係者の何人かは、行動を起こし、管理馬を出走させず、この作戦によって主要2歳レースの出走頭数は減少した。より悪意のある言い方で別の行動を起こすと示唆する他の関係者もあり、トップトレーナーのマイク・カス(Mike Casse)調教師は次のように語った。「ラシックスが禁止されれば、調教師はラシックスと同じ利尿効果を得るために、馬に水を飲ませなくなるでしょう。私がそうすると言っているわけではありませんが、これは100%起こり得ることで、馬にとってはより酷なことであると断言できます」。

 分別ある言い方をする人もいる。伝説的騎手であったジェリー・ベイリー(Jerry Bailey)氏は、長期的に見れば包括的な薬物規制が競馬にとっては望ましく、現時点で薬物使用を禁止することでサラブレッドはやがて薬物を必要としなくなるだろうと予見した。

 この見解に対し、エイダン・オブライエン(Aidan O’Brien)調教師は思慮深い言葉で支持を表明し、ブリーダーズカップの動きは“後退ではない”が、ラシックスは“他の要素を覆い隠してしまう”と語った。一方米国を拠点としたことのあるジョン・ゴスデン(John Gosden)調教師は、次のように述べた。「ラシックスは体重を減少させ毛細血管への圧迫を軽減するので、馬の能力を向上させることは間違いありません。薬物として馬が速く走るのを助けます」。

 「6〜7代前から米国馬は非常に強い薬物を投与されて出走しており、そのことが問題です。米国のサラブレッドはかつてほど強い生き物ではなくなりました。薬物使用がなされていなかった時代にはもっと強靭な馬がいました」。

 ベイリー氏、ゴスデン調教師およびオブライエン調教師が述べた意見は非常に妥当であったことから、BCLも彼らの発言には同意した。

 昨年10月に平地競馬界の人々がカリフォルニア州に集まったとき、BCLのCEOクレイグ・フラヴェル(Craig Fravel)氏は断固たる態度を取り、完全な薬物禁止は“実行すべきことであり、サラブレッドと競馬界の長期的利益となる”と表現していた。またBCLのスポークスマンは譲歩の可能性を否定し、「これは実験的なものではありません。国際的チャンピオンシップレースは薬物という点において、公平な競走条件で行われなければなりません。私たちは競馬関係者の要望にもちろん敏感ですが、この方針の重要性を強く感じています」と語っていた。

 しかし彼らはどうやら十分に強くは感じていなかったらしく、腰砕けになった。ブリーダーズカップはビジネスである。米国の調教師の反発から、出走頭数はさらに減少するかもしれず、ブリーダーズカップの利益に影響のある馬券売上げに必ず打撃を与えることになる。

 サンタアニタ競馬場のオーナーたちがホースマンに屈し、新たに敷設されていた人工馬場を掘り起こしたのと同様に、BCLは薬物に関してホースマンに屈した。

 その上、わずかな慰めにしかならなかったが、ラシックスの効果に対する“独自の調査”を推進することによって、昔からある政治家の言い逃れを行った。ただし言うまでもなくその調査は“独自”のものとはならないだろうし、また、調教師と同様に競走当日薬物使用を合法にしておくことで既得権益を持つ米国の獣医師が中心となって行うことになるだろう。

 BCLは以前のような影響力がなくなり、盛り上がりに欠ける面があるのも事実だが、ブリーダーズカップ自体は今なお多くの人々が愛着を感じている壮大なイベントである。

 BCLに同情する向きもあるかもしれない。BCLの当初の意図は尊敬すべきものであったが、米国の競馬関係者から受けた圧力が極めて大きかった。しかしながら、BCLの非常に残念な決定はブリーダーズカップの地位を弱めてしまった。

 ブリーダーズカップの名声は、米国外の人々の間で失墜するだろう。競走数時間前の投与で能力向上効果があると多くの人々が信じている薬物を容認することで、ブリーダーズカップは、他国の国際競馬開催とは差別化された看板レースであり続けるだろう。

 アスコットロンシャンおよびシャティン競馬場が、米国に遠征するはずの出走馬を積極的に集めようとしているときに、BCLは信じられないような内向きの措置を講じた。ランス・アームストロングの出来事(訳注:ツール・ド・フランスを7連覇し世界的に有名であったアームストロング選手は、ドーピング問題によりこれらの優勝記録を抹消された)にまだ動揺している米国の一般的なスポーツファンにとって、おそらく最も懸念されることは、競馬が薬物によって後押しされているスポーツであると見なされることだろう。

 今は私たちの心がほとんど完全にチェルトナムフェスティバルに捕われていることは当然であり無理からぬことであるが、4週間足らずで、私たちはリンカーンHとドバイワールドカップを目の当たりにすることになるだろう。

 平地競走のシーズンはまもなく本格的にスタートする。平地競走に対して国境のない情熱を持つ競馬ファンにとって、ブリーダーズカップの薬物規制の後退は非常に残念なことである。

By Lee Mottershead

[Racing Post 2013年3月4日「Drugs u-turn damages Breeders’ reputation」]


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