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2012年10月18日  - No.43 - 1

2歳馬への競走当日の薬物投与を行わない誓約から2ヵ月後の状況(アメリカ)[獣医・診療]


 60人以上の馬主が連携して、競走当日2歳馬にラシックス(Lasix)としても知られる抗出血薬を投与せずに出走させることを誓約し、サリックス(Salix)を使用しない試みに着手してから、2ヵ月ほどが経過した。

 薬物を投与せずに管理馬を出走させている調教師は、馬房でサリックスを投与した出走馬と投与しなかった出走馬との間に明確な違いを確定するには、まだ十分な時間が経過していないと述べる一方、これまでサリックス無投与馬のいずれも競走後に出血の兆候を見せていないことを指摘した。

グラハム・モーション(Graham Motion)調教師の厩舎は7月20日〜9月5日に2歳馬を25回出走させたが、うち16回はサリックスを使用していない。「調教または出走ごとに馬を内視鏡で調べています。競走後に鼻出血を起こす馬が増えていないことは、うれしい驚きです」と同調教師は語った。

 ただし、この明るいニュースには注意事項がついている。

 「私は今出されている情報がすべてだとは思っていません。ほとんどの初出走馬に期待されることは限られています。多くの馬は新馬戦で、その後の競走で発揮するであろう力を出し切れません」とトニー・デュトロー(Tony Dutrow)調教師は語った。同調教師は同期間に2歳馬を27回出走させたが、うち14回はサリックスを使用していない。

 モーション調教師、デュトロー調教師、その他2〜3人の調教師は、サリックス投与出走馬と無投与出走馬の健康に特筆すべき相違は見られなかったと口を揃えた。加えて、薬剤を使用しないことに懸念を示す者は、誰一人いなかった。

 「ラシックスを投与せずに出走させることに、非常に満足しています」とアル・スタール(Al Stall Jr)調教師は語った。同調教師は馬主のアデル・ディルシュネイダー(Adele Dilschneider)氏の誓約どおり、マウンテニアジュヴェナイルSで、サリックスを使用せずメイビーソー(Maybe So)を勝利させている。「私は何も特別なことはしていません。パドックへ導くだけです。馬が鼻出血を起こした場合は、おそらく少し休ませるだけでいいと思います」

 下表は、サリックス無投与馬の成績を示している。7月20日〜9月5日に、北米(アメリカとカナダ)で2歳馬レースが合計749レース施行された。勝馬のうち、660頭(88.1%)がサリックスを使用し、89頭(11.9%)が使用していなかった。

 入賞して賞金を獲得した馬のうち、87.4%がサリックスを投与されていた一方、12.6%が投与されていなかった。

 今年のサラトガ開催に限れば、競走当日にサリックスを投与されなかった出走馬は、2011年開催時の49頭から121頭に増加し、サリックス無投与馬は昨年の4頭を上回る10頭が勝利を収めた。2012年の統計は本誌が集計し、2011年の統計はサラブレッド馬主・生産者協会(Thoroughbred Owners and Breeders Association)集計によるもの。

 2年間サリックスを投与しないで2歳馬を出走させているキアラン・マクラフリン(Kiaran McLaughlin)調教師は、2歳馬の初期の競走成績をあまり気にするべきでないという考えに賛同した。

 「新馬戦は勝てません。馬には常にレース経験が必要です。ラシックスが使用されたか否かは、関係ありません」とマクラフリン調教師は言う。

 ゴドルフィンのG1勝馬で、マクラフリン調教師が管理するバーナーディニ(Bernardini)産駒の3歳牡馬アルファ(Aloha)は、2歳時はサリックスを使用せずに出走していた。新馬戦を予想に反して6馬身差で優勝し、その後シャンペインS(G1)でユニオンラグス(Union Rags)の2着となった。アルファは3歳から、サリックスを投与され出走し始めた。

 しかしながら、サリックスを投与されずに出走した2歳馬は、サリックスを投与されて出走した馬より上手く体重を維持し、競走後の回復も早いようだ、とマクラフリン調教師は付け加えた。鼻出血についてはどうだろう。

 「今のところ、我々は非常に幸運です。競走が終わるたびに内視鏡で見ていますが、これまでのところ、ごくわずかに出血した馬が1頭だけで、それ以外で鼻出血を起こした馬はいません」

 結論を出すには、2ヵ月間の競走では確かに十分でないが、初期の状況としては期待の持てるもののようである。調教師にとっても心強い。

アル・スタール調教師は、「私の見方では、競走当日は薬物投与するより投与しない方がいいということです。ラシックを投与せずに鼻出血を起こさなければ、それは大変いいことですし、馬がクリーンであれば、調教師としても気持ちの良いものです」と付言した。

 スポーツ界全体にとっても好ましいことである。

 

北米の2歳馬レース(2012年7月20日〜9月5日)
    全出走馬に対する割合 勝馬に対する割合
全出走数 5,909回    
全レース 749レース    
全出走馬 4,003頭    
全勝馬 749頭 18.70%  
サリックス投与勝馬 660頭 16.50% 88.10%
サリックス無投与勝馬* 89頭 2.20% 11.90%
* 非ステロイド系抗炎症剤であるフェニルブタゾン(ビュートBute)だけを投与され出走した7頭を含む
    全出走馬に対する割合 WPS馬に対する割合
全入賞馬 2,247頭 56.10%  
全サリックス投与入着馬 1,964頭 49.10% 87.40%
全サリックス無投与入着馬* 283頭 7.10% 12.60%
*ビュートだけを投与された13頭とサリックスではない補助薬を投与されて出走した3頭を含む
  出走数 出走頭数 レース数 サリックス投与出走馬 サリックス無投与出走数 サリックス無投与勝馬
2012年 686回 525頭 89レース 121頭 140回 10頭
2011年 679回 509頭 82レース 49頭 59回 4頭 

 

By Eric Mitchell

(関連記事)海外競馬ニュース 2012年No.36 「一部の有力馬主、競走当日に薬物を使用せず2歳馬を出走させることを誓約(アメリカ)」

[The Blood-Horse 2012年9月22日「What’s Going on Here−Following Up on the Pledge」]


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