予測市場は、競馬産業の脅威となるのか(アメリカ)【開催・運営】
将来的に有益な合意がなされる可能性について一定の議論が行われたものの、現時点における予測市場に対する専門家パネルの一致した見解は、競馬界は必要があれば訴訟も含む統一的なアプローチを通じて自らを守るべきだというものである。
競馬関係者と賭事の専門家からなるパネルは、3月5日(水)にオークローン競馬場で開催された全米ホースメン共済協会会議の2日目のオープニングセレモニーにおいて議論を行った。
近年、予測市場は州に規制されたスポーツ賭事やその他の賭事活動に対する競合相手として台頭してきた。パネリストが指摘するところによると、予測市場は成長に時間を要したものの、2024年の大統領選挙期間中に人気を博し、選挙結果についての賭け(サイト側は「契約」と呼ぶ)が急増した。それ以来、多くの予測サイトが賭けの対象をスポーツの結果にまで拡大したのだ。
予測市場側は、自らは商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission)によって連邦レベルで規制されていると主張しており、この見解は同委員会の新会長であるマイケル・セリグ氏によっても支持されている。木曜日に登壇したパネリストは、同委員会をざっと調査した限りでは、効果的な監督を行う職員が不足しており、州レベルで厳しく規制されているスポーツ賭事と比較すると、多くの点で予測市場は自主規制に委ねられていると述べた。
パネルによると、現在裁判所は予測市場に関連する60件の訴訟を審理しており、その大部分はスポーツ賭事を提供する州やゲーミング事業を経営する先住民族によって提起されたものだという。カルシ(Kalshi)やポリーマーケット(Polymarket)といった予測市場が成長を続けた場合、これらの事業は減収が予想されている。彼らは既にその影響を実感しているのだ。
この日賭事の専門家として登壇したパネリストのピーター・"ホルト"・ガーディナー氏(シーフォースパートナーズ社(訳注:コンサルティング会社)の創設者で業務執行役員)は、「ラスベガスで私たちが特に毎年関心を払っている数字の一つに、スーパーボウルの賭け金額があります」と述べた。同氏は続けて、「スーパーボウルの2週間前、カルシはラスベガスの中心にある巨大デジタル広告媒体を独占し、スーパーボウルのスポーツ予測市場の宣伝を行いました。そして、この15年で初めて規制下にあるスーパーボウルのスポーツ賭事の掛け金額が大幅に減少したのです」と述べた。
「それは主に、賭け金が予測市場に流出したことに起因しています」。
パネルのメンバーは、これらの予測サイトが、賭けの提供を競馬にも広げていると述べ、昨年のケンタッキーダービー(G1)では、120万米ドル(約1億9,200万円)を集めたと指摘した。
パネルメンバーの一人であるデニス・ドラジン氏(モンマスパーク競馬場を運営するダービーデベロップメント社の会長兼CEO)は、現時点では予測市場が競馬を賭けの対象とすることに反対すると述べたが、将来的にサイト側と適切な収益率について交渉することを受け入れる可能性にも言及した。とはいえ、まずはこれらのサイトから競馬産業を守る必要があると付け加えた。
ドラジン氏は「もし彼らがハスケルステークス(G1)をはじめとするモンマスパーク競馬場で開催されるレースを賭けの対象とするなら、私は弁護士ですから法廷に立つことになるでしょう」と主張した。加えて、昨年ある予測市場サイトから「ハスケルステークスで本命馬が勝つか?」という賭けを提案された際、彼はそれを拒否し、それを無視した場合には法的措置をとると警告したとも述べた。
ドラジン氏はモンマスパーク競馬場を守ると述べたが、競馬業界は集団訴訟の防衛体制を構築するかどうか考える必要があると述べた。
スポーツ賭事にも精通しているドラジン氏はモンマスパーク競馬場にスポーツ賭事を導入することに成功し、その取り組みは2018年の最高裁判決を受けて最終的に全米の州にスポーツ賭事の道を開くことになった。彼は、予測市場が定着すれば、現在スポーツ賭事の恩恵を受けている競馬運営事業体も影響を受けることになると指摘した。
議論の終盤において、ドラジン氏は競馬業界が予測市場に関する委員会を設立し、統一した見解を持つことが最も理にかなっていると主張した。彼は、最悪のシナリオは、ある競馬場が予測市場と取引し、賭け金額からいくらかの利益を得ることについて独自の契約を結んでしまうことだと指摘した。なぜなら、もし競馬業界がある時点でその方向へ進むことを望んだとしても、最適な取引―適切な還元率―について十分な議論がなされないまま門戸を開放することになってしまう恐れがあるからだ。
スポーツ賭事を規制する州やゲーミング事業を経営する先住民族が予測市場に対して法的措置を起こしている一方で、ドラジン氏は競馬にはそれらの団体にはない追加の防御手段を有していると考えている。州をまたいだ競馬での賭事がどのように行われるかを規定している州間競馬法(Interstate Horseracing Act:IHA)は、競馬業界に強力な武器となり得る。IHAは連邦法であり、連邦による監督は州による監督に優先するとする予測市場側の主張に対抗することができる。
先月開催されたアナリストと投資家を交えた電話会議で、チャーチルダウンズ社(CDI)の関係者たちが、同社の立場を称賛するドラジン氏と同様の見解を口にした。パリミチュエル方式の賭事は州の規制下にある一方で、州をまたいだ賭事は連邦法の下にあるのだ。
「アメリカにおいて、競馬はスポーツ賭事とは異なる法的枠組みの中にあります」とCDIのCEOであるビル・カースタンジェン氏は述べた。「競馬におけるパリミチュエル方式による賭事はIHAに基づいて実施されます。つまり傘となる連邦の法律があり、私たちのコンテンツに対し知的財産権とでも呼ぶべき一連の権利を本質的に保障するのです」。
パネリストの一人であるジェイソン・ジョンソン氏(ウォーホースゲーミング社のスポーツ賭事部門マネージャー)は、競馬業界がどのような方向に進むにせよ、予測市場が急速に規模を拡大している以上、競馬業界も早急に動くことが重要だと述べた。ドラジン氏は、拡大どころではなく、予測市場は競馬に定着すると信じていると述べた。
競馬業界は予測市場の実態把握を急速に進めている。ケンタッキー州で提出された競馬における固定オッズでの賭事を認める法案では、認可された競馬場、スポーツ賭事業者、ファンタジースポーツ(仮想チームによるトーナメント型の賞金ゲーム)の業者が予測市場の「契約」を提供する企業と提携することや、そこから利益を得ることを禁止する条項が含まれている。
オハイオ州ホースメン共済協会で常務理事を務めるデイヴ・バスラ―氏は、これまでの予測市場の行動に基づけば、訴訟を選択肢の一つにする必要があるだろうと述べた。
「究極的には、我々が検討せざるを得ないのは告訴です。私には、予測市場側は明らかに如何なる承諾も不要だと考えているように思えるからです」とバスラー氏は主張した。「断言しますが、予測市場はIHAを遵守する必要がないと考えています」。
「予測市場が最終的に賭事を受け付け始めれば、競馬界の関係者は裁判所に61番目の訴訟を提起する覚悟があるかどうかを決めなければなりません。もしその覚悟が無いのであれば、予測市場は競馬を対象とした賭事を受け付け、我々には対価は支払われないことになるでしょう」。
ドラジン氏は、現時点ではそれらの予測市場が競馬を対象とすることに反対しているものの、サイト側が競馬業界にとって納得できる収益配分を交渉したいのであれば、検討の余地はあると述べた。その理由は、競馬を新たな観客層、おそらくは若い観客層にアピールすることができるためである。モンマスパーク競馬場が位置するニュージャージー州は、競馬における固定オッズ賭事を認めている数少ない州の一つである。
彼は、予測市場が、例えばビッグレース開催日におけるパリミチュエル方式の馬券売上総額のオーバーアンダー(一定の数値を上回るか下回るか)、エクリプス賞受賞馬やブリーダーズカップ出走馬といった特定の種類の賭けを扱うのに適していると述べた。
バスラー氏も理論的にはそのような仕組みに反対しないものの、それが実現する可能性には疑問を呈している。彼は過去の交渉を振り返り、ベッティング・エクスチェンジのサイトが競馬界に対してわずかな還元しか提示せず、ほとんどの州が十分な還元とは認めなかったと述べた。
特に競馬関係者に向けて、バスラー氏は、競馬場が予測市場サイトと勝手に独自の契約を結ばないよう、また、そのような契約から得た資金が賞金の原資として組み込まれることがないよう、具体的な保護措置を講じるよう促した。
By Frank Angst
(1ドル=約160円)
[bloodhorse.com2026年3月5日「Prediction Markets: Current Threat, Future Opportunity?」]

























