事故馬データベースを活用した次世代の事故予防の取り組み(アメリカ)【獣医・診療】
6月29日、キーンランドで開催された2日間の年次「競走馬の福祉と安全サミット」の開会セッションで、ティム・パーキン博士は、北米事故馬データベース(Equine Injury Database 、以下EID)の導入から18年が経過し、この取り組みは、当初の最も楽観的な期待にさえ応える成果を上げたと述べた。
ブリストル大学に所属するパーキン博士は、EIDの立ち上げ当初から顧問を務め、データの分析を行っている。
「当時提示された当初の目標を振り返ってみても、それらは今もなお通用するものです」と彼は語った。「当初の3つの目標とは、競走中の事故の頻度、種類、結果を解析・特定すること、リスクが高まっている馬の指標を特定するために活用できる一元化されたデータベースを構築すること、そして安全性と福祉の継続的な向上および事故予防に向けた研究のためのデータソースを導き出すことでした。私は香港で開催された学会で発表しましたが、そのタイトルは『これは過去20年間で北米競馬界から生まれた最も重要な取り組みである』というものでした」。
2009年以降、北米の競馬場における予後不良率はほぼ半減し、1,000回の出走あたり2.00件だった予後不良件数が、2025年には1.07件にまで減少した。パーキン博士はこの成果を、問題への取り組み方が根本的に変わったこと、業界全体でサラブレッドの福祉がより高い優先事項とされるようになったこと、そして全体的な目標を支援するための重要な規則改正を実施したことによるものと分析している。
すべての馬場での競走において、予後不良率は大幅に低下している。ダートでは46.2%減、芝では55.2%減、オールウェザーでは34.9%減となっている。
パーキン博士は、オールウェザーコースの予後不良率が一貫して最も低かったものの、2022年以降その数値がわずかに上昇しており、2025年にはオールウェザーが0.97、芝が0.87と、オールウェザーコースの方が芝コースよりもわずかに高かったことを指摘した。
「すべての馬場で予後不良率の数値がやや収斂しつつありますが、その理由についてははっきりとはわかりません。芝の管理方法に変化があったのか、それとも人工馬場の管理方法に変化があったのかもしれません」とパーキン博士は述べた。「おそらく、人工馬場は導入の初期段階は非常に効果的ですが、長期的にはその維持管理により一層の注意を払う必要があるのかもしれません。これは我々が今後も注意し続けたい点です」。
2025年には、ダート(1.13)、芝(0.87)、オールウェザー(0.97)間の差異が縮小していることは、むしろ心強い傾向だとパーキン博士は指摘した。なぜなら、これは競走馬の全体的なリスクに占める馬場の影響が、以前ほど重要な要因ではなくなっていることを意味するからである。
規制面ではEIDの導入により、クレーミング競走において州ごとには異なるが、予後不良、獣医師の経過観察リストに載るような怪我、運動誘発性肺出血(EIPH)、あるいは馬運車による搬送などが含まれる複数の事由に該当した場合に、クレーミング競走における取引を無効にする「クレーミング取引無効ルール(void claim rules)」のような制度の取り組みにつながった。
EIDを用いた「クレーミング取引無効ルール」の影響に関する以前の分析では、同ルール導入前の各競馬場における取引後の予後不良率は1,000出走あたり2.2頭であったのに対し、導入後は1,000出走あたり1.6頭となったことが示されていた。
「EIDに収録されているようなきめ細かなデータが利用可能であることは、非常に重要です」とパーキン博士は述べた。「その初期の分析によって、クレーミング取引無効ルールをさらに発展させることへの確信が強まったのだと思います。すなわち、ルールの適用範囲を広げ、定義をより明確にし、さらに、レース後に様々な異常が認められた馬も対象に含めるように適用範囲を拡大することが有益である可能性が高いと考えられるようになったのです。したがって、規制当局や個々の競馬場が、さらに先へと進む自信を得ることができたのだと思います」。
さらにEIDは、怪我のために戦線離脱し、獣医師管理リストに登録されている馬が、その後どのように管理されているかについても知見を提供している。分析によると、獣医師管理リストから外れた馬は、一度も同リストに登録されたことのない馬に比べ、6か月以内に致命的な怪我を負う確率が40~50%高い。6ヶ月から1年後には、そのリスクレベルは30%まで低下する。しかしパーキン博士は、獣医師管理リストに掲載されたことのある馬はすべて、一度も同リストに掲載されたことのない馬に比べ、競走馬としてのキャリアを通じて致命的な怪我を負うリスクが高いままであると指摘した。このリスクは時間の経過とともに最低で10%まで低下することはあるが、それ以下には決して下がることはない。
パーキン博士は、この獣医師管理リストの分析結果が、馬がリストに掲載される原因となる怪我をより深く理解し、リスクのある馬を早期に特定するためのより優れた予測モデルを開発する必要性を強調していると述べた。
この目標に向けてパーキン博士は、自身の博士課程の学生に香港ジョッキークラブ(HKJC)の協力を得て、医療記録や獣医診療歴に基づいたシステムを開発させたと述べた。このシステムは、規制獣医師による検査を支援するために、シャティン競馬場などに在厩するすべての競走馬のリスクプロファイル(詳細なリスク評価)を作成するためのものである。このプログラムは2022年に開発され、2024年に導入された。このリスクプロファイルは馬の現在のリスク水準だけでなく、過去5戦におけるリスク評価上の位置づけも分析し、馬のコンディションの傾向を明らかにすることを目的としている。
「したがって、モデル自体は、馬、騎手、調教師、レース、そして季節的要因を考慮に入れています。非常に複雑なモデルであり、膨大な数の変数が含まれています」とパーキン博士は述べた。「これらの変数を組み込んだことで、予測性能が60%向上しました。その時点で私は『よし、これで実際にこのシステムを活用できる段階に到達した』と思いました。そして、私たちが提供する情報が妥当であり、一定の確実性を持ち、実際にリスクの低減につながるものであるという自信も持てるようになったのです」。
パーキン博士は、HKJCのモデルは、北米でも同様のプログラムを開発できるという概念実証になると述べた。すでに、HISA(競馬の公正確保と安全に関する統括機関)は、2022年から2024年生まれの競走馬に関する獣医診療データを収集している。このデータには、少なくとも1回の出走歴がある約1万8,000頭の競走馬と、少なくとも1回の調教記録が公表されている約8,000頭の競走馬の記録が含まれている。同氏によれば、これらの治療記録は香港における10年分のデータに相当するという。
2022年7月1日の「競馬場安全プログラム(Racetrack Safety Program)」開始以来、3月31日時点で、710万件の獣医治療記録が、外部の統合システムを通じてHISAデータベースにアップロードまたはオンラインで送信されている。このデータセットは、現在も引き続きHISAの診断ツールである「HISA Check」および「HISA Horse In-Sight」の原動力となっている。
「香港で得た知見が、北米のデータにも速やかに応用できることを期待しています。その目標としては、この地域における過去の獣医療上の処置と致死的な負傷との関連性の強さを具体的に検証することです」と彼は述べた。「つまり、私たちは大きなアドバンテージを持っており、最初からこれらのデータを活用して、香港で得られた知見がここでも本当に成り立つかどうかを確認できます。それが実現すれば、この国の競馬界における次の大きな取り組みにつながる可能性があります」。
パーキン博士によると、このリスクプロファイル研究は、グレイソンジョッキークラブ研究財団からの資金援助を受けて、10月に開始される予定である。
By Eric Mitchell
[bloodhorse.com 6月29日「Equine Injury Database Leads to Next Generation Tools」]

























