馬房汚染がメトホルミン陽性事例に影響(アメリカ)【獣医・診療】
カリフォルニア大学(UC)デービス校の獣医学部が実施した研究によると、糖尿病治療薬メトホルミンを服用している厩務員がサラブレッド競走馬の馬房内で排尿した場合、その競走馬はメトホルミンの陽性反応を示す可能性が高いという。
この研究で報告された検査結果(尿中の3種類の異なるメトホルミン濃度、および曝露(ばくろ)後30分から最長7日後までに採取されたサンプルによる結果)は、汚染事例を除外し、意図的な投与に焦点を当てるために、HISA(競馬の公正確保と安全に関する統括機関)が提案しているメトホルミンの最低報告レベルを支持する内容となっているようである。
メトホルミンは、HISAのアンチドーピング&薬物規制(ADMC)プログラムによれば禁止物質である。これは、この薬剤が競走馬に対して認められた治療用途を持たないためである。ADMCプログラムは2022年に開始され、メトホルミンについて血液中0.5ng/ml、尿中1 ng/mlという最低基準値を設定した。そのため、これらの基準値を超える検査結果はいずれも、不利な分析結果と判定され、制裁の対象となり得た。
しかし、2024年に一連のメトホルミン陽性事例が発生し、これらのうち多くのケースで、これらの馬の厩務員や担当者がこの薬物を処方されていたこととの関連性が指摘されたことから、HISAの執行部門である競馬の公正確保・福祉ユニット(Horseracing Integrity & Welfare Unit:HIWU)は、さらなる科学的検証が行われるまで、いかなる執行措置も停止することを決定した。HIWUは2024-25年分で9件の係争中案件を抱えている。
2025年11月、HISAは、意図的な投与とより整合性のある水準を反映し、かつ意図しない曝露で生じた陽性報告を最小限に抑えることを目的として、血液中メトホルミンの最低報告基準値を4 ng/mlとする案を発表した。これは、意図的な投与とより整合性のある水準を反映するとともに、意図しない曝露で生じた陽性報告を最小限に抑えることを目的とするものである。この新基準は現在ADMC委員会で審査中であり、承認されれば最終採択のため連邦取引委員会(FTC)へ送られる予定である。
HISAは、尿検査におけるメトホルミンについては最低検査閾値を設けていない。
「メトホルミンが尿中で不規則な排泄挙動を示すことが実証されていること、また尿中濃度と血中濃度の関係に一貫性がないことから、薬物規制標準化委員会(Racing Medication and Testing Consortium:RMTC)の科学諮問委員会は、確認分析を血液検体のみに対して実施するようHISAに勧告した」と、HIWUはこの閾値に関する声明の中で述べた。
最低報告レベルの重要性は、UCデービス校の研究によって裏付けられている。
同大学はこの研究で、3歳から5歳の調教中のサラブレッド6頭(牝馬2頭、騸馬4頭)を使用した。馬たちは、メトホルミンを添加した尿に曝露され、その尿は馬房の一角に敷かれた敷料の上に散布された。メトホルミン濃度は3種類で、10、135、270 mg/mlが使用され、各濃度に2頭ずつが曝露された。これらの濃度は、メトホルミンを1,000mgの容量で服用している人の濃度に関する未公表データから導き出されたものである。その後、研究者らは調製した尿800mlを清潔な敷料の上に散布した。固形の排泄物は部分的に清掃されたが、尿がしみ込んだ敷料はそのまま残された。
その後、これらの馬から血液サンプルが採取され、曝露後30分、その後1、2、4、6、8、12、24、30、36、48、72、96、120、144、168時間後に採血が行われた。尿サンプルは、曝露後4、24、48、72、96、120、144、168時間後に6頭すべての馬から採取された。
この研究では、血清および血漿に対して0.25 ng/ml、全血に対して0.3 ng/mlの定量下限値が使用された。尿の定量下限値は0.5 mg/mlが使用された。定量下限値とは、ある物質がサンプル中で検出されるだけでなく、その正確な量を測定および特定できる最低レベルを指す。
最も低濃度のメトホルミン処理尿(10 mg/ml)では、1頭の馬が曝露から30時間後(34.6 ng/ml)および48時間後(0.99 ng/ml)の血液検査で、HISAの従来の閾値である0.5 ng/mlを上回った。この34.6 ng/mlという値は、この研究によって、他のすべての検査結果と比較して「外れ値」であると判断されたが、この急激な上昇を説明できる明らかな理由は見当たらなかった。研究の結論では、メトホルミンの結果は血液検査で「パルス状」に現れることが明確に認められた。すなわち、数時間検出されない状態が続いた後、数回陽性結果が現れ、その後再び検出されなくなるというパターンを示した。
研究者らは、ヒトの場合と同様に、赤血球がメトホルミンの貯蔵庫として機能し、その後、時間の経過とともに 血清または血漿中へ放出されるのではないかと推測している。
尿検査では、6頭すべての馬において曝露から4時間後にある程度のレベルのメトホルミンが検出され、24時間後には全頭が定量下限値である0.5 ng/mlを上回った。135 mg/mlまたは270 mg/mlの濃度に曝露された4頭の馬では、尿検査値が1.25 ng/mlを下回ることは一度もなく、大半は曝露後7日間を通じて3.0 ng/mlを超える結果を示した。 「今回の研究結果は、汚染された敷料を介したメトホルミン曝露によって、馬から採取される生体試料中にメトホルミンが検出され得ることを示している」と研究は結論づけた。「この汚染研究から得られたデータと、意図的にメトホルミンを投与された馬の濃度データとを組み合わせることで、汚染による意図しない曝露を考慮したスクリーニング閾値を設定することができ、それによって意図しない曝露による違反が疑われる分析結果(AAF))が発生する可能性を低減させることができる。」
これまでに、メトホルミン陽性反応により3人の調教師が処分を受けている。ジョナソン・ウォン氏、マイケル・ラウアー氏、アンヘル・カスティージョ・サンチェス氏の3名はいずれも資格停止および罰金処分を受けた。ラウアー氏は2か月半の資格停止と2,600ドル(約41万6,000円)の罰金、カスティージョ・サンチェス氏は18か月の資格停止と1万2,500ドル(約200万円)の罰金を科された。
HIWU文書によると、ウォン氏は最も重い処分を受け、2023年6月に管理馬ヘブンアンドアースから血液中0.631 ng/ml、尿中242 ng/mlのメトホルミンが検出されたため、2年間の資格停止と2万5,000ドル(約400万円)の罰金を科された。ウォン氏は検査結果について「汚染によるものだ」と争い、さらにデンバーのインダストリアル・ラボラトリー社が用いた検体保の管理手続きに対しても異議を唱えた。 ウォン氏は当初、自身がメトホルミンを服用していたため自分が汚染源だと主張していたが、その後その立場を撤回し、汚染源を知らなかったことを証明するためにポリグラフ(ウソ発見器)検査を受けた。しかし、その後、ポリグラフの結果は、検査実施者の資格に疑問があるとして、却下された。その後ウォン氏は、元厩務員がメトホルミンを服用していたと同僚から聞いたと調査員に説明したが、仲裁パネルの記録によれば、ウォン氏はその厩務員が薬を服用しており、かつ馬房内で排尿していたことを示す信頼できる証拠を提示できなかった。調教師側は、その厩務員による宣誓供述書だとする文書を提出したが、その真正性は確認できなかった。最終的に、その供述書は信頼性がないと判断され、仲裁パネルからは「土壇場のでっち上げ」とみなされた。
エクイベース社の記録によれば、ウォン氏は資格停止中もルイジアナ州で調教を続けていた。ルイジアナ州は、HISAの合憲性をめぐる継続中の訴訟のため、HISA規則に従っていない管轄区域である。ウォン氏の管理馬は2025年を通じて160万ドル(約2億5,600万円)超の賞金を獲得した。彼に対するHISAの資格停止処分は2025年7月1日に終了した。
By Eric Mitchell
(1ドル=約160円)
[bloodhorse.com 2026年5月26日「Study: Stall Contamination Affects Metformin Positives」]

























