プロジェクト・ペースの全貌が明らかに(イギリス)【開催・運営】
2年以上にわたり、英国競馬界の舞台裏では、賭事収益や生産頭数の減少、優秀な競走馬の海外流出といった下降傾向を反転させるため、切迫感を強めながら、競馬における新たなプレミアシリーズを確立すべく協議が進められてきた。
「プロジェクト・ペース」と名付けられたこの計画の立案者たちは、英国平地競馬の最良の部分を集約させた新会社を設立できるだろうと信じている。設立から5年以内に企業価値を10億ポンド(約2,150億円)相当にまで高めることも可能だとしている。サッカーにとってのプレミアリーグがそうであったように、競馬が革新的なものになるとしている。
ある競馬賭事賦課公社に対する情報公開請求によって、新会社設立から、誰が利益を得るのかについての懸念が明らかになった。また、プロジェクト推進派に眠れぬ夜をもたらしている数字や、競馬に新たな仕組みが作られない場合に対する不安感の高まりについても明らかになった。
昨年の10月に競馬賭事賦課公社に提示された試算によれば、2035年までに生産頭数が32%減少し、同時に競馬賭事売上は毎年1%ずつ下落していく。さらに、競馬界へのより多くの投資を促進し、業界全体の階層構造を安定させるための措置を講じないかぎり、英国産の質の高い競走馬の輸出率は現時点よりさらに5%上昇するだろう。
高品質なレース開催を新会社に集約する構想の実現可能性については、ジャドモントファームなどから資金提供を受けて2年以上前にサラブレッドグループによって初期的な検討が行われていた。その後、コンサルティング企業のPwC社が、この構想が実現可能かどうかや市場の需要が見込まれるかを分析する任務を担った。
英国の競馬開催日割には、出走馬のレベルが高く幅広い関心が寄せられるプレミアレベルの平地競走開催が25あることが明らかになった。これは現在の開催日割において、52の開催がプレミア開催として指定されていることと対照的(この数自体も、2024年に同様に分類されていた170開催からは減少している)である。
プロジェクト・ペースは、5月にニューマーケット競馬場で行われるギニー開催から、8月にヨーク競馬場で行われるイボア開催に至るまでのプレミアレベルの競馬開催を対象とする方針である。また、平地競走に的を絞る見込みであり、その理由は、平地競走がグローバルな性格を有し、英国とアイルランドを越えて広く訴求力を持つためである。
この計画のもとでは、対象期間中の土曜日には必ずG1 競走が施行されることになる。英2,000ギニー(G1)と英1,000ギニー(G1)は週をまたいで連続する土曜日に開催され、英ダービー(G1)と英オークス(G1)も同様になる。サセックスS(G1)や英インターナショナルS(G1)も平日開催から土曜日開催となる。ファルマスS(G1)のような競走は、他の開催日の強化のために7月開催から変更となる可能性もある。プロジェクト立案者は、こういった編成が国内のファンのみならず、世界的な馬券購買層層へのアピールにもなると考えている。
サラブレッド生産者協会(TBA)会長でプロジェクト・ペースの責任者でもあるフィリップ・ニュートン氏は、2024年9月に競馬賭事賦課公社の理事会に対してプレゼンテーションを行い、その中で同プロジェクトの商業的必要性を提示した。
議事録によれば「グローバルな放映権市場は飛躍的に拡大しており、競馬界はそれがもたらす潜在的な好機を取り逃さないために活用方法を検討すべきである」と記されている。しかし、一方で、英国競馬界が恩恵を受けることができるのか、世界的な馬券購入者へアピールする開催に重点を置くことで、香港やマカオ、シンガポールの賭事事業者、さらには違法市場に流れてしまうのではないか、といった懸念も挙げられた。
それにもかかわらず、競馬賭事賦課公社は2024年10月に、プロジェクト・ペース第2期に対する予算の半分を補塡する「マッチングファンド」として23万2,500ポンド(約5,000万円)の予算を承認したが、これは競馬場が正式にプロジェクトの協議に参加していることが確認できたからである。議事録で「ウィンザー・グループ」とされたアスコット、チェスター、グッドウッド、ニューベリー、ヨークの各競馬場、アリーナレーシング社および英ジョッキークラブがプロジェクト開始当初から議論に参加しており、すでに第2期の検討にも資金を提供しているとのことである。
プロジェクトの次の段階を監督するために要人を多数集めた運営委員会が設置された。プレミアリーグでCEOを務めたリチャード・スクダモア氏とラグビーリーグスーパーリーグ前会長のロバート・エルストン氏に加え、サイモン・コックス氏(TBA理事)、コーナー・グラント氏(競馬場メディアグループ会長)、チャーリー・パーカー氏(馬主協会元会長)、アレックス・イード氏(競馬場協会CEO)、チャーリー・ボス氏(ジョッキークラブ競馬場社CEO)、デイビット・アームストロング氏(競馬場協会前CEO)といった面々および英国競馬統括機関(BHA)が参画する。
昨年の2月には競馬賭事賦課公社から追加で3万ポンド(約645万円)の資金拠出が確保されたが、競馬関係者と競馬場の足並みがそろわないという課題も表面化した。ニュートン氏は4月に競馬賭事賦課公社に対して、報告書は「承認まであと数週間の段階にある」と伝えていたが、その後の進捗の報告があったのが7月に行われたのみで、最終的なプレゼンテーションが行われたのは10月であった。
競馬場にとって活況な1年であったことから、各競馬場のプロジェクト・ペースが掲げる目的達成の緊急性についての意識に変化が生じた。一方で、アスコット競馬場が新会社への権利集約に合意するかについては、未だ疑念が残る。アスコット競馬場が誇る華やかな主要開催(特にロイヤルアスコット開催)が欠けるようなことがあれば、この計画は軌道に乗る前に事実上、破綻してしまうからである。
10月に行われたプレゼンテーションでは、競馬のファンと馬券購入者双方に訴求する、高水準のスポーツエンターテイメントを提供する会社を新設することが提案された。競馬場は指定された開催の商業権を新会社に移管し、その収益を共有する。収益の一部はプレミアリーグとEFL(訳注:プレミアリーグの下に属するプロサッカーリーグ)の関係のように、競馬界全体にも分配される仕組みになっている。
さらにプレゼンテーションでは、この仕組みの導入には少なくとも18か月を要し、最大で1,000万ポンド(約21億5,000万円)の資金が必要になるとした。また、香港ジョッキークラブなども同様にグローバルなプログラムを検討していることから、英国競馬の先行者利益が通用する猶予がなくなりつつあることにも言及していた。
しかし、競馬賭事賦課公社への報告によると、競馬場から「プロジェクトの概念に関する方向性に概ね合意とサポート」を得ているものの、各競馬場の意向をまとめるのが難しく、「今回提案された仕組みの方が従来の仕組みより効果が高いと判断したことの、さらなる根拠を要求されている」という。
ニュートン氏は「ある競馬場の役員が、生産頭数の減少が自らの事業に実質的な影響を直接及ぼすことはないと考えていた」ことについて失望を隠さなかった。一方、当時、競馬場協会(RCA)のCEOであったアームストロング氏は「一部のパートナーに対して、収益の見通しについて納得してもらったり、権利保持についての不安を和らげたりするためのさらなる努力が必要です」と話した。
アームストロング氏は1月にレーシングポスト紙に対して、権利や収入に関する問題について、プロジェクト・ペースは対処できていないと語っていた。同プロジェクトでは「こういった問題を解決するのが至難の業であることから腰が引けてしまい、非常にあいまいな財務見通しを盾にして逃げ出してしまったのです」としている。
プレゼンテーションを受けて、競馬賭事賦課公社理事会と前BHA会長のアレン卿が協議を行い、「プロジェクト・ペースに関わる権利保有者を取りまとめるためにBHAがすべきこと」について議論をした。議事録に、アレン卿は「プロジェクトの概念には優れた点もあると考えていたようだが、全体的には納得していなかった」と記されていた。
さらに議事録では「BHAは牽引役を務めることは可能だが、プロジェクトが投資対象として成立するものを生み出す必要があり、これには賛同者の結束が不可欠だ。達成できる要素を構築していくためには、現在のプロジェクトの計画を一度解体し、再構成に取り組む必要があるかもしれない」とアレン卿が語ったと記されている。
その後、ニュートン氏は2月のアジア競馬会議(ARC)にて、NFLやインドのクリケットプレミアリーグのように投資対象として魅力的な競馬フランチャイズが必要であると強調した。情報開示で明らかになったことを踏まえ、プロジェクトの今後について問われたニュートン氏は、プロジェクトの必要性は依然として大きく、競馬界は行動を起こさなくてはならないと訴えた。
「競馬界にとって、従来の方法で資金調達するのが難しくなっていくのは、火を見るよりも明らかです」とニュートン氏は述べた。「競馬を維持するために、毎年4億~4.5億ポンド(約860億~967億5,000万円)の資金が必要とされており、賦課金、放映権料、スポンサーシップからの収入で賄っています。しかし、現在はそのすべてが厳しい状況に置かれているのです」。
「世界の賭事市場では土曜日を中心に回っており、ワールドプールを見れば、相当の需要があることも明らかです。ファンが競馬場に行き、観客動員数が3~4%ほど増加するのは素晴らしいことです。しかし、賭事売上が増加したときに私のところに報告に来てほしいのです。これこそ、競馬界が把握しなくてはならないものなのだと言えます」。
ニュートン氏は、プロジェクト・ペースのチームが競馬場に新会社への参画を促すため、さらに多くの根拠を提示するとした。これにはストリーミング配信や国際放映権を活用するとともに、対象開催の賭事収益の強化も含まれている。一方で冠スポンサーや株式の一部売却などによる収益についても、模索していく方針だ。
新会社の株式一部売却の計画では、プライベート・エクイティ(PE・未公開株)投資会社大手のCVCが運営組織の持ち分を購入する。これはF1やラグビーのシックスネイションズの手法を踏襲するものだ。アメリカのPE投資会社大手であるアポロ・グローバル・マネジメント社もここ数年でスポーツ界への投資に乗り出している。
ニュートン氏によれば、株式売却から得た資金や新会社の運営益は、競馬の階層構造を維持するために投資される。それにより、英国国内での生産、売買、出走馬の頭数をそれぞれ増加させるインセンティブとして働くだろう。
加えてニュートン氏は「競馬場にも、この計画をさらに進めていきたいとする意欲はあります。BHAもこの計画に賛同し、主導しています。この計画は競馬界全体の戦略なのですから、当然のことです」。
「(BHAの)新会長が就任し、運営体制が整理されれば、プロジェクトに焦点があたり、さらに推進させることができるでしょう。今は人々の関心が別方向に向いていることから、議論は一時的に足踏み状態ですが、これだけは明言します。この計画は遅かれ早かれ実現しなければならないのです」。
By Peter Scargill
(1ポンド=約215円)
[Racing Post 2026年4月2日「Inside Project Pace - racing's bid to build elite Flat events into a £1 billion brand」]

























