せん馬のカランダガンがジャパンカップを制した意義(国際)【開催・運営】
11月30日(日)のジャパンカップ(G1)では、カランダガンが激闘の末に歴史的な勝利をつかみ取った。しかし、フランスの競馬主催者は一抹の悔いを抱いたのではないだろうか。本来であれば全てのフランス競馬関係者が祝福ムードとなるはずだったが、フランスギャロの経営層には居心地の悪さを残すものになったようだ。
一般的にフランスで調教されているトップの中距離馬であれば、シーズンのしめくくりに凱旋門賞(G1)を選ぶだろう。しかし、カランダガンはそうではなかった。せん馬であることから、凱旋門賞への出走が認められていないのだ。その代わりに、世界一位のレーティング馬は、英チャンピオンS(G1)とジャパンカップで魅力的なパフォーマンスを披露する他なかったのだ。その活躍で両レースには箔がついた一方、凱旋門賞は割を食うことになった。
さらに今年は、カランダガンに限らず、レベルスロマンスやゴリアットもパリロンシャン競馬場で行われた凱旋門賞に出走できなかったことから、フランスの看板レースが「ロンジンワールドベストレース」を逃すことは明白だ。凱旋門賞には、この表彰が創設された10年前から5回の受賞歴があるものの、レース上位4頭の公式レーティング平均値をみると、今年はジャパンカップの過去3年で2度目の受賞が確実視されている。
これはフランス競馬界にとって重要な意味を持つ。ロンジン賞の立役者が、2007年に引退するまで20年以上にわたりフランスギャロの事務総長を務めたルイ・ロマネ氏だったからだ。今年2月に凱旋門賞の「せん馬の出走制限」条項を見直していたフランスギャロ評議委員会は、その決断を先送りにした一方で、できれば世界一のレースとして凱旋門賞の返り咲きを今年から実現させたいと強い意欲を示していた。
20年ぶりに海外調教馬としてジャパンカップを制したカランダガンの偉業は、同馬やその関係者にこの上ない名誉をもたらすこととなった。日本が2,400mの世界最高の舞台であることには疑いの余地がない。カランダガンが日本に遠征して、勢ぞろいした地元のスターホース16頭を撃破したのは素晴らしい功績だ。
また、ヨーロッパで調教されるせん馬にとっても、素晴らしい1年の締めくくりとなった。統計的には偶然かもしれないが、せん馬で主要レースを制したのはカランダガンに限らず、アメリカンアフェア、カバーヨデマール、カンデラリ、キケロズギフト、エシカルダイアモンド、ゴリアット、ラザット、ネヴァーソーブレイヴ、レベルスロマンス、トローラーマンといった馬も名を連ねる。
そうそうたるメンバーが揃っているが、世界中で高額賞金の競走が次々と誕生している状況を考えると、さらに頭数は増えていくだろう。総賞金500万米ドル(約7億7,500万円)のブリーダーズカップターフを制したウィリアム・マリンズ厩舎のエシカルダイアモンドのようなタイプの馬は、種牡馬としての価値以上にレースで賞金を稼ぐことができる。こういった馬たちにとっては、去勢は進むべき道だ。
こういった比較的新しい流れは、ありがたいものだ。種牡馬価値の高騰で、カランダガンが今年成し遂げたように年間を通じて出走するような馬が減ってしまった。しかし、我々は、来年もカランダガンが同じように走ってくれることを楽しみにできるようになった。
せん馬の方が調教はしやすいという主に生産者が唱えてきた主張は、新たなファンを惹きつけることができない現状ではますます意味をなさないものになっている。競馬とは、まさに最強の競走馬たちが競馬場でぶつかり合うのをファンが目の当たりにするものだからだ。
せん馬の方が有利で不公平だと批判している生産者は、むしろそれを活用するために去勢すべきなのだ。その場合、もちろん、種牡馬としての利益を享受することはできない。二兎を追うのは不可能である。
低迷している競馬界が再生するカギは馬だ。その証拠にジャパンカップでは出走馬17頭中9頭は社台グループの生産で、その大半がその所有馬またはクラブ法人馬だった。カランダガンが出走していなければ、上位6頭が社台グループの馬だったことになる。
クールモアとダーレーという二大勢力が総力を挙げたとしても、こういった層の厚さには太刀打ちできない。ヨーロッパでは、クールモアとダーレーの独壇場である現状が平地競走の人気を陰らせているとも言われていることから、大きなタイトルは公平に分散されるべきとの声もある。しかし、社台グループが全能とも言えるほど圧倒的な力を持っている日本も同じ状況だが、それを理由に競馬場からファンの波が途絶えることはないのだ。
ジャパンカップには7万7,000人以上のファンが駆けつけた。日本のトップホースが覇権をかけて戦う姿を見届けるためで、ジャパンカップ上位7頭は全てG1 馬だった。誰が馬主なのかは関係なく、競馬ファンは純粋に選ばれし競走馬たちの力比べを自分の目で確かめたいのだ。
私はかねてからヨーロッパの大手が競馬のファン層を広げる妨げになっているという意見に異議を唱えてきた。競馬場へたまに出かけるファン層は気にするのかもしれないが、そのようなファンはおそらく、すぐに別の娯楽に移っていくだろう。
競馬は熱心なファンを惹きつける必要がある。たとえ、自分の馬券が外れたとしても、勝ち馬を称えることのできるファンが必要なのだ。馬はファンを惹きつけることができる。しかし、そのためにはもっとたくさんの人に馬を観てもらう機会を増やさなくてはならない。その点では、レベルスロマンスがいい例だ。7歳の同馬はイギリスでG1を勝っていないにも関わらず、たくさんのフォロワーを抱えている。
だからこそ、カランダガンのような馬を称えたい。今年は間違いなく、カランダガンの一年だった。たとえ、せん馬だとしてもだ。
By Julian Muscat
(1米ドル=約155円)
[Racing Post 2025年12月1日
「He's not permitted to dance every dance but it's Calandagan's world and we're all just living in it」]

























