賭事税を引き上げて、オランダの二の舞となるリスクを負うのか?(イギリス)【開催・運営】
英国文化・メディア・スポーツ省のリサ・ナンディ大臣は、賭事業界に対する「税制改革が意図せざる結果を招かないよう」に同省が財務省と協議をしていると議会で述べた。
レイチェル・リーヴス財務大臣は、11月26日に発表予定の予算案の中で、政府が賭事税増税を検討中であるとすでに示唆している。しかし、賭事業界に対する規制強化の波と重なった場合に、増税がどのような意図せざる結果を招くのかを理解するためには、遠くを見る必要はないのだ。
というのも、今年、規制を厳格に強化したのちに賭事税を増税したオランダでは、その結果が目も当てられないものであったからだ。
崩壊する市場
アナリストらはオランダの賭事市場は「明らかに、そして客観的にリアルタイムで崩壊しつつある」と分析している。
英国競馬統括機関(BHA)のCEO代理ブラント・ダンシー氏は、「オランダはイギリスで起こりうる潜在的な結果を示す完璧な一例です」と率直に評した。
増税と突然導入された広範囲に及ぶ厳格な規制によるダブルパンチは、オランダの市場に何をもたらしたのだろうか。
オランダでは今年の初めに賭事税率が総粗利益(GGR)の30.5%から34.2%に引き上げられた。さらに来年1月1日から37.8%に再度、引き上げられる予定だ。公には増税の目的が国庫の収入増であるとされていたが、その結果は正反対のものとなってしまった。
オランダ賭事規制当局(Kansspelautoriteit : KSA)のインパクト評価により、「賭事税が増税されたにもかかわらず、税収は減少した」ことが裏付けられた。
KSAによると、今年、賭事税の税率を上げたことによって「賭事事業者が利益を維持するために対策を講じる必要が生じた」のだ。
さらに「その対策には様々な方法がある。例えば、コストの削減や収入の増加である。しかし、賭事市場のうちでも実店舗型の事業者にとっては、こうした選択肢に限りがある。そのため、このような事業者は特に害を被っている」としている。
その結果、実店舗型の事業が衰退し、これまでにないペースで撤退が相次いでいる。これこそがイギリスの教訓となるのだ。ブックメーカーは、税率の引き上げによって、場外馬券発売所が撤退してしまう潜在的なリスクについて厳しく警告を発してきた。
こうしたことから、2025年のオランダの税収は、今年度上半期の数値に基づけば4,000万ユーロ(約72億円)の減少が見込まれており、これは約5%の減収に相当する。今年、賭事事業から1億ユーロ(約180億円)の増収を見込んでいた政府の目論見は達成されないことを意味している。
オランダの賭事税減収については、税率の引き上げよりも、規制強化、安全対策および(賭事サイトのアカウントへの)入金制限によるものが大きいのではないかと議論されている。
しかし、これは前政権の白書に盛り込まれた措置が導入され、規制強化に直面し続けているイギリスの賭事業界にとっては、何の慰めにもならない。
いわゆる「摩擦なき経済力チェック(アフォーダビリティチェック)」の試験的導入を終えた段階で、賭事委員会はさらに措置を講じる見通しだ。また、引き続き、広告規制の強化を求める声も上がっている。
縮小する市場と拡大する違法市場
さらに深刻なのは、違法賭事が急拡大していることである。先月、KSAは、規制が導入された2021年以来初めて、違法賭事の売上が合法的な賭事を上回ったと明らかにした。
KSAによると今年上半期の総粗利益は6億ユーロ(約1,080億円)だったが、昨年下半期の総粗利益は6億9,700万ユーロ(約1,255億円)だった。
昨年10月に導入された入金額制限を含めた利用者保護規制に一因があるとしている。
KSAは、利用者の94%が合法的な市場で賭事をしていると推算しているが、総粗利益に占める合法市場の割合は51%から低下し、わずか49%にとどまるとした。これは違法賭事の市場規模が6億1,700万ユーロ(約1,111億円)にも及ぶことを示唆している。
「この減少傾向は、利用者が厳しいと感じている新たな利用者保護規制の影響を受けない違法賭事市場へ移っていることによるものと説明できそうです」
「しかし違法賭事市場では利用者が十分に保護されないことから、懸念を深めています」とKSAは述べた。
賭事評議員会(Betting and Gaming Council: BGC)の税務政策アドバイザーであるスティーブン・ホジソン氏は、先月財務委員会に出席した際、オランダの税制変更が及ぼした影響を指摘した。同氏は今年の税率引き上げ後に影響が生じたことは「疑いがありません」と話した。
同氏は「オランダの当局自身が、合法賭事の利用者数に影響があったと述べています。税収への連鎖反応がみられ、今年オランダの税収見通しが大幅に下回っています」と述べた。
高い税率と厳格な規制のダブルパンチ
オランダは、規制強化と税率引き上げを同時に実施することが、いかに危険な結果をもたらすかを示してきた。レグルス社のアナリストは先月、「かつては適切に規制されていた市場が今では、明らかに、そして客観的にリアルタイムで崩壊しつつあり、因果関係も明白である」と容赦なく評価した。
「規制強化と税率の引き上げは、財政の健全性および利用者の安全性の両面で明らかに逆効果である」。
レグルス社は、大きな政策変更が一斉に行われたことと違法賭事の規模開示を含めKSAの透明性の高いことから、オランダが「非常に有用な政策のバロメーター」であると表現した。
アナリストらは2024年の第3四半期から第4四半期に「大きな変更」があったとし、入金額制限が導入された際、即座に売上が22%減少し、現在も市場はそこから回復していない。
レグルス社は「規制当局が、段階的にではなく、市場全体一律に厳しい経済力チェックを課した場合の影響を把握したいと思っているのであれば、オランダがその答えである」と付け加えた。
レグルス社の試算によると、違法市場に対抗するために事業者は総粗利益の約20%をボーナスとして提供している。事業者は総粗利益に対して課税されるが、この総粗利益には、事業者の実際に手元に残る利益のみならず、利用者に提供されたボーナス分の金額も含まれる。税率は34.2%に設定されているため、実効税率では「懲罰的」な43%となり、臨界点に達している。一方、違法サイトは、より多額のボーナスを利用者に提供することができるのだ。
「オランダでは、最も貴重で、最も保護を必要とする利用者は、規制政策が原因で違法市場に流出してしまいました。オランダの税政が、こうした利用者を国内市場に取り戻すのをほぼ不可能にしています」とレグルス社は分析した。
「政策の選択によってダブルパンチとなり、税収は今や目に見えて低下しています。その一方で、安全対策で保護しようとした最も重要な利用者が、違法市場で徹底的に搾取されています」。
レグルス社の言葉を借りれば、オランダの例は政策担当者が「二兎を追うものは一兎も得ず」といった状況に陥ったことを示している。規制強化や税率の引き上げは税収増加どころか、税収減少を招くことにつながり、違法市場の拡大を助長する可能性がある。
世界の事例
税率の引き上げによって意図せざる結果を招いたのは、オランダだけではない。
インドの事例は、賭事税増税が競馬産業にどのような事態を引き起こす可能性があるのかについて、教訓となる警告を示している。
インドでは2017年、馬券購入に対して商品サービス税(Goods and Services Tax: GST)が導入され、28%という過酷な税率が設定された。
その結果、インドの馬券購入者を違法市場へ流出させ、ザタイムズオブインディア紙によれば、同国の競馬産業を「財務危機」に陥らせた。
8月には同国のトップジョッキーであるスラジ・ナレドゥ騎手が本紙に「税金問題が競馬を致命的な状態に追い詰めている」と語っていた。
それにも関わらず、GSTはさらに40%まで引き上げられた。ダンシー氏は最近の会議で、この決断は「(インドの)競馬産業に壊滅的な影響を及ぼすでしょう」と語った。
この会議で、ダンシー氏はオンライン賭事税が40%から55%に引き上げられたオーストリアの例も挙げた。「増税によって、利用者がほとんど保護を受けられない違法市場が急速に成長しているのが如実に示されています」と述べた。
結論
オランダ政府の手法は、税収の減少、事業の撤退、違法賭事の市場規模が合法である賭事の市場規模を上回るといった最悪な状況を生み出した。賭事産業でも競馬産業でも世界のトップを誇るイギリスは、これを税制改革の手本としてではなく、紛れもない警告としてとらえるべきである。
By Bill Barber
(1ユーロ=約180円)
[Racing Post 2025年11月6日 「Why Britain risks repeating a Dutch disaster by raising gambling taxes」]

























