海外競馬情報 軽種馬登録ニュース 海外競走登録 海外競馬場・日程 申請書類 世界の競馬および生産統計 統計データベース 馬名登録案内
血統書サービス 引退名馬 JWS
twitter FB
TOPページ > 海外競馬情報 > 国際レースでの獣医師による出走取消が注目されている(国際)【獣医・診療】
海外競馬情報
2025年11月13日  - No.43 - 2

国際レースでの獣医師による出走取消が注目されている(国際)【獣医・診療】


 今回は規制獣医師による出走取消について考えてみよう。

 近年では、規制獣医師による出走取消が注目を浴びるケースが増えている。その代表例がサーデリウスだ。アンダーウッドS(G1)やターンブルS(G1)の勝馬で、コックスプレート(G1)およびメルボルンカップ(G1)の両レースで本命視されていたにもかかわらず、レーシングヴィクトリア(Racing Victoria: RV)の獣医師団により除外された。

 RVの獣医師団は、診断画像が「故障のリスクが高い」ことを示していると判断し出走を取り消した。「国を止めるレース」として知られるメルボルンカップでは、近年競走中の死亡事故が相次いでおり、この決断も無理はなかった。

 一見すると、この検査基準は機能しているように見える。2020年のエイダン・オブライエン厩舎のダービー馬アンソニーヴァンダイク以降、メルボルンカップでは競走中の故障により予後不良となった馬がいないからだ。しかし、サーデリウスと同じ理由で、昨年のメルボルンカップに出走できなかったオブライエン厩舎のヤンブリューゲルの一件が示したように、この基準が物議を醸しているのも事実だ。

 オブライエン調教師は、主催者側の獣医師による決断を「ばかげている」と一蹴した。自陣の獣医師は出走に問題ない状態と診断していたうえ、そもそも大半の馬のレントゲンには影や亀裂が映るものだと反論した。

 結局のところ、「リスクが高い」ことをどのように判断するのかという点に尽きるが、決断を下す際には主観的にならざるを得ない。RVの獣医師団は、その権限の範囲内で、非常に慎重な姿勢で臨んでいる。このようなケースはRVに限った話ではない。先週のブリーダーズカップ(Breeders' Cup: BC)でも規制獣医師による出走取消が相次いだのだ。

 アメリカのトップトレーナーであるケニー・マクピーク調教師が管理するミスティックダンとブラックアウトタイム(Blackout Time)は、競走当日、規制獣医師により競走除外とされた。ミスティックダンは屈曲検査での反応に問題があると判断された。

 オブライエン師と同様に、マクピーク師は不満を明らかにし、X上で「2頭とも万全の状態で輸送しました。両馬とも過去に故障したことはありません」とツイートした。

 この傾向はレース直前にまで及んだ。ホワイトアバリオがゲートに向かっている途中に左前肢に懸念ありとされ、同馬を管理するサフィー・ジョセフJr.調教師は全く問題ないと断固として抗議したが、BCダートマイル(G1)から除外された。

 リチャード・マンデラ調教師も同じようなコメントを表明している。管理馬のタマラ(Tamara)は本命視されていたBCフィリー&メアスプリント(G1)からレース当日に除外された。タマラと人気を分け合っていたライバルのスウィートアステカ(Sweet Azteca)も同じ運命が降りかかった。

 毎日、馬を見ている調教師と初見で馬を評価する獣医師の間に意見の相違があるのは想像に難くない。しかし、オブライエン師、マクピーク師、ジョセフ師やマンデラ師といった名だたる調教師と獣医師との間に存在する大きな判断の隔たりは極めて深刻な問題だ。

 豊富な経験と知識を有する第一線の調教師ですら、馬を万全な状態でレースに送り出せるかわからないと暗に言い始めたようなものであり、極めて憂慮すべき事態で、競馬そのものにダメージを与えかねない。

 競走馬は非常に繊細な生き物であり、どんなに厳格な基準を設けても、不幸な悲劇に見舞われることもある。気の毒だったシーズクオリティ(She's Quality)の一件がそれを物語っている。同馬は獣医師のお墨付きで出走したもののBCターフスプリント(G1)で骨盤を骨折して安楽死措置となった。

 BC競走において発走直前まで除外が多発したという事実は、極めて不満の残る事態だったと言わざるを得ない。オーストラリアの審査基準も完璧とは言えないが、問題を早い段階で特定することにより、調教師やファンの不満は最低限に抑えられている。

 スポーツ分野のマーケティング担当者や放送局がBCフィリー&メアスプリントのような大レースを宣伝するのにかなり時間を割いたとしても、数時間前どころか発走数分前に除外が出てしまえば、こういった努力は全て水の泡と化す。また、馬券を購入するファンにとっても、大変迷惑な話だ。

 主催者側の獣医師団による審査基準に幅があることも重大な問題だ。同じ状態の馬であっても、ある州や国のレースには出走できるが、別の州や国では出走できないといった事実は混乱をきたすばかりでなく、さらなる規制の必要性も示唆している。

こうした事実は競馬を批判している人たちにとって、格好の攻撃材料となる。厳格な基準による審査が、特に賞金の高い競走に限られているように受け止められかねない。トップクラスの競走馬だけにトップクラスのケアを受ける価値があると競馬界が公言しているようなものではないかと個人的に懸念している。

 基準を調和させ、主催者が足並みをそろえて、世界的に一貫した対応を取れるようにするためには、やるべきことが山積みだ。

By Maddy Playle

[Racing Post 2025年11月5日
「From the Breeders' Cup to Melbourne, vet scratchings are becoming a major issue in big international events」]


上に戻る