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2025年09月05日  - No.33 - 1

ナショナル・レースホース・ウィーク、5年間の軌跡(イギリス)【その他】


 ナショナル・レースホース・ウィーク(NRW)やその軌跡について、客観的なデータから多くのことを読み取れる。NRWは、リチャード・フィリップス調教師の着想から、今や一般の人々の心をつかむという競馬の使命を担う活動の一部として確立された。

 実際に5年にわたる活動の中でNRWは、ターゲット層となる観客に6万4,000人分もの無料参加枠を提供し、さらに190回の地域イベントを積極的に開催して、ここでも1万人以上とのつながりを持ったのだ。

 昨年のNRW参加者のうち、64%は競馬に初めて接する人たちだった。そのなかでオープンデー(厩舎の開放日)に参加した人のうちの32%は競馬について「ほとんど、あるいは全く」知識がなったが、同参加者のうち80%は競走馬の扱いについて、さらに好意的な見方をするようになり、95%は競馬についても参加前より好意的にとらえるようになったとしている。

 参加者の大半が競馬観戦を計画しており、なかには一口馬主や馬の共同所有にまで、並々ならない興味を持った参加者もいる。さらに相当数の参加者が慈善団体に寄付をしており、その額は2万4,000ポンド(約480万円)以上にも及ぶ。

 一言で言えば、NRWは最初から順調だ。関係者が一丸となって取り組む考え方や前向きな変化を受容する姿勢から恩恵を受けており、競馬初心者を惹きつける第一の目的は達成していると言っても差し支えないだろう。

 こういった統計データは素晴らしい内容だ。しかし、時には原点に立ち戻ってみるのもいいだろう。プロジェクトの根底にある不変的な原動力、その独自の強みや存在意義を思い起こすことが大切だ。こういった点においてシェイマス・マリンズ調教師ほど頼りになる人はいない。

 NRW開始当初から興味を持った人をウィルトシャー州の自厩舎に受け入れてきた同調教師は「競馬が他のレジャーの楽しみや主要スポーツに勝るものを一つ挙げるとすれば、競走馬と呼ばれる美しい4本足の生き物のほかにないでしょう。これこそが、一般の皆さんに強くアピールすべきものなのです」と語った。

 「興味のある方には近くで見てほしいし、是非、厩舎に来てほしいです。人々を自由に迎え入れるポリシーを持っています。皆さんに来ていただいて、我々が毎日接しているのがどんなに素晴らしい生き物であるかを知ってほしいのです。競馬を特別なものにしているのは馬たちです。この1週間は皆さんに馬たちを見ていただくためのショーケースなのです」。

 マリンズ師の思いに心から賛同したのが、ガビ・ホイットフィールド氏だ。同氏はNRWの初年度にグレート・ブリティッシュ・レーシング(G BR)に入社し、福祉部門の広報責任者として同プロジェクトを率いてきた。この業界で働く私たちと同様に、サラブレッドに魅了されて、競馬というスポーツにおける馬の健康や幸福を第一に考えてきた。しかし、このほかにも、NRWが惹きつけた数千もの好奇心あふれる参加者に伝えたいメッセージがある。

 「このプロジェクトの始まりは動物福祉という課題への挑戦であり、その核心は今も変わりません。つまり『言葉より行動で示す』ことです」とホイットフィールド氏は説明する。「しかしNRWの役割はそれだけにとどまらず、人々の心を動かして、共同での馬の所有や厩舎での就労、新たな挑戦へのきっかけを与えるという、もっと大きなものなのです。賢明な調教師たちは、その力をうまく活用する方法を知っています」

 「昨年、調教師の48%が、オープンデー当日に共有馬主グループに入会した参加者がいたと回答しました。競馬場に足を運ぶようになり、半年後に加入したくなったと電話をしてくる人もいます。こういった形での競馬との関わりが我々の活動の中で大きな柱となってきました」。

既存のファンですら今もなお、安心したいと望んでいる

 問題は、一部の人々は関わりを望まず、日々の現実を自分の目で確かめようとしないことだ。それでは、アンチの主張がはっきり伝わらないからだ。競馬界には、こちらの言い分を伝えようとしても、聞く耳を持たない人を説得するのは無駄な試みに終わるだけだという懸念が常にあった。しかし、ホイットフィールド氏は、NRWはターゲット層を明確に理解しており、決してごまかすつもりはなく、ポジティブな側面を強調することに力を注いでいるのだと毅然と言い切る。

 「ファンとの関わりは大切です。たとえ、すでに競馬に興味を持っている人たちであっても、舞台裏で行われている馬のケアや福祉が心から信頼できるレベルのものであると今もなお、安心したいと望んでいるからです」と同氏は話した。

 「ですから、こういったファンをないがしろにすることは決してありませんし、実際にそうしたファンも多くいました。一方で、新たなファン層にも働きかける必要があるため、参加者のデータを取り始めました。昨年の参加者のうち70%は初参加の方でした。とても健全な数字だと言えます」

 「そもそも、アンチとつながることに意味はなく、NRWが目指すところではありません。話を聞こうとしないアンチへの最も効果的な対応策は、アンチが広げたがる作り話やデマに反論できるようにしておくことです。このプロジェクトは話を聞く耳を持っている人に対しても絶好の策なのです」。

 これは厩舎に限らず、新たにNRWに参加した生産牧場、引退馬の養老牧場やアフターケア施設といったすべての団体にとっても共感できるメッセージだ。引退馬支援プログラムのヒーローズ(Homing Ex-Racehorses Organisation Scheme: HEROS)が行う素晴らしい活動の中心的人物であるグレイス・ミューア氏もその一人だ。同氏は自分たちの活動がまだ道半ばであると認識しつつも、取り組みを披露できる機会があることに喜びを感じている。

 「NRWの活動に関与している皆さんが見事な仕事をしており、プロジェクトを前進させています」とミューア氏は述べた。「メッセージを発信したからといって、一般の皆さん全員が見方を変えてくれるわけではありません。しかし、ごく一部の人にでも響くのなら、この活動には価値があるのです」

 「とはいっても、5年間でできることには限度があります。活動を本格化させて、成果を評価するためには、継続していかなくてはなりません。競馬を誇りに思うべきですが、それには透明性が求められます。輝かしい話ばかりではなく、欠点も含めてありのままを話す必要があります。一部、支援の網の目からこぼれ落ちてしまう馬もいますが、こういった馬たちを救いあげるセーフティネットも存在します」。

新たなファン層を開拓している

 多大なる努力、献身および信念のほかに、NRWが今後も確実に成長を続けていくための鍵の一つは、資金だ。多数の団体から資金提供を受けているが、主な資金提供者は競馬賭事賦課公社(Levy Board)および競馬財団(Racing Foundation)であり、同財団は5年間で45万ポンド(約9,000万円)を拠出した。

 同財団のタンゼイ・チャリスCEOも、NRWが正しい方向に成長しているのを見てきた。その活動範囲の広がりこそが、NRWのこれ以上ないほどの健全さを示す一面なのだと強調する一人だ。

 「この3年間、地域とのつながりや支援活動に対して重点的に資金を提供してきました」と同氏は述べた。「若い人たちを厩舎に呼び込む、馬を学校や介護施設といった地域社会に連れていく、新たなファン層を開拓する、若い人や都市部の多様性のある地域社会に影響を与える、競馬を身近なものにするなどの活動です」

 「私たちが目指すのは、社会への影響と社会における存在意義、新たなファン層の開拓です。こうした活動は、競馬の持続可能性を支えるという当財団の慈善活動の使命に、まさしく合致するものなのです」。

 しかし、幅広い業界の賛同や参加が得られないかぎり、世界中にどれだけ資金があっても目的を達成することはできない。チャリス氏を特に勇気づけたのは、垣根を超えて共通する熱意だ。

 「NRWは競馬に関わるすべての人が一丸となって、実現に向けて取り組んでいるという点で唯一無二のプロジェクトなのです。みんなで力を合わせれば、どんなことができるのかを体現した素晴らしいお手本です」と同氏は述べた。

 「英国ジョッキークラブ所有の競馬場、アリーナレーシング社(Arc)所有の競馬場、独立運営されている競馬場が協働しているのを見てきました。また、馬専門誌のホース&ハウンド(Horse & Hound)から地元の下院議員や育児情報サイトのマムズネット(Mumsnet)に至るまで、幅広い関心が寄せられています。このプロジェクトは、原点を見失うことなく、当初の目的を遥かに超えて成長しました。その原点は、今なお、どのイベントでも特に強く伝わってくる、スタッフがいかに馬を愛しているかということにほかなりません」。

 ホイットフィールド氏は競馬界におけるプロジェクト参加関係者の幅広さについても、同じことが言えるとした。

 「これまで、モータースポーツ産業やセーリング業界のプログラム、その他のスポーツの分野で経験を積んできました。しかし、競馬界がやっていることと同じことを、しかも無料でやっているスポーツ業界なんて、他にはありません。しかも、競馬界では現場スタッフ、調教師、牧場のオーナー、引退馬の再調教スタッフのみなさんによって、しっかりと実現されているのです。自分たちのイベントだという自負があり、まさに信じがたいほどの熱意を持つ競馬関係者のイベントだと言えるのです」と同氏は語った。

その種のネガティブな話はすべて真実ではないと知っている

 NRWの活動の大半は、サラブレッドの魅力を披露するために企画され、結果を残しているものだ。

 「馬は馬房の奥でじっとしていることなどできない好奇心旺盛な生き物です」とホイットフィールド氏は話す。「馬たちと触れ合った子供たちを見てきました。都会からきた子供たちのうち、何人かは初めて馬を触った子もいました。こういった思い出は心に残り、中には最終的にこの業界で働くようになる子さえいるのです」。

 実際のところ、マリンズ師の厩舎は、競走馬を間近に見たことが人生やキャリアに大きな影響を及ぼす可能性もあるというのを示すよき手本なのだ。

 「人材採用の面では、とても助かっています」と同調教師は話す。「オープンデーに両親と最初に厩舎を訪れたことをきっかけにうちに来てくれた若いスタッフがかなりいます。乗馬学校に通っていて、競馬に関わる仕事がしたいという12歳~13歳の子です。ほら、ちょうどその窓の外にいる2人もそうです」。

 これが、学生のスケジュールに合うようにNRWの開催日程を変更した一因でもある。日程を変更したことにより、1週間を通して、さらに家族で楽しめるイベントになるのだ。報道によれば、かつては閑散としていた曜日にも参加したいという要望があるため、調教師たちはそれに応えようと参加枠を増やしているそうだ。

 しかし、NRWは依然として、その中核に馬の福祉という重要な基本理念を据えている。さらに、関心を持った一般の人々に対して、競馬界が馬の福祉に関し、どれほど多くのことを実践しているかを言葉ではなく行動で示すことの必要性もその中核を担っている。

 「競馬界の人間なら、その種のネガティブな話はすべて真実ではないと知っています。馬は生まれた日から、競走馬を引退してその後のセカンドキャリアを終えるその時まで一貫して、しかも近年はますます手厚くケアされていることを知っています」とマリンズ師は話す。

 「我々のオープンデーには、馬専門の歯科医や装蹄師も呼びますし、調教や再調教の実演も行います。そこでは、うちの厩舎にいた引退馬を引き取り、その後見事に活躍させていらっしゃる現在のオーナーの方々にも登場してもらいます。これは、一般の方々に我々の活動を見ていただく絶好の機会です。中には、我々の日々の取り組みについて、疑念を抱いている方もいらっしゃるかもしれませんからね」と続けた。

 「話しても分かってもらえない人もいるでしょう。しかし、中立の立場を取っている人の中には、柔軟な考え方をする人も多くいます。NRWの1週間は競馬そのものだけではなく、4本足の素晴らしい生き物に注目していただく絶好のチャンスなのです」。

 NRWの目的にメッセージの発信があることは間違いないが、それだけではない。広範囲にわたって波及効果が生まれることもある。例えば、オープンデーは意義ある目的のために資金を調達する機会にもなるし、熱心な調教師たちにとっては自らの厩舎を宣伝する好機にもなっているのだ。

 「オープンデーでは、地元の病院を支援する慈善団体と競馬関連の慈善団体のためにチャリティーを開催しました」とマリンズ師は話す。「入場は無料ですが、オークションを開き、結果的に多くの人に参加していただいています。

 「オープンデーの参加者は50人から500人以上にまで増えました。もっとも、このイベントがきっかけでJ.P.マクマナス氏のような大馬主が顧客になった、とまでは言いませんよ。でも、うちでは一口馬主のクラブや共同所有もやっています。どんな形であれメディアに取り上げてもらえるのはプラスです。もっとも、それが目的でやっているわけではありませんが」

 「マリンズ厩舎にとっては、厩舎をアピールすることにとどまらず、競馬界全体に何かをお返しできるまたとない機会なのです」。

心から誇りに思える活動

 5年目となったNRWは、大方の意見としては成功したと捉えられている。マリンズ師は「マイナスな点は見当たらない」とし、関係者には例外なく、多数の恩恵があると述べた。

 競馬に対する無知との闘いは続いている。どれだけ動かしがたい事実や心温まる個人的な経験を共有したところで、ほんの一部の人たちを説き伏せることは不可能だが、これまでの経験から理性的な中立層には、競馬が本来持っている魅力をありのままに伝えると、好意的にとらえてくれる人がどんどん増えていく。競馬信者たちのように、時には競走馬そのものに恋に落ちることだってあるのだ。

 「私にとって重要なのは、業界が一丸となり、『ゆりかごから墓場まで』馬たちの面倒を見ることです。口先だけでなく本気でやらなくてはなりません」と、ミューア氏は率直に締めくくった。

 「我々は情報をすぐに活用できる社会に生きており、競馬界は最近、その点において攻めに転じてきました」とマリンズ師は主張し、競馬界のメッセージを広めるうえで、NRWが価値のある「大きな後押し」になっていることを強調した。

 チャリス氏は、学校が休みの時期に、より多くの子供たちと関わりが持てることを特に喜んでいる。

 「次世代が大切なのです」と同氏は述べた。「アンケートによると、参加者の100%が競走馬とのふれあいはその日の気分や心の状態に良い影響をもたらしたと回答していました。これは本当に素晴らしいことです。是非、若い人たちに知ってもらいたいです」。

 一方、ホイットフィールド氏は、NRWが及ぼした5年間の影響を満足できる前向きなものであると総括する。ただし、自己満足に陥っているわけではない。

 「(NRWが始まった当初は)これが競馬界にとってどれほど影響力のあるものになりうるのか、どれくらい好意的に受け入れてもらえるのか、どのように成長をし続けていくのか、誰も分かっていなかったと思います」と同氏は語る。

 「さまざまな考え方に対して閉鎖的にならないのは大切なことです。依然として参加者の多様性を高めたいと考えていますが、これまでに遂げてきた進化については大変嬉しく思っています」

 「競馬にはたくさんの課題があり、自己批判に陥りがちです。しかし、NRWは私たちが心から誇ることができる活動なのです」。

By Peter Thomas

(1ポンド=約200円)

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