小規模競馬場の運営課題について(アイルランド)【開催・運営】
アイルランドで独立経営されている複数の小規模競馬場の経営層が経費の高騰、放映権料の減収、規制強化による運営の厳しさについて語った。ある競馬場の場長は、サーリス競馬場の閉鎖について、他の競馬場も後に続く可能性があり、競馬界に対する厳しい警告として受け止めるべきであるとした。
先週の8月1日(金)、モロニー家がサーリス競馬場を即時に閉鎖することを発表した。閉鎖の決断を下した主な要因として「業界の要求事項および運営費が増加の一途をたどっていること」を挙げた。
トラモア競馬場長オーウェン・バーン氏は、特に放映権料収入が減少していることから、小規模競馬場は危うい立場にあるとした。
「サーリス競馬場の閉鎖は業界にとって打撃であり、ほかの小規模競馬場に対する警鐘であるととらえるべきです」と同氏は話した。「どの競馬場にとっても、非常に憂慮すべき状況です。放映権料の収入減が極めて大きな要因となっています」
「トラモア競馬場は入場料収入が非常に堅調で恵まれていますが、当競馬場の主な収入源も放映権です。当競馬場のような多くの競馬場では、よくても収支はトントンといった状況でしょう」。
2024年~2028年の放映権契約が競馬場メディアグループ(RMG)/SIS社(Sports Information Services:)とすべての競馬場との間で交わされたが、その条項には各競馬場の2022年の収入と同等額を保証するとした緩和措置が含まれている。レース毎に定額の放映権料が支払われていた以前の契約とは対照的に、各開催の発売金に応じて放映権料が支払われる。
特にサーリス競馬場は、この契約に当初反対を表明していた5競馬場のうちの一つであった。同競馬場以外に反対していたのは、キルベガン競馬場、ロスコモン競馬場、スライゴ競馬場、リメリック競馬場だった。
アイルランド競馬監理委員会(IHRB)とホースレーシング・アイルランド( HRI)が6月に発行した「競馬場マニュアル」が、サーリス競馬場の衝撃的な閉鎖を招いた一因ではないかとの見方がある。このマニュアルには、散水の要件をはじめとするアイルランドの競馬場向けの基準が明記されている。
ティペラリーにあるサーリス競馬場には散水システムがなく、開催が中止された冬季の乾燥した気候も衝撃的な決断を後押ししたと考えられている。システム導入には法外な費用が掛かる。
IHRBは8月3日(日)にコメントを発表し、マニュアルが「即時または柔軟性のない義務」を競馬場に課すものではないとした。しかし、バーン氏はマニュアルに記載されている内容は実質的な要件だと受け止めている。
「何かが文書化されたら、それは瞬時に要求になりえるのです」と同氏は語った。「施設の改善要求に関して言わせてもらえれば、誰もが施設を改善したいだろうし、我々も自分たちでできる範囲で改善してきました。基本的な基準を設けるのはもっともなことではありますが、その基準のいくつかが非常に厄介で、費用負担が大きすぎるのです」
「開催が12日ある競馬場にも、開催が20日ある競馬場と同等の基準が求められます。我々は20開催分ではなく、12開催分の放映権料しか受け取れないのです。これでは、つじつまが合いません」
「マニュアルに明記された基準のうち、いくつかに対応するよう迫られたら、他の競馬場もサーリス競馬場のあとに続くことは間違いありません」。
同氏はさらに「IHRBが競馬場と協議中であり、スケジュールも提示しているとコメントしたことが報じられていますが、競馬場の大半は検量室や食堂などの大規模な改修に必要な資金を自ら賄うことができず、求められている基準を満たすことはできないでしょう」と述べた。
「競馬場の大半は競馬のためだけに運営をしているのですが、時にこれは忘れられがちです。トラモア競馬場から配当を受け取っている人など皆無です。得た収入は一銭残らず、全て競馬に還元されています」。
リストーエル競馬場理事で著名な競馬写真家でもあるパット・ヒーリー氏は、経費が膨らみ入場者数が減っていることに加えて、放映権の契約内容が競馬場を困難な状況に陥れていると感じている。
「今の契約はやっかいなのです」と同氏は述べた。「ファンが馬券を買いたくなるような競馬にしないといけません。以前はレースごとに一定額の支払いを受けていたので、収入額が把握できていました。しかし、現状の契約ではそれが分からないため、なかなか難しい状態です。今では、みんなこのことに気づいています」
「何かを改修しようとした場合の経費が2年前から40~60%も上がってしまいました。しかし、入場料は値上がっていません。大きなレースのある開催では入場者数は何とか持ちこたえていますが、それ以外の開催では減少してきています」。
競馬場マニュアルにおける「裁量の余地」
ヒーリー氏は競馬場マニュアルの導入に関して、むしろ中立的な立場を取っている。
「難しい問題です。IHRBの立場も理解できます」と同氏は話した。「IHRBは各競馬場の施設を改善しようとしており、それは悪いことではありません。個人的には、IHRBが圧力をかけてくることはないと思いますし、裁量の余地はあると考えています」
「競馬場の施設を改修する必要があると指摘されていますが、悪いことではないと考えています」。
南西部に位置するウェックスフォード競馬場長アーシュラ・シノット氏もヒーリー氏の考えに同調しており、ここ数年間は「収支はトントン」の状態であると述べた。
「競馬場マニュアルはロードマップです」とシノット氏は述べた。「各競馬場にプレッシャーを与えようとしているのは間違いありません。これらの基準は収入を生む観客エリアではない施設に関する要求だからです。ただ、業界全体を長い目で見れば、良いことでしょう」
「経費の増大や放映権収入の減少が重くのしかかっており、厳しい状況ですが、我々は楽観的です。毎年、ほかの競馬場同様に開催日数を増やせるよう働きかけています。それが、経営に大きく影響を及ぼすのです」
「ここ2年間、収支はかろうじてトントンにとどまりましたが、厩舎新築の設備投資のために多額の資金を投入しました」。
HRIは競馬場の設備改修の資金を40%まで補助している。シノット氏はこの補助率を引き上げてほしいと考えている。
「私が望んでいるのは、自分の競馬場だけではなく、全ての競馬場に対する補助金が増額されることです」と同氏は述べた。「50%まで補助してもらえたら、本当に助かります」。
By Denis Harney
[Racing Post 2025年8月6日「'The maths don't add up' - Irish racecourses sound alarm over rising costs, increased regulation and reduced media rights revenue」]