固定オッズ賭事は競馬に新しいプレイヤーをひきつける(アメリカ)【開催・運営】
今年の愛ダービー(G1 6月30日 カラ)で経験したことから、また北米のパリミュチュエル賭事の売上げが横ばいであることから、私は"米国競馬界は固定オッズ賭事をまるごと受入れないから新しいファンを引き込む絶好のチャンスを逃しているのだ"という確信を強めた(訳注:パリミュチュエルは売得金の一定率を馬券購入者に均等に払い戻す方式。日本もこの方式)。
説明させてほしい。
休暇中にいち競馬ファンとして、アイルランドのビッグレースを観戦する幸運に恵まれた。そこで思い切って、パドック脇にある独立ブックメーカーが陣取っているエリアに足を踏み入れてみた。気に入った馬に妙味あるオッズがついているのを探し回るのはすごく楽しかった。ブックメーカーの店主たちはファンにオッズを知らせようと全力を尽くしていた。本命の一頭に同業者のなかで一番高いオッズをつけているのにはっと気づくと、それを大勢に伝えようと大声で叫んだ。
ここではこのオッズがついているが、あっちでは半分のオッズがついている。こういったことは、勝馬予想をちょっとおもしろいものにしてくれる。馬券になじみのない人なら、ずっと欲しかった物がセールで手ごろな値段で売られているのを見つけたときの気持ちに似ているだろう。固定オッズ賭事では決まったオッズで馬券を買う。一方パリミュチュエル賭事ではオッズは変動しつづけ馬券発売を締め切ったときに確定する。通常それはゲートが開くときで、最終集計はレース発走後になる。
6月30日にカラ競馬場でパリミュチュエル方式であるワールドプールの馬券が発売され、ワクワクする機会がもたらされたことにも触れておかなければならない。つまり選択肢があるのは良いということだ。
北米で固定オッズ賭事がモバイル端末・インターネット・SNSをつうじてどのように展開されるだろうか、あらためて想像せずにはいられない。競馬ファンは勝馬予想をするだけでなく、どこで馬券を買えばオッズが高いかについても話し合う。競馬場でオッズを叫ぶブックメーカーの店主のようにこうした賭事基盤でも情報が発信され、そうすることで合法化されたスポーツ賭事のプレイヤーの多くに競馬を宣伝することができるだろう。
固定オッズ賭事は賞金や競馬場に資金提供するという契約のもとで運営しなければならないが、勝馬投票を活性化させることはあっても、パリミュチュエル賭事に悪影響を及ぼすことはないだろうと考えられている。競馬界はピック4・ピック5・ピック6(訳注:WIN5のような重勝馬券)といったパリミュチュエル賭事の馬券のマーケティングで一定の成功を収めている。むしろ、新しいプレイヤーは固定オッズ賭事をつうじて馬券を買うことで自信をつけ、こういった複雑な馬券に挑戦するようになるだろう。
現状では固定オッズ賭事を提供する州はわずかである。パリミュチュエル賭事はひきつづき減少傾向か横ばいの状態にある。ケンタッキーダービー(G1)の発売金は過去最高となり、ベルモントS(G1)も三冠達成がかかっていない年としては最高の発売金を誇ったが、米国競馬の第2四半期(4月~6月)の発売金は0.45%減少した。しかもこの時期の競馬開催日数はほぼ同じで、昨年の1,039日に対し今年は1,036日だった。
2024年上半期(1月~6月)の発売金は前年同期比で2.05%減少している。回復がなければ、コロナ禍で好調だった2021年から3年連続で発売金が減少することになる。発売金は経済指標としては不完全だが、このレベルの減少は、コロナ禍のあいだ競馬界にチャンスを与えた新たなプレイヤーが離れてしまったことを示唆している。
そのようなプレイヤーが定着しなかった理由のひとつが馬券の満足度にあることを競馬界は考慮すべきだ。それぞれ経験できることを考えてみよう。スポーツベットで大口賭けを行う顧客は、いろいろなサイトを回って高いオッズを見つけることをすでに知っている。そして納得できるオッズで固定し、ゲームの結果を見守る。そのようなプレイヤーはパリミュチュエル賭事に参加すると、単勝4倍で買えたはずの馬券でも単勝3倍分の払戻金しか支払われないことがある。このようなパリミュチュエルの経験では、プレイヤーは馬券を的中させたとしても固定オッズと比較すると負けたも同然の気分になってしまうのだ。
2021年の発売金増加は、はけ口を探すスポーツファンやプレイヤーによってもたらされた。彼らがすぐに理解できる固定オッズという賭け方で、こうしたグループにふたたびアプローチしてみてはどうだろうか?
By Frank Angst
[bloodhorse.com 2024年7月9日「Dollars & Sense: Fixed Odds Could Attract New Players」]